You-Tubeからの画像を「引用」
高知空港での胴体着陸を報じたテレビニュースの「引用」が非常に灰色なのは認めますが、このページの説明に適切な引用と判断しましたので動画画像を貼っておきます。もっとも、NHKがyou-tubeに対して削除の申し立てを行なって削除される場合もあると思いますので、その時には動画が見られないことをご承知おきください。
ニュースには事実の伝達って機能しか無いので著作物には該当せず、著作権法(ただし、日本国内)での適切な引用は出来ると思っているのですけど、ま、灰色ですね。
高知空港での胴体着陸の画像から幾つかの点が読み取れますが、基本的に10:54に胴体着陸(機首接地着陸)を行なう前に10:30にタッチアンドゴーを試みて衝撃で車輪を出そうとしましたが、成功しなかった。この時点で機長は様々な選択肢の中から胴体着陸を決めたと思います。もちろん、副操縦士(コーパイ)にも十分説明して事前に想定内の総てについて考察を加えたと思います。
2時間の上空旋回の時間を単に燃料の消費に任せるだけでなく、様々な場面を想定したブリーフィング(情報共有)に費やしたから胴体着陸の成功があったと思います。
まず、このページを読んでから、上の動画の再生ボタンを再度押していただければと思います。もしくは、動画から読み取れる事象を再確認いただければと思います。
今回の「生還」は危機管理の面から見て非常に貴重な情報を含んでいます。「大空のサムライ」の著者である坂井三郎さんは『航空機で危機に出合ったらまず深呼吸をして落ち着くことだ。高空で酸素が少ない状況では思考力は低下する。その思考力低下を加速させず補うのが落ち着くってことだ』と述べています。
危機に直面して舞い上がるのでは無く、冷静沈着に対応するためにはまず、落ち着くこと。全日空1603便の機長は、これが出来ていたのでしょう。
胴体着陸の動画から伝わってくる事柄
さて、今回の事故は奇跡の着陸だったと思います。奇跡は必ずしも最適な解を得たのではなくて偶然も含めてラッキーってことです。
そのラッキーを手にするには事前の緻密な検討と情報共有が必須です。それが可能になるように胴体着陸に全力を尽くしたので結果が良い方向に出たのでしょう。
まず、用語の説明をしておこうかと思います。かったるいでしょうがニュースでは随所で表記間違いをしています。今後、事故調査委員会から発表される事故報告書を読む時のために再確認です。
まず、車輪ですが、翼の下から出ていたのは後輪では無く「メインギアー」と呼ばれるものです。日本語では主車輪と呼びます。ギアとは車輪ってことです。出なかった(降りなかった)前輪と呼ばれる車輪は「ノーズギア」です。前輪とか後輪とかの表現は便宜的には解りますが、航空機の構造の本質を外しています。
さて、動画に戻るのですが、海岸からのファイナル・アプローチは失速ギリギリで機体が揺れてます。画像から解るのは失速でグラグラ揺れる機体です。機長は低速で侵入したいが失速は困るってギリギリの機体コントロールだったのでしょう。
DHC-8系の翼を正面から見ると判るのですが、専門用語で言う「上半角」が非常に少ない主翼です。正面から見て主翼がどれくらい両端に向けて上がっているかが上半角です。この上半角が大きい(つまり主翼の両端が上がっている)と翼の揚力が機体方向に傾き、スキーのボーゲンのように左右の傾きが安定します。が、そのためには主翼から得られる揚力を弱めます。DHC-8は機体が翼の下にぶら下がる構造なので思いっきりこの上半角を少なくしても傾き(ロール)は抑制可能です。
経済性を重視したDHC-8では上半角は極力抑えています。そのために、傾き(ロール)にはナーバスにならざるを得ません。
また、着陸時のフルフラップでは揚力も増大しますが抗力も増大します。その抗力を補うためにエンジンパワーが必要なのですが、画面で見る限りフラップは降ろしてないようです。エンジンを絞り、胴体着陸時の火災を防止したい意図を感じます。
このためエンジンもアイドリングに近い状態でグライダーのように滑空飛行しながらファイナルアプローチしてきます。最初の窓の柱に機体が隠れるまえの数十秒の不安定な飛行は失速を起こしてるDHC-8の挙動と、失速をエンジンパワーでは無く機首を下げて速度の増加で補おうとしている動きが見てとれます。この時点で機長は既にエンジンは逆回転も含めて使わない、油圧の故障の可能性もあるので残ったメインギアもノーブレーキ、の選択をブリーフィングしたと思います。
