航空機のニアミス事件から知る国民性

マスコミは最近、加藤寛一朗さんを使う
 加藤先生の著書はほとんど全部持っているが、あえて反論はしないが「教授」故の、先生の視点が見えかくれしている。加藤先生がこのボードを見ることは無いと思うが、加藤先生の複合材料を用いたゼロ戦の物語(本はどこかにあるのだけれど、二度と読む気がしないので、本棚の肥やしになってしまった)はチョー駄作である。ま、本論とは全然関係ないが。
 昔ならば「マッハの恐怖」を著した柳田邦男さんが定番なのだが、時代は変わったってことか。
 さて、今回の「事件」はけが人が出たってことでマスコミが飛びついたのだが、ワイドショー的な番組では解説が専門的すぎて、消化不良を起こしている。「報道」の一翼を担うと宣言していたワイドショーの供給側の化けの皮が剥がれたのだ。情報の伝達には「分かりやすくする」機能がメディアに求められている。がしかし、ワイドショーはその責務を果たしていないじゃないか。こんな怒りを僕は感じる。センセーショナルな事柄は世の中にたくさんある。でもね、「自分の生活に直接的に影響する事象」とセンセーショナルな事象は違って、江戸の庶民のタブロイド版の役目しかワイドショーはやってないじゃないか。痴情の問題で誰かと誰かがなんかなったってのは我々の生活になんも関係しない。「覗き趣味」感覚では楽しいが、それはジャーナリズムとはかけ離れたジャンルだ。
 マスコミ全体も勘違いしている。今回の事象は日常茶飯事で、犯人探しはババひきのババのカードを持った人間を見つけるだけで、その結果何かが改善されるものでもない。そんな、昔からの航空事故に対するあいも変わらぬ警察の対応、マスコミの対応にはまったく進歩が無いと、あきれかえる。
 加藤先生も、もちっとこのあたりをチクリ、チクリと言えば良かったのにと思う。

怪我はニアミス後に起こっているのか
 事故の初期から流れてた情報だが、どうもJAL907便のマイナス0.6Gの急降下はJAL958便とクロスした後に、回避運動とは別に起きたらしい。マスコミの女性管制教官と新米(3年目)の問題とした先走りが急ブレーキになったのは、ここに原因がある。それでなくても、マスコミによる不当な人権侵害が問題視され、そのための不当を訴える仕組みも出来て、マスコミは急に臆病になったようだ。
 業務上過失傷害を問われるのはJAL907便の機長側になるかもしれない。その遠因は管制ミス(ミスの表現は問題がある)かもしれないが、直接の傷害は「不必要な機長の急降下」にあるかもしれないのだ。
 だからJAL907便の機長に責任があるとかは僕は言わない。クロスした後に(衝突の危機は過ぎたのに)何故急降下したかを明らかにするのが大切な事なのだ。同じ様な場面で陥りそうな事象を体験者を通じて事前に知っておくことがいかに事故の再発に重要か。
 とまぁ、ここまで書いてみたら本日(2/9)の朝日新聞報道によると急降下はニアミス中に起こったと分析結果が出たとのこと。どうも単純には信じられない。事故直後の報道ではJAL907便の機長が「高度差は10メートル」と語ってる。実際のレーダー分析でも60メートル程だったらしい。どちらの機長も間に弁護士を立てる方針なので詳しい情報は解らないが、少なくとも目視したのはJAL907便側である。とすると、JAL907便はJAL958便の下をくぐり抜けたと見て間違い無いだろう。
 飛行機の操縦席の構造を考えれば解るが、現在の旅客機のコックピットからは前方水平より少し下は死角になる。また両サイドも下は死角である。上空をクロスしたJAL957便には下を通過(それも横から斜めに)したJAL907便は見えなかっただろう。

