唐家山・土砂ダム、いよいよ越流開始

非常に予断を許さない状況
 四川省北川県では5月12日の四川省巨大地震により土砂崩れが発生し川をせき止め通称「唐家山ダム」が出来上がってしまった。
 なんでもスケールの大きい中国のこと、この唐家山・土砂ダムに貯まった川の水は6月3日現在で黒部第四ダムを越える貯水量になってしまった。この土砂崩れによって出来たダムの水を安全に放水するために重機80台をヘリコプタで土砂崩れ現場のダムの上に上げて自然放水を開始する溝非理を600人の人員で行った。
 これも危険な作業で、人間が設計したダムなら耐えられる貯水量は設計時に想定しておくが、崖崩れで出来た天然の土砂ダムだから作業中に崩壊しないとも限らない。当初人力で運んだ火薬で爆破する予定だったが、周囲の山が再度崩れる危険があって重機による溝掘りになった。
 工事が終わって唐家山・土砂ダムの貯水量が増え続け、6月5日には自然増水によりダムの堤を水が越える予定だ。しかし、事前に想定したようにゆっくりと水が抜けていくのか、急激に地震湖の堤が崩壊するのか誰にも予測が付かない。崩落が唐家山・土砂ダムの貯水水量の何割で起こるかによって土石流の規模が違い、中国当局は1/3、2/3、3/3のそれぞれの貯水量で崩落が起きて土石流が生じた場合に分けて危機管理を行っている。 最悪の3/3(全壊)の場合下流の130万人を避難させることにしている。
全壊が感知されてから4時間で下流の綿陽市まで土石流が届くので、その間に避難する態勢をとっている。また1/3の場合の下流20万人は既に避難している。

どうにも手が打てない唐家山・土砂ダム
 両岸は標高差500mを越える深く切れ上がったV字谷の底を流れる川を土砂がせき止めてしまったので、そこに通じる道も無く、また、急峻すぎて重機を登らせる道を造ることもできない。
ヘリコプターで運び上げたが天候によっては視界不良でヘリコプターが飛べず重機の燃料が切れて人海戦術で運ぶ事態にもなった。もっとも、背負って出発したが道が危険で現場に到達出来ない模様なので引き返しはしたが。
 しかも何時崩落するか解らない場所での突貫工事。実はこれ以外手の打ちようが無いってのが正直な所だろう。
その結果、唐家山・土砂ダムは自然増水によってダムの堤を水が越え、越流が徐々に土砂を削ってくれて土砂ダムが自然に流れ出るって自分に都合の良いシナリオしか描けないことになった。
 せめて、掘った溝をモルタルで固める等を行って初期の崩落を防げば良いのだろうが、資材の運搬も難しく、工事の人間の安全も確保出来ない状況では溝を掘るのが精一杯の作業だろう。

危機管理しか残らない唐家山・土砂ダム
 全くの応急処置しか出来なかった状況で規模は別にして唐家山・土砂ダムの崩落は必ずあるだろう。黒部第四ダム以上の貯水量が徐々に安全に抜けていくには何日もかかる。その間に気候によっては豪雨もあるだろう。あの周辺は切り立った崖と木を散々切り倒したので保水能力がほとんど無く、豪雨になれば雨は一気に川に流れ込む。
 そもそも保水力が無いのはチベットの山の木を切り倒し川に投げ込んで下流で回収するって乱暴な方法で木材を確保していた過去がある。そして、植林する前に表土が流れ出してしまい、今となっては植林の効かない大地になってしまった。パンダの生息が危ぶまれるのも深い森が伐採により浸食され森の面積が縮小していることに起因する。

 どちらにしても唐家山・土砂ダムのダムの堤を越えた越流は時間の問題で、何が起きるか解らない。ただ、最悪の事態に備えて全壊まで想定した中国当局の努力によって人的被害が最小限に落ち着くことを祈るしか無い。
予定では6月5日から溝に水が流れ込む。

button 紫坪埔ダムの誘発地震の可能性
button 紫坪埔ダムと震源地の距離は25Km程

2008.06.04 Mint