「正当防衛」じゃ無いだろうがぁ

口裏合わせの「正当防衛」
 政治家が行う政治は納得のプロセスと言える。誰も納得出来ないような言い訳では政治家の質を疑われる。今回の「不審船」問題で一番疑義をかもすのが「正当防衛論」。逃げる相手を自ら追って、そして威嚇射撃、さらに「船体を狙った威嚇射撃」(馬鹿マスコミの表現)ってのは「正当防衛」では無いだろう。
 そもそも、不審な行動に武力を行使するってのが「正当防衛」であると言うほど日本の国際感覚は育っていない。「不審である」ってことには武力を行使しないのが通常のコンセンサスを得た常識になっている。にも係わらず、今回の海上保安庁の発砲を「正当防衛」と言える根拠は何処に有るのだろう。たぶん、政治的な配慮が「正当防衛論」を言わせているのだ。そんなごまかしがまかり通る日本にしてしまったマスコミの罪は大きい。
 事件の予備的段階で先の能登半島での不審船取り逃がしの教訓を踏まえて「正当防衛の論理で行こう」と取り決めが有ったのだろう。現場の状況を知らない段階で小泉首相が「正当防衛でしょう」って会見するのはなんともタイミングが合わない。

時系列に問題を追ってみよう
 自衛隊からの通報を受けて海上保安庁が巡視船を向けて捕捉してからの行動は時系列に追ってみる必要がある。最初は停船命令、これに応じないので威嚇射撃だった。この場合「威嚇」とは直接的損害を求めない行動なのだ。だから、空に向けて撃ったり、進行方向の海面に向けて撃つ。ところが、ここで「直接船体を狙った威嚇射撃」って奇妙な表現が登場する。直接船体を狙ったのなら「射撃」である。決して「威嚇」では無い。
 で、この射撃を「正当防衛」と言っている。それは違うだろう。正当防衛ってのは自らの生命の危険を感じて執る行動なのだから、この場合相手は逃走し、しかも危害を加える行動を起こしていないのだから正当防衛の要因は当てはまらない。
 その後、臨検のために接舷しようとした時に相手は発砲して来たのだから、この時点で「正当防衛」が成立し、武力行使にお題目が出来る。つまり、逃げていく相手に対して「正当防衛」と言うのなら、国家の治安が乱された的な論理付けが必要なのだ。はたして、そこまで今の政府が踏み込んで議論できるだろうか。

最初の発砲は国家による殺傷であった
 まず断っておくが、今回の事件に関して相手の不審船が火災を起こす以前に相手からの発砲等の武力発動は無かったとの情報を元に今回のリポートを作成している。少なくとも、不審船の火災は不審船からの武力行使に対する行動によって起こったものでは無いようだ。
 人を殺すのは殺人罪である。だた、これが殺人罪にならない場面がいくつか有る。戦争ではより多くの敵対国の人間を殺した人間が英雄になる。殺人罪で罰せられるのでは無く英雄として賞賛される。もう一つは「職務履行」のための殺人である。職務に忠実であるために侵す武力行使である。ハイジャック犯人の狙撃等がこれに該当するだろうか。
 正当防衛による殺傷はこのどちらにも該当しない。自らの生命の危険を感じて行う武力行使である正当防衛は、極端な意見だが集団には認められない。生命の危険は生命個々の判断であり、「集団的正当防衛」って概念は本来の正当防衛論を歪める判断と言える。しかも、不審船は巡視船が「正当防衛」を主張する攻撃を、少なくとも船体火災の時点では行っていないのだ。だから「正当防衛」なんてちゃんちゃらおかしいのだ。
 そのおかしな論理を現場から2000kmも離れた東京で状況も解らない状態で主張するのはもっとおかしいのだ。マスコミが事象を時系列に整理して判断すれば何とも「まず、正当防衛論ありき」に気がついても良さそうなものだが。

業務執行規定の範疇だろう
 警察に「職務質問」の規定が有るように海上保安庁にも「職務質問」の権利を認めるべきだろう。そのたの法律改正は11月に行った。「職務質問」に対応しない行為を「公務執行妨害」として行使できる行動を拡大すべきだろう。「正当防衛ですね」なんて言ってる小泉首相は言語理解能力に欠ける。何故「職務遂行の行為の一環です」と言えないのか。
 職務を全うしようすすれば、夜まで時間がかからなかっただろう。朝に攻撃して逮捕って方法が執れただろう。「正当防衛」にこだわる故に、相手に撃たせるってのは現場の人間の生命をあやうくする。
 職務履行のための権限を現場に与えなくて、日本は自らの国を守れない。
投降テロの問題もある。韓国では投降して来た北朝鮮のスパイが手榴弾を投降後に爆発させ死傷者が出た事もある。捕らえたら自爆テロでは捕らえるより逃がしたほうが、降伏させるよりは殺傷したほうが現場の人間の生命を危うくしない。
ロケット弾まで用いているのだからもはや戦争である。戦争の論理では相手が投降(捕虜になる事を承諾した)しなければ殺傷する。まさに、平常時の警察の犯人逮捕行為とは違うのだ。このどちらで対応するかの判断を行政府の長として政治家が判断しなければいけない。今回の「正当防衛でしょ」はまったく他人事扱いであきれかえってしまう。

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2001.12.24 Mint