日本的経営を守るのか、破壊するのか
株主の権利が日本の企業を変えた
数年前から株主代表訴訟制度に見られるように株式会社において株主が冷遇されている実態を改善すべく法整備が進められてきた。
裏を読んでみるとアメリカから日本への投資を行うときに企業経営がアメリカ式で無ければ不便でしょうがない。だから、株主の権利行使をアメリカと同じくしろって「外圧」が有ったのかも知れない。
それが世界の常識にように思いこみ、日本は「遅れている」のだから直さなければと考えたのだろう。しかし、日本的株式会社は日本の文化風土に根ざしているのだ。戦後の発展を支えたのは日本的株式会社制度そのものなのだ。そこを変えては日本の企業経営が大きく変わるのだと認識し、そのセィフティネットを張らないのは政治の不作為である。
日本的株式会社では企業は雇用の場である。企業の目的は利益では無く雇用に有るのがなんとも日本的なのだが、ここが揺らぎ初めて氷河期などと呼ばれる雇用不安が発生しているのだ。景気が悪いのでは無く、企業経営が180度変わらざるを得ない状況に陥っているのだ。特に、外国人投資家を抱える上場企業では「企業は株主の為に利益を生み出す機関」(これを、「企業利益機関説」とても呼ぼうか)を余儀なくされたのだ。
政治が日本的企業経営を議論すべき
政治家にその余裕が無いのであれば世界になだたる旧通産省、現通商産業局が制度改革による産業の動向予測をすべきであった。いや、本当は政治主導で研究を指示すべきであるってのが正しい選択なのだろう。
素人目にでも10%を越えるヨーロッパの失業率が何に起因しているのか、それを改善するためにイギリスは自国の企業を外国に売り渡してしまった、これは何故なのかを研究する時間は十分(10年)有ったのだ。自国の産業が外資に乗っ取られるのを指をくわえて見ていたイギリスのように日本が今後成らない保証は無い。現に日本の企業の多くが外国に売られている。山一証券、日本リース、みんな体力の無い日本企業には手が出せず外国に安く買われたではないか。
株主から見たら企業は利益を生むために存在し、利益を上げるために労働者は原材料と同じである。不要になれば利益を確保するために解雇し、必要な時はまた集めれば良い。そんな位置づけになる。失業率は常に5〜10%の間に保たれ、必要な時に雇用できる労働力の流動性が有る社会が株主には望ましい。
松下幸之助の「ダム式経営」
大阪の商工会議所の講演会に呼ばれた松下幸之助は「企業は景気の波を乗り切るために利益を溜め、必要に応じて使うダム式経営が必要だ」と述べた。まだ、松下幸之助が社長で居た頃の話だ。それから20年ほどして一人の男がパーティの席で「松下さん、やっぱダム式経営でんなぁ」と声を掛けてきた。この男こそ京セラの稲盛和夫社長だったのだ。
景気変動に備えてダム式経営を行う。これは戦後の企業に共通した経営方針では無かったのか。だから、利益は企業内に蓄えられたのだ。しかし、株主から見たら利益は株主に還元されるもので、企業内に蓄えられる筋では無いとなってしまう。好景気でも不況でも利益を絞り出すのが企業トップの経営手腕で無ければならない。だから、利益を上げられないなら経営者を変えてでも利益を出させる、それが株主の権利だとなってしまっては、松下幸之助と言えども株主から追い出されることになる。
現に松下は大幅な首切りによって不景気を乗り切ろうとしている。盛田社長が「うちは人材企業」と言っていたソニーですら首切りに邁進している。
多くの上場を果たした経営者が口にするのが「4半期決算報告のための経営者で、本当に企業を経営している気がしない」って事。情報を果たして会計事務所から指示されるまま動く、何のために上場したのか解らない気分になるのだろう。
低金利でも個人資産が株に流れない理由
100万円定期預金して満期が来て証書書き換えに出掛け、雨が降ったのでタクシーで帰って来たら利息から足が出た。なんて話がまん延する低金利時代だが、それでも個人資産は不満を抱きつつも預金され続ける。株に替えればリスクは有るが年利3%程度の配当を得られる。にも関わらず資金が流れない。
日本的風土では不労所得は汚らわしいもの、まして株式なんて山師のやるもの、庶民は不労所得には関心が無い。こんな風土が変わるには1世代30年は掛かるだろう。知らない会社の株主になって不労所得を上げるなんてとても人に言える行動では無いと。バブルのリスキーな所も目にしているから堅実が一番。と思っていたら堅実だと思っていた会社から解雇された、なんて事が起こる。
全部リンケージしているのだ。株主の権利優先→企業は利益優先、低金利時代→株価の低迷、金融の崩壊→持ち株解消→株価の低迷、株価の低迷→株主の経営への介入。
小泉改革も目に付いた矛盾をバッタバッタと切るのも良いが、将来どのような国にするのか方針を明確にして鉈をふるってもらいた。今のままだと「あのときの、あれがまずかった」って何も得られずに教訓ばかり残す改革で終わってしまう。
日本企業を外国に売り渡さない。そのために、あえて、国際的常識に反してでも国内企業を守る。そんな政治家が出てこなけりゃ、日本はアメリカの1州、いや、州に認められてる権利すら剥奪されて属国になってしまうのだ。このあたり最近亀井静が少し勉強しているようで、発言の端々に同様のポイントが出てくる。ま、でも土建屋的なのが政治家と思っているふしあるからなぁ。