衝突回避に「急降下」は無い
 さて、事故原因の少しアプローチしてみよう(素人のげすの勘ぐりは十分自己認識しているが)。JAL907便に降下の指示を東京航空交通管制部の管制官が出したのは事件の「引き金」の部分。これ単独でニアミスまで行くことは無い。あえて無いと断言するのは、この時にJAL907便の機長が再確認しながら問題の機は見えている(インサイト)と無線で言ってる(これって、機長なのかなぁ。副操縦士が主に無線関係、機長は操縦関係ってのが通常の業務シフトなんだが)。
 さすがジャンボ、DC−10クラスは違う。この時点で両者の距離は70km離れている。「大空のサムライ」の著者である坂井三郎さん(当時視力は3.0らしい)が空中戦での見張りの項で「10km先の戦闘機を見つけられるかどうかが勝負のポイント」と書かれている。戦闘機に比べて旅客機は大きいが、それでも70km先で見えるのだなぁ。
ちなみに多くの旅客機の巡航高度は3万フィート、約10kmである。ところが、航空路の真下に居ても、コントレール(飛行機雲)を引かない限り我々が機体を目視することは無い。上空は空気が澄んでいるとは言え、70km先が見えるのだなぁ。ちなみに、今日は見通しが効くなぁと我々が思う時に見える距離は80km。昔は空気が汚染されてなかったので120kmだったそうである。大気汚染は見通し距離に如実に現れてくるらしい。
 さて、JAL907便からはインサイトのJAL958便であるが、こちらは無線状況が悪く、JAL958便への東京航空交通管制部からの連絡を十分に受信できていなかった。
 航空無線では周波数110MHz帯のAM変調の電波を使っている。ま、昔からのものだからAM変調なのだろうがこれだけスペクトラム拡散とか電波の技術が進歩したのに、航空無線は音声無線の原始時代のAM変調である。FM変調と比べて電波の占有帯域が狭くてたくさんのバンドが取れるてメリットはあるだろうが、アマチュア無線から見ても、古き良き時代のノスタルジックな変調方式である。現に、今回の事件でJAL957便では「JAL907便への連絡は聞こえなかった」と言っている。たしかに、音声明瞭度が悪く日本人の話す英語を聞き取るにはAM変調では難しいと思う。人間の命を預かる航空交通管制がAM変調の音声しか伝達手段が無いのはいかがなものかと思うのだが。
 さて、常識的に上昇中のJAL907便にニアミスの恐れがあるから降下せよって指示はおかしい。ただ、ニアミスの相手が水平飛行のJAL957便と解っていたら言えることだ。JAL907便には「インサイト」ではあるが、それが該当ニアミス機とは解らない。だから報道にある「おかしいと思い、再度確認の復唱をした」ってJAL907便の機長の談話はおかしい。該当ニアミス機は視界に入らない後ろから来ているのかもしれない。「おかしいと思い、再度確認の復唱をした」は正確に表現すると「合理的では無いが何かあるのだろう。高度を下げる行動に移ったことを連絡しておこう」が正しいと思う。
同時に航空交通管制部からJAL958便に衝突を避けるために「右に旋回せよ」と指示が出ている。この時点では両者のTCASが指示を出していて、JAL907便には「上昇せよ」、JAL958便には「下降せよ」が表示されていた。
 マスコミの報道が不正確なので付け加えるがTCASは「衝突防止警報装置」である。NHKを筆頭に「衝突防止装置」と言っているが、これは間違い。あくまで「警報装置」なのだ。

ニアミス回避はTCASの指示
 JAL907便の機長は東京航空交通管制部の指示に疑問と言うか合理性に欠けると思っていた。高度を下げようとするとTCASから上昇を指示された。結果論だがこの時点で「ウイ キャンセル ユア リクエスト。TCAS SAYED アセンディング」とコールしてエンジンパワーを入れて上昇に転じるべきだっただろう。「降下中だからこのまま降下する」てのはTCASの機能を熟知していない。該当相手機に何が指示されているか知っていたなら「無謀」としか言いようが無い。
 ここは機械の指示を信じるか自分の勘をを信じるかはなはだ難しいグレーゾーンである。状況から読み取れるのはJAL907便の機長はTCASよりも自分の勘を優先し、JAL958便の機長はTCASの指示を優先したのだ。で、結果は降下を続けるJAL807便が最後の場面で「急降下」で回避したのだ。そして乗客乗員に負傷者が多発した。
 TCASの指示に従うためには降下中のJAL907便はエンジンのパワーアップしながら上げ舵をとる必要があるのだが、当時の降下率ではエンジンにパワーを入れて反応するまで数秒、その反応を受けて機体が上昇を始めるのにさらに数秒を要するので、降下を続けたのかもしれない。
 JAL958便の機長はTCASの指示を信じて降下を開始した。この降下は通常の範囲の降下率である。この時点でJAL907便の機長の不可解な行動がある。一旦降下を止めて上昇をしようとしたのだ。談話によると「上昇をしようとしたが上昇率が低かったので降下を続けた」と言うものだ。
 飛行機はエレベーターを動かせば上昇するのでは無い。短時間な挙動(マニューバー)は可能だがエンジンパワーの裏付けが無ければ速度が低下して揚力が不足し高度を失う。JAL907便は降下を続けながら次第に右に見える航空機が同高度で接近するのを目にしただろう。不幸な事に通常の配置だと機長席は航空機の左側になり、機長は右からの航空機は副操縦士側(反対側)の窓を通してこの便を見ることになる。
 航空機の衝突に至るプロセスは当事者同士には「相手が常に止まって見える」って経験則がある。降下中のJAL907便では現在の降下率では確実に衝突と思われた時に降下率を増加させて回避するしか無い(既にエンジンは絞っていただろうから)。
1分間3000メートルの降下率(急降下)の瞬間機内はマイナス0.6Gになった。実際はエレベーターによる降下なので瞬間的には機体の前方でマイナスG後部ではプラスGだった。そして引き上げの時に機体後部ではマイナスGからプラスGへの急激な変化があり、一瞬上部に吹き上げられた後に床にたたきつけられただろう。この間機体全体のG変化とは別に機体後部で急激なバフェッテイングが有ったと思われる。

