市町村大規模合併反対論に反論する

上野村長は反対ですか
 全国山村振興連盟って団体がホームページを開設してまして、ここに群馬県上野村 村長 黒沢丈夫氏の「市町村の大規模合併論に反論する」が掲載されてます。
 折角ですから、これに反論しておきます。ちなみに、日航123便が墜落した御巣鷹がこの上野村にありまして、黒沢村長は旧日本軍の海軍で零戦のパイロットでも有った方です。当時(戦争中)の思い出を共著にした「丸」が僕の手元に有ったりします。
 ま、かなり飛行機オタクなもので、知っている訳ですが、この事をぬかしても、黒澤村長は有名人であったりしますので、この反論は結構影響力が多いと思います。ご一読の上、僕の再反論をお読みいただければ幸いです。
住民発議による市町村合併
 もちろん黒澤村長が僕の発言を目にして反論している訳もなく、基本は「住民発議による」って線では合意です。なんとなく書かされたって感じの反論ですが、最初に憲法に謳われた自治の思想を無視するものって考えは、稚拙ですね。自治の考え方は住民に有る民主主義の根元であり、その機関である役場の長が委任されているものではは無い。つまり、この論点を村長が反論の根拠としての切り口にするのはいかがなものか。僕は美濃部達吉じゃないけど、「組長機関説」なんですけどね。以下、黒澤村長の5つの争点に準じて再反論させていただく。
1 山村や離島の住民は自治への参加の機会を失うか。
まったく反論になっていない。合併により自治を失う住民が多いなんてのはナンセンス。それは合併が主たる原因では無く、社会インフラの整備、均衡有る発展を計れなかった自治体(つまり、機関)の無策故であり、なんら、合併によるものでは無い。
2 投資対効果論
それぞれの地域はそれぞれの特性に応じて投資を行えば良く、全て東京を規範とした社会インフラの整備である必要は無い。投資対効果の面からなんでも有線を引き回す通信インフラよりも無線を多用した通信インフラのほうが効率が良い地域もある。
「石橋湛山評論集、岩波文庫」を引用しているが、ここに書かれている自治は市町村のことでは無い。そんな単純な事も読みとれないとは情けない。これは現在の町内会的は行政組織としての自治体について語っているのでは無く、「地域と自治」って一般論である。これを反論のよりどころにするのは失当である。
3 大規模な自治
 その下部に小規模な自治が必要なのは解るが、これを言葉巧みに「自治体」とするのはいかがなものか。大規模な政令指定都市では「区役所」が有って、現に下部に小規模な「自治体」があるが、これは対象住民は3〜40万人であり、これにくわえて零細な出張所が有る。黒澤村長の描く市町村合併規模はどの程度なのか。まったく明示が無いが、僕は市レベル、つまり、5万に満たない自治体は周辺合併して5万程度の自治体を持つべきと考える。もちろん、広域であるが故の出張所制度は残す必要が住民感情としても有るだろう。でも、議会等の間接部門は大幅に削減できる。しかも自治貧民など発生しないように施策を打つことは可能な規模である。どれほど大規模合併を想定しているのか、明示しないで住民の不安を煽るのはいかがなものか。
4 国土面積当たりの投資効果のスケール
 特に異論は無いが、国の経営が納税者によってなされている事を考えれば、これを上位官庁に向けて話してもなにも効果が無いであろう。ここそこが上野村の村長である黒澤氏が国民に訴えるべき点であり、上野村の経営機関として国税収入増大もさることながら、豊かな村創造のために、論ずべき課題である。がしかし、公共事業依存の税金引き出し施策だけでは、自治は行えない。国民の税金は必ず、金も出すが、口も出す筋の資金である。それを引き出す機関が村役場だとしたら、もはや、自治が無いのではないだろうか。
5 まったく同感である。

やはり広域合併しか無いでしょう
 残念ながら黒澤村長の反論は、まったく説得力に欠ける。国が市町村に合併を勧告すべきで無いとの意見には同感。自治省の持つ権限の中に「合併勧告」が有るのは事実ですが、これを発動される前に、自治体として価値有る行政機関の地位を築くことが大事で、それによっておのずと住民から合併反対論がわきあがってくる。なぜならば、横並びの自治体では無く、富める自治体と富まざる自治体では住民感情として合併が難しいのだから。特に富める自治体側からの住民の反論が予想される。
 がしかし、町内会程度の差も無い隣接市町村では看板が変わるだけで内容が変わらないのなら、住民発議による合併すら提示されるかもしれない。その意味では、方や国からの合併勧告に反論する主張、もう一方では水面下のよりよい合併像のデッサンと2面からアプローチが必要であろう。
 組長も含めてトップと言うのは、常に多様なメニューによって危機管理を行う必要があるのだから。
 銀行や証券会社が潰れる時代に、それでは銀行や証券会社の社長は何をしているのかと言えば、役員会の席での発言は
1)それは、他の会社もやっているのかね
2)ところで、大蔵は了承してるのかね
3)で、君たちは、どう思っているのかね
だそうです。
これではたまらない。少なくとも町で一番大きな団体である役場が、健全な経営をしなくても親方日の丸で安泰と、組長が労組の委員長なみの仕事しかしていなければ、役場と言えど明日は、拓銀か山一である。それは、経営破綻ではなく、行政権剥奪である。住民発議によるか、自治省発議によるかは関係無い。
 将たる者は、つねにダモルケスの剣の下で、未来を見通した見識と、日々の判断をしていかなければならない。選挙に勝ってからが始まりなのである。次の選挙まで安泰では無い。それが、自治体の責任である。自治体すら潰れる。そんな危機意識が欲しい。

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1997.12.08 Mint