結果的に一番危なかったのは、あの失速アプローチです。
あの場面で完全失速し機体が傾いて翼を地面に叩き付けて機体が回ってもおかしくなかった。絶妙の機体コントロールです。これが最大の奇跡でしょう。機長が乗客に「訓練を受けているから安心してください」と言ったのは胴体着陸の訓練では無く、グライドアプローチ(エンジンの力に頼らないグライダーの滑空を使った着陸)を指していたのではと思われます。
NHKの動画を見ると解るのですが、消防車等が待機してた場所からかなり先に機体が停止しました。
通常のDHC-8の着陸停止地点をオーバーランしたのです。これは二つ要因が考えられますが、機長が前輪が出ていない状態でブレーキを踏むと万が一前輪軸から油が漏れて発火する、もしくは、左右の主車輪にブレーキングのアンバランスが生じ機体が横を向いても直せないと考え、必要が無ければブレーキは使わないと判断したと思われます。
滑走路に入ってから機体が沈まないのは「翼面効果」によるものです。が、尾翼のエレベータを見る限りギリギリまで機首上げしてません。滑走路の末端が近づくので速度を考えると接地せざるを得なかったのでしょう。また、速度のあるうちに接地させないと急激な機首下げで機首下面が破壊される恐れもあります。
フラップtoゼロの処置は動画からは見てとれないですが、後述の着陸復航の選択肢を残しておきたいので処置しなかったようです。
選択肢としてターボプロップの逆噴射がありますが、これも左右のコントロールを失った時に車輪のブレーキが正常に機能しなければ立てなおせないので使わなかったようです。もちろん方向を決めるノーズギア(機首輪)は使えない状態でした。
結局左右のアンバランスを生じずに綺麗に滑走路上を滑って行きました。
ローカル空港に多いのですが、滑走路を逸脱すると衝突する航空保安施設が多いです。滑走路の幅がギリギリなんですね。
機長がエンジン停止を行なったのは機体が停止してからでした。僕は、機首接地の時点でエンジンを絞りプロペラをフェザーにしたらと思いましたが、機長は万が一の場合、着陸復航(ゴーアラウンド)まで視野に入れていたのかもしれません。残りの滑走路の距離を考えるとフルパワーで再度離陸可能でしょう。
機首が下がった時点で残り滑走路の長さによっては、あの機体状況ではゴーアラウンドは可能だったと思います。しかし、残り燃料10分を考えると、ゴーアラウンド後は海上着水が最後の選択肢なのです。
主翼が客席の機体の上にあるDHC-8では海上不時着はかなりリスクの高い行為になります。
不思議なことにこの冷静沈着な着陸を成功させた機長の名前を全日空は公表していません。「個人情報ですから」が表向きの言い訳だが実は組合との合意事項らしい。
今里仁機長ご苦労さまでした。
(笑い)。
放水体制に一考が必要かも
最初、放水消防車は滑走路の中程に居て、停止したDHC-4-800を追って到着し、放水していた。放水車が必要とされる位置は正常着陸よりも異常着陸して発火した時だから、あの位置で待機するのは正解と思われる。実際には胴体着陸した機体は滑走路上を滑って行き、消防車を通り過ぎたが。
ただ、その後、機体停止位置まで追いかけて最初の放水が上空への放水なのがいただけない。胴体着陸時、まず放水すべきは機体下面の滑走路および滑走路と擦れて高温になっている部分だ。右側からの放水は直ぐに修正されたが、左側からの放水は終始機体の上部からの散水になっている。
また、事故後の映像を見ると多くの消防車が集まっており、実際には複数地点で滑走路を左右から挟みこむように配置できたのではないだろうか。
今回の奇跡は「人並み優れた機長の能力」に負う所が大きい。
これが通常の能力の機長だったら、滑走路逸脱、機体損傷、乗客には死者も出ていたでしょう。
奇跡に頼るのでは無く、GOOG LUCKの新海副操縦士のレベルの経験でも降ろせる無事故を肝に銘じるべきです(新海、おまえは何時もぶつかっていけば解決すると思ってる!)
Good Luck