再発防止に資することが国民の利益
 アメリカへ出張の時にトライスターで乱気流に(正確にはジェット気流との境界層に)巻き込まれマイナスGを体験したことがある。18時頃に成田を離陸して夕食も終わり深夜の0時頃(日本時間)だっただろうか。機体はトライスターの600型、デルタ航空であった。ギャレーの近くの席だったのでギャレーの中が見えたのだが、エアーアテンダントの身体が横に浮き両壁に手を突っ張って支えていた。客室のカバン等が一瞬浮いたがその後の急激なGで逆に動けなかった。
 マイナスGの瞬間の無限への落下と感じた瞬間、逆に急激なGが戻ってほっとした記憶がある。実は国際線ではわりと日常茶飯事なのだ。当社の同僚にコーヒーが目の前でコップから出て空中を舞っている瞬間を体験した者も居る。よせば良いのにアメリカからハワイ経由で戻った帰路でのこと(ハワイでのゴルフが貴重な経験を与えたのだが)。
 つまり飛行中はマイナスGが有ると考えておけばシートベルトを外したり、荷物を通路に出したりは出来ないってこと。その備えは国際線では徹底されている。特にギャレーで何かを出しっぱなしにしている事は厳禁である。国内線ではアテンダント不在なのにギャレーにコーヒーサーバーなんか置いたままになってる。ま、マニュアル以前の躾の問題だとも思ったりするのだけれど。
 今回のJAL907便のアテンダント全員が負傷してしまった。申し訳ないないけれど非常時に備える姿勢が弱かったのではないだろうか。JALなのだから国際線の経験を持つ客室乗務員も居たと思う。他社の国際線(と言ってもデルタ航空とコリアンエアーしか知らないが)は結構シビアに危機管理をしている。
 同じく操縦側にも問題があったと思う。1分間3000メートルの降下をしなければならない(それも衝突の相手機に向かっての降下)事態はTCASへの理解が乏しいとしか思えない。何のために巨費を投じて全航空機にTCASを装備したのか。そもそも航空交通管制が100%機能していればTCASなんかいらない。がしかし、そのフェイルセーフとして導入したのではないか。にも係わらず「TCASに従うかどうかは機長の判断」ってマニュアルはおかしいと思う。このあたりマニュアル化の時に機長会あたりが横槍入れたりしていないだろうなぁ。
 それから警察は事故調の調査結果を受けて捜査に入るべき、もしくは事故調が入ったら警察は手を出さないとかのルール作りを法制化すべきである。このあたり本当、日本の政治家は無能である。立法府なのだから、積極的に立法化すべきである。事故の再発防止が何よりも優先するのであって、責任者(刑事、民事上の「被告」)探しなんか再発防止には100%必要無いのだ。
 またもや刑事訴訟の横槍が事故の本質と対策へのアイデアに蓋をしている。これで良いのかって視点が誰にも無い。まったく稚拙過ぎる、我々日本人。

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2001.03.23 Mint