政権政党とは「日本をこうする」と表明すべき集団
自民党の三代たらい回しの教訓
民主党による政権交代が現実のものとなりつつあるが、国民は必ずしも民主党政権を望んでいるとも思えない。消去法によって第一政党(下手すると過半数政党にならないかもしれない)になる公算が高いってことだろう。
自民党が「ねじれ国会」故に不利な戦いを強いられ、国民の支持を失う結果になったのだろうか。
民主党が国民本位の政策を行う、つまり、国民の支持を得続けるには自民党の三代たらい回し政権は何故国民の支持を得られなかったかを分析しておく必要があるだろう。決して「ねじれ国会」における民主党の力による自民党の「ねじ伏せ」が国民の支持を得られたのでは無いことを民主党は知っておくべきだろう。
そもそも小泉純一郎政権には「方向を示すアピール」があった。それはワンフレーズでキャッチコピーに近い内容の薄いものでは有ったが、国民に向けたメッセージ性の強いもので国民は「解りやすい」と感じた。「自民党をぶっ潰す」、「民で行えるものは民へ」、「人生いろいろ、会社もいろいろ」等の迷言であった。また、初期の頃には「米百俵の精神」とか古事に由来する歴史観もかいま見ることができた。
安倍晋三総理大臣になってからは「美しい日本」「戦後レジュームからの脱却」等急に解りづらくなる。抽象的でどうにでも解釈できる言葉は方向性を指し示さない。特に「戦後レジュームからの脱却」は日米安全保障を止めるのか、核武装するのか、中国や韓国との外交路線を変えるのか、まるで方向が見えない。
福田康夫総理大臣に至っては、我々の記憶に残る言葉は「あなたとは違うんです!」だけだ。
麻生太郎総理大臣も方向性を示す発言は弱い。朝令暮改の定額給付金騒動はその感を強くした。そもそも、漢字の読めない(KY)麻生太郎総理大臣は人に物事を伝える能力に乏しく、方向を指し示す能力に乏しくてリーダーの器では無いとまで感じさせる。
リーダシップとは方向を示すこと
物事を集団で成就させるにはそれぞれの立場で決定しなければならない事がある。物事を進めるのは以下の大きな4つのフェーズを経て完成する。
1)方針の決定
2)戦略の決定
3)戦術の決定
4)実施と評価
この1)〜4)を最終目標に向けて繰り返すのがPDCAのサイクルを回すと呼ばれる広い意味でのマネージメントになる。
国政で言えば1)を総理大臣が担う。2)には現在の議員内閣制では政権与党と官僚が担う(ここに、制度欠陥があると思うのだが、今回は触れない)3)を担うのは立法であるが、現状は官僚が法文に仕上げる。そして国会で法案が採決され4)の実施の段階にすすむ。ここで終わる訳では無く、評価を経て修正が必要な部分は修正し、最終的に1)の方針に沿った結果が得られるようにする。
実は自民党の三代たらい回し政権は1)の段階でつまずいている。国民に1)を正確に伝える事に失敗したのだ。だから、以降のプロセスでは国民は是非の判断が出来ずに1)が何を目指したものか評価も出来なくなったのだ。
一例を挙げると安倍晋三総理の憲法改正法案だ。何故憲法を改正する手続きを固めなくてはならないのかの説明が「戦後レジュームからの脱却」では説得力が無いし方向性も見えない。今後、50年毎に憲法が世界情勢に合うのか審議会を開催する法案ってことなら解りやすかったかもしれない。
麻生太郎総理代人に例を上げるなら「戦後未曾有(「みぞゆう」と読むらしい)の金融危機」だろう。これは1)にならないのだが、これを方針のように見据えて衆議院の解散総選挙を見送った。しかも「政局よりも政策」と訳の解らないオマジナイまでくっつけてしまった。これでは国民の支持率が急落するのは目に見えている。
翻って、今の民主党代表である小沢一郎氏をこの断面で切って分析してみると50歩100歩なことに気がつく。
小沢一郎氏は代表として1)を担うべきなのに口を突いて出てくるのは2)や3)である。会社の社長が課長や係長の仕事をしている違和感が小沢一郎氏にあるのは、この役割分担が認識されていないのと、民主党が課長や係長のメッセージを「方針」と勘違いするミスマッチが起こっているのだ。
日本をどのような国にするのか
国政の方針はまさに「日本をどのような国にする」にある。第二次世界大戦が終わってサンフランシスコ条約で日本が再度独立国なった時に、「日本をどのような国にするか」を担ったのは日本民主党と自由党が統一した自由民主党であった。この時を1955年でもあり55体制の始まりと呼ぶ(諸説あり)。実は自由民主党は日本社会党の再結成に危機を抱いた財界からの要請であった。
自由民主党の結成以来の方針は時代背景に起因する以下の項目になる。
1)共産主義侵略への抵抗(財界の要望が強い)
2)アメリカ追従政治路線(当時、輸出産業のマーケットはアメリカが一番大きい)
3)輸出中心の経済路線
これは現在まで半世紀に渡って続けられてきた。一時自民党が下野になるも細川政権も村山政権も踏襲(「せしゅう」とも読むらしい)してきた基本方針である。
1) しかし、冷戦の時代は1989年のベルリンの壁崩壊から一連のソ連解体で既に無い。共産主義侵略も世界同時革命を信じている生粋のマルキニストは勢力を失った。
2)日米安全保障の2国間軍事同盟から国連中心(主に安保理)に変化しつつある。
3)円が世界経済で力を持った現在、輸出は儲からない産業に変化している。自国通貨が弱い時は輸出は為替差益で非常に儲かる産業だが、自国通貨が強いと利益を得にくいのが輸出産業の経済学なのだ。
以上の要因を考えると自由民主党が掲げていた方針は、まさに当時の世界情勢と対比して合理的なものであるが、「百年に一度」の金融危機はアメリカが主導する世界観を揺るがしており、自由民主党の方針は見直しが必要になった。
この時に政権政党の座に一番近い民主党は、国民に向けて政権政党として「日本をどのような国にする」のかの方針を示さなければいけない。
1)については中国共産党とどのように対応していくいくのか。2)については国連中心主義と言っても構成する国の半分は独裁国家なのだから総意なのか安保理なのか明確に説明する。3)は内需中心の経済をどのように作っていくのか。それぞれ自由民主党が55体制から行ってきた責務が世界情勢の変化とともに大きく変化しつつある現状を踏まえた民主党の「方針」を自由民主党との違いを明確にして国民に伝えるべきだ。
しかし、正直言って国民に向けて「方針」を発せられる日本国の社長を担える政治家は民主党に見当たらない。せいぜい部長止まりの執行部だし、それ以外も将来は部長止まりって予備軍しか居ない。
故に、民主党が政権を継続的に担うには社長人事が最大の課題で、そのためには政界再編が必要になる。現在の民主党のまま政権政党にスライドしても細川政権の二の舞は目に見えている。
政界再編で新しい取締役を選出し、取締役会で新社長(候補)を選出して株主総会(衆議院総選挙)に挑むべきだろう。