「戦後レジームからの脱却」は大いなる矛盾をはらむ

「戦後」は永遠に使われる用語
 安倍晋三総理のスローガンだが、その内容はいまいち判らない。しかし、安倍晋三総理が否定的に考えているから脱却なのだろう。確かに自民党の中には軍隊を持たない国家はありえないとの意見が多いが、それでは憲法9条を指しているのだろうか。それを具体的に指し示さないで「戦後レジーム」と表現したのだろうか。
 個別な案件を指さないので広く捉えると、かなり矛盾した「戦後レジームからの脱却」となる。
昭和20年8月15日以降に制度化されたものを「戦後レジーム」と呼べるだろう。すると男女平等とか義務教育とか地方自治なんかも「戦後レジーム」になる。それを脱却するとはどのような意味なのだろうか。
元に戻すでは無いにしても見直すってことだろうか。その見直しは是々非々があると思う。国のトップなのだから改革を具体的に指し示さなければ方向は見出せない。
実は「戦後レジーム」の中には日本に定着し日本の経済発展に寄与した制度が多数含まれる。何よりも62年も続いた制度に挑むような「脱却」は国のトップの発言としていかがなものか。現在の状況を肯定的に捉えて、なおかつ不足する部分を改革していくのが筋なので、真っ向否定って発言に受け止められる「戦後レジームからの脱却」にマスコミが噛み付かないのは、その表現が曖昧だからだけだろうか。
 実際には実現不可能なスローガンだから無視するってのがマスコミの考えではないかと思う。曖昧な表現で相手が突っ込んできたら肩透かしをくらわす。そんな安倍晋三総理の全体的に曖昧な雰囲気が国民が支持できない部分なのだが。

アメリカを全否定することができるのか
 戦後レジームは全てGHQの押し付けで始まった。少修正を重ねているか基本的にアメリカが持ち込んだ制度が継承されている。憲法に始まり教育制度や地方自治は「始めは」押し付けられたのだ。
 天皇を頂点に仰ぐ政治制度が民主主義に変革するのは単に政治制度を変えるだけではなく関連制度も変革が求められた。表面的には時代の流れが大きく舵を切ったのが「戦後レジーム」である。
 実は安倍晋三首相が掲げる「戦後レジーム」には日米関係は含まれてないのだろうか。日本の政策決定にまで口を出すアメリカに日本独自の政策決定を行う道を開くってことなのだろうか。
日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書(いわゆる年次改革要望書)を協議して作ることが「戦後レジーム」に相当するのではないだろうか。もっともこれは1993年の宮澤喜一総理の時代に始まったのだが。この要望書を日本は拒否できない。もっとも「拒否できない日本」になるのは遥か遡って昭和20年8月15日にたどり着くのだが。
例えば2006年の年次改革要望書を見ると実に細かく内政干渉してきているのだ。これが「戦後レジーム」の実態ではないのか。

安倍晋三総理は反米なのだろうか
 タカ派であることは間違いないが反米的タカ派なのだろうか。日本の総理大臣が反米で務まるのか疑問もあるが。
先の小泉純一郎首相はアメリカの言いなり的行動を取っていたが、実は郵政民営化はアメリカの要望事項に盛り込まれていた。それを後ろ盾として強引に持論である郵政民営化法案を通した。だが、実は日米関係には細心の注意を払っていた。表面上アメリカ追従に見えるが年次改革要望書に盛り込まれた再販制度の改革には手を付けなかった。マスコミ特に新聞社の反対を受けて公正取引委員会に改革の支持を出さなかった。
 ただ、小泉純一郎首相と竹中平蔵氏はアメリカの年次改革要望書をバイブルに改革を叫んできたのは事実だろう。ただ、国民にウケルものだけをピックアップした可能性もある。また、郵政民営化は小泉純一郎首相の持論であり、アメリカは後押しをした程度かもしれない。
 現在の安倍晋三総理が根は反米である証拠は無い。しかし、独自外交を進めるにはアメリカの足かせも多い。拉致被害者の一時帰国を返さないとしたのは安倍晋三総理だ。小泉純一郎首相の意向を覆した。このために日本と北朝鮮の国交交渉は暗礁に乗り上げたのだが、これはアメリカの意向に反してたのではないだろうか。
もし、安倍晋三総理の「戦後レジームからの脱却」に日米関係の見直しが入っているとしたら、たぶん、安倍晋三内閣は短命に終る。アメリカがそれを許さないだろうから。

button 安倍晋三首相は国民の納得を得られるか

2007.08.16 Mint