年金不払い>菅直人氏の失速は説明責任不備
危機管理は初動が全てを決める
小泉純一郎首相と比べると「運の無い奴」と思わざるを得ない。結局、代表の座を棒に振ってしまったのは年金を10ヶ月払っていなかったからでは無い。危機に対してあまりにも危機管理能力が無さ過ぎる、これでは次期政権を奪取することは出来ない。イラク人質事件での小泉純一郎首相と対照的な「運の無さ」と意識の低さを露呈してしまった。
「未納3兄弟」なんて言わなくても、あの時点で、まだゾロゾロ出るだろうってのは大方の読み。その全てが都合良く自民党、公明党から出るとは限らない。解りにくい年金制度の現状と民主党の主張する1本化が合理的であることを説けば良い。それを「未納、未納」と騒ぎ過ぎて天に唾して墓穴を掘ったのだ。
自分の未納が発覚した時も「行政の事務ミス」を全面に出した。本来国会議員が公務員を私的な事務に使うのは御法度、越権行為。それを知らずか「行政の事務ミス」を言った時点で別な嫌疑が発生する。これの修復のために奥さんが「あっしが、全部やりやした、お代菅様!」みたいに記者会見する恥を晒してしまった。
あの時点で閣僚関係で中川昭一大臣(1983年12月から滞納20年5ヶ月滞納)、石破茂大臣(2002年9月から滞納1年5ヶ月滞納)、麻生総務相(96年11月から3年10ヶ月未加入)が「未納3兄弟」だった。そして菅直人氏は厚生大臣の期間10ヶ月未加入だったのだ。
国民年金の複雑な所は「未加入」と「滞納」に分かれること。滞納は加入手続きを行っているが保険料を払わないケース。未加入は加入手続きをとっていないケースに分類される。だから「未納3兄弟」はまったく法律用語としては成立しない。「滞納、未納3兄弟」が正しい。
で、自らの未加入が発覚した時点で「行政の事務ミス」なんて言わないで「ミスで過去に10ヶ月加入していない時期があった、この10ヶ月分10ヶ月間歳費を社会保証施設で使ってもらい責任を果たしたい。事務手続きの詳細は事務方で詰めてもらう。」と開き直れば良かったのだ。
初動で後手を引いたので、ゴチャゴチャ言い訳してる間に、森氏に頼まれていやいや官房長官やるのに嫌気がさして何時でも辞めたるわい!って状態の福田康夫氏に辞任で一太刀浴びせられてしまったのだ。
3党合意の詰めの甘さ
悲願の年金1本化の言質を取りたくて付帯決議案を持ち出した頃には満身創痍の腰砕けになっていた。与党からのも相当なめられた形での3党合意を取り付けて、これで起死回生と本人は思ったかもしれないが、出てきて欲しくない天敵、小沢一郎氏が中途半端な3党合意を強烈に批判する。
権力以外に求心力を持たない菅直人氏にとって「代表の座は駄目になるかもしれない」と思われたときに取り巻きは潮が引くように去っていく。自分で「代表の座を禅譲はしない」なんて言っては、引き潮を強める作用にしか働かない。
この時点で菅直人氏本人は「国民への説明」と土日テレビ局のハシゴを続ける。飛んで火にいる夏の虫よろしくテレビ局は菅直人氏を叩き続ける。田原総一郎氏に至っては「どの面下げてテレビで釈明出来るのだ」(意訳)とまったく本人に話させない。どこのチャンネルでも説明では無くて釈明を繰り返す。最後の圧巻は18:30からの番記者で「明日の辞職に向けて、執行部は手続きを始めてるって情報が有るが」と突っ込まれ絶句する。
「非を認め、詫びて許しを請う」これってイラク人質3家族が最初にやっていれば、あれだけバッシングされなかったのにって、まだ記憶に新しい事例だ。それを学ばずに「非は無い」と主張するのが市民運動家やエセ左翼に多い。まさに、この盲点を突かれてしまった。
もしこれが小沢一郎氏なら「私は国家に命捧げてますよ、10ヶ月くらいの未加入で私の価値が下がりますか。それも単純ミスなんだから。マスコミは重箱のスミをつつくのに熱心だが、国の将来どう考えてるのか聞きたいよ」くらい開き直るだろう。菅直人氏の「直る」が出てこなかった。
正面突破抜本改革で攻める
3党合意を拒否している小沢一浪氏は既に夏の参議院選挙が視野に入っているのだろう。現政権を倒す強力な揺さぶりを参議院選挙での勝利で地盤固めしなければ、政権奪取のシナリオを進めて行けない。そのために3党合意が有っては戦いにならない。本気で参議院選挙に挑むなら3党合意は破棄。これが小沢一郎氏の書いたシナリオだろう。鳩山由紀夫氏が説得の先鋒になるのだろうが、この結果がこれからの日本の政界地図を新たに塗り替える程の激震に発展する余地はある。
なりふり構わず、横路孝弘氏とすら手を結んだ小沢一郎氏である。あのイラク人質3名救出中に「自衛隊撤退」を叫んだのも深慮遠謀の中での策であろう。参議院選挙に向けて自衛隊にけが人が出ただけでも、アメリカが弱腰のイラク政策を行っても、そして6月30日の政権委譲から大混乱が始まっても、与党に参議院選挙での勝ち目は無くなるのだ。いくら強運の小泉純一郎氏と言え度、現在は瀬戸際を歩いている。あと一押しで落ちる。そう踏んでいる小沢一郎氏は天の時、地の時、人の時を読んでいるのだろう。
野党は先手必勝の読みが必要
福田康夫氏の官房長官辞任は高度な戦略と言うよりも偶発的出来事だろう。大きな要因は北朝鮮問題が安倍晋三氏シフトし、更に外務省一任になった事で自分の存在感が無くなったこと。年金法案の衆議院提示まで自分の未納問題の公表を自民党の都合で封じられたこと。なによりも、親父の福田赳夫氏のカバン持ちだった小泉純一郎首相にあごで使われるのに嫌気がさしたこと。などが重なったのだろう。辞任のトリガーを引いた時期にたまたま野党第一党の民主党の代表にも未納(未加入)問題が発生していただけ。
この福田康夫氏の辞任の後の辞任では「戦う野党」の姿勢を示すことにならない。
先手で自ら辞めて与党を攻めるってのは破れかぶれの戦術で通用しないが、たかだか10ヶ月を22年も滞納した大臣と同等に扱われはしないだろうとの甘い読みがあった。説明すれば国民は理解する自己中心的な考えがあった。菅直人氏の一番良くない面、自己中心が出てしまったのと「ボンボンテレビに出てもキャスターにいじられるだけ」と提言する側近に恵まれなかったことが今回の、ま、菅直人氏風に言えば「重箱のスミ」が命取りになったわけだ。
与党には政権って求心力があり、どんなもめ事も「コップの中の嵐」に納めるが、野党は求心力が弱く一度何か発生すると嵐はコップの外にまで出てしまう。政権政党では無いのだから政権って求心力は使えない。とすれば、先手必勝、深い洞察力が求心力として求められる。ま、カリスマ性と言っても良いかも知れない。その代表を新たに出せるかどうかで政権奪取はスローガンなのか方針なのか決まってくる。