月周回衛星「かぐや」の月極軌道投入に成功

三菱マークの付いたH2−Aロケット
 今回のH2−Aロケットの打ち上げは初めて民間委託事業として三菱重工に業務委託された。打ち上げ作業は三菱重工が行い、JAXAは安全性のチェックにのみ関与することになっていた。
打ち上げの様子はTubeにある
打ち上げ台を離れて、若干の高度を取ったあたりで補助ブースターに点火され一気に速度を上げて上って行く。途中、速度の上昇とともに衛星を覆ったフェアリングに雲が発生して蝋燭のようになって上昇を続けて行く。
20079月14日10時31分のリフトオフだった。当初は8月の予定が観測機器の電解コンデンサーの極性を間違って取り付けていたのが発見され9月13日に延期になっていた。それが、前日の天候不良で更に一日延期されての打ち上げとなった。
1990年1月24日打ち上げの「ひてん」およびそれから分離して月周回軌道を回った「はごろも」に次ぐ17年ぶりの日本の月探査衛星になる。「ひてん」は月スイングバイが主なミッションで今回の「かぐや」のような月探査衛星は日本で初めてとなる。
打ち上げロケットからの衛星分離が成功し、月に向かった長楕円軌道に到達した。この起動は地球周回軌道だが周期5日と大変長いもので、1周目の終わりに衛星本体のロケットを噴射して高度38万km、ほとんど月の公転軌道まで距離を伸ばした。
3周目の2007年10月4日には月軌道への投入が行われ、無事成功し、今度は遠月点11,741km、近月点kmの月を回る楕円軌道に入った。
 その後、徐々に速度を落としながら高度を下げ、子衛星であるリレー衛星「おきな」やVRAD衛星「おうな」を分離し月軌道に投入最終目標高度である月面から100kmの極軌道を描く軌道に到達した。

問題はマスコミの扱い方
 理科離れが叫ばれて久しいが、この「かぐや」には42万名の名前とメッセージが微細技術によりアルミ版に刻まれて一緒に月軌道を回っている。我が家も3名分の名前が刻まれている。当初インターネットや葉書での募集で100万名を募集したが実際にはその半分程にとどまった。
 PR不足もあるだろうが、やはり理科離れ、特にマスコミ関係者の理科離れが進んでいるためだろう。H2−Aロケットの打ち上げ成功はロケットの打ち上げシーンが絵になるのでほとんどのテレビ局で放映されたが、月に向かう途中でテスト的に撮影されたハイビジョン映像とプレスリリースされた写真は一部のマスコミでしか報道されなかった。月周回軌道への投入成功はさらに扱いが小さかった。
550億円の税金が使われた事業の報道としてはまったくお寒い限りだ。(衛星320億円、打ち上げロケット110億円、地上設備120億円)
今後、月からのハイビジョン映像が注目される程度で「かぐや」はマスコミに取り上げられずに終わってしまうのではないだろうか。
「かぐや」の情報をインターネットで検索してかろうじて知るマイナーな情報にして良いとは思わない。まして、横並びで同じ事件を追い続けるマスコミの資源の無駄使いには愛想が尽きる。

宇宙の深遠でもう一つのドラマ
 マスコミが扱わないから知らない人が多いかもしれないが、2003年5月9日に打ち上げられた小惑星「イトカワ」に向かい、2005年11月26日に小惑星の土壌(岩石辺)を採取したと思われる「はやぶさ」が数々のトラブルに見舞われながら地球に戻りつつある。
一時まったく音信不通で実験は失敗したと思われていたが、通信が回復し「はやぶさ」独自のイオンエンジン(電気推進)も復旧し、当初予定の2007年夏の小惑星の試料回収が2010年6月に予定が延期された。
姿勢制御もままならず、イオンエンジンも設計寿命を過ぎ騙しながら使って、それでも「はやぶさ」は地球への試料投下に向けて地球に向かっている。
この情報もマイナーだがインターネットで読むことができる
 世界で始めて「サンプルリターン」に挑戦した「はやぶさ」が地球までたどり着けるのか、3年後が楽しみである。ちなみに、この「はやぶさ」は88万人の名前を刻んだ金属ボールをイトカワに残している。微小重力の小惑星だがこのボールは永久に残るだろう。宇宙開発を身近に感じてもらうのにネームプレートは良い企画だと思う。

情報の入手は容易になったが
 松浦晋也のL/D前にオーマイニュースで間違った記事を書いたときに、このblogで指摘を受けた。マスコミ対応が下手なJAXAに替わって日本の宇宙開発の現状をリアルタイムに伝えてくれる。
著書にも我々が普段接しない日本の宇宙開発の現場のルポが多い。既に「かぐや」のモニターカメラの映像から様々な分析が可能なことを記事にしている。
インターネットで情報の入手が容易になったが、どうも最近の理科離れはこのインターネットの功罪の罪の部分ではないだろうか。今時の大学生はインターネットを検索して答えを探す。探し出したらそれで終わり、全然身につかない。
もっと激しい勘違いは、インターネットを使えば知識が付いた気になる勘違いだ。インターネットで検索出来るのは「雑学」、知識は入手できない。ランダムに入手しても知識はみにつかない。知識は「体系」を持って学ばなくては身につかない。
昨今の理科離れは「体系」を持った知識の学び離れだと思う。電池の原理を理解しないと交流電流の理解にまでたどり着かない。玄武岩と花崗岩の違いを知らなくては地殻の構造とか地勢の特性なんかを理解できない。まして、地震が何故起こるのかを知るためには多くの「体系」だった知識が必要だ。
 実はその知識の体系の基本にあるのが天文学なのだ。太古の昔から人類は天体を観測することにより物理学の原理を構築し、時間の概念を共有できる時計を作り、そして量子力学にまで発展させた。
 インターネットでただ火星の写真を眺めるのでは無く、そこから起こる新たな疑問を持ってもらいたい。実は人類は「好奇心」と言う他の動物と比べて一番秀でた能力を持っているのだから。
 何故、月を探査するか。それは人類を発展させてきた「好奇心」に根源がある。

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2007.10.25 Mint