トリウム原発に舵を切れるか日本

日本のエネルギー自給率は4%
 日本は資源に恵まれず原材料を輸入して加工し製品を作り、これを輸出する国家のビジネスモデルが確立している。今回の東日本大震災の復興の財源問題が色々取り出されているが近視眼的な官僚の増税策では無く、大局的な視点に立てば復興資金入手の最善策は円安誘導である。
 法人税収入の落ち込みと円高が連動しているのは明らかで、日本の税収の落ち込みは法人税の落ち込みであり、とりもなおさず円高と連動している。震災被復のための円安誘導は世界各国から許容範囲(110円程度まで)だろう。
 その日本はエネルギーも輸入に頼っている。農水省の官僚がそろばんをはじいて出した無意味な計算結果の食糧自給率(カロリ−ベース)が40%だが、エネルギー自給率は18%しか無い。
 この18%から原子力発電によるエネルギーを除くと4%しか自給率は無い。もっとも、ウランは輸入に頼っているので実質4%が正しいエネルギー自給率になる。
 自国のエネルギーは製品加工に消費され国外にエネルギーが輸出されることは無い。その日本の産業を支えるエネルギーとして電力は常に必要な需要を賄っていかなければならない。特に日本の工業はITを駆使した精密機械工作に依存しており電力は製造業での高度な自動制御に欠かせないエネルギー源である。
 今年(2011年)の一月に中国はエネルギー政策としてトリウム原発の研究に着手することを正式に発表した。当初、誰も着目しなかったのだが3月11日の東日本大震災による東電福島第一原発の事故により各国が今後の原発開発の取り扱いに悩み始めたなか、現在のウラン系燃料では無くトリウム系燃料を使った液体燃料に関心が集まってきた。
 中国は研究を進め20年後を目途に実用化するとの発表に各国は高い関心を持った。しかし、調べてみると画期的でも何でも無く、アメリカでは1960年代に熔融塩炉原発の実証炉実験が試運転され4年間も無事故で運転した実績がある。この時の燃料はトリウムでは無くウランだが、基本原理は実証済みである。インドでは今年(2011年)トリウム原発の実証炉が稼働している。
 何故、この時期に中国が関心を高め、世界の注目を集めたのかと言えばアメリカ外交の方向と一致するからだ。オバマ大統領の核廃絶と原発推進のパラドックスの解消策がトリウム原発による核廃絶と結びつくのだから。

アメリカが政治的に捨てた技術
 トリウム熔融塩原子炉は実用化可能であった。しかしアメリカにとって最大の欠点はトリウム原発ではプルトニウムが生成出来ないことだった。冷戦の時代、核兵器開発と拡張には原料としてプルトニウムを必要とした。広島型原爆はウランが原料だが長崎型はプルトニウムが原料である。
 兵器として小型化と加工が容易なプルトニウムを大量に入手するのはウランを燃料とした原子力発電所を稼働させ、使用済核燃料からプルトニウムを回収する方法が選択された。つまり、プルトニウムを生成することがアメリカの国策であり、そのために原子力発電があった。
 この政策故にプルトニウムを生成しないトリウム原発の技術は捨て去られた。日本もアメリカの兵器材料製造の一翼を担ってウラン系の原子炉を稼働させてきた。もっとも、生成されたプルトニウムをアメリカに売ったりはしていないが、世界で一番未利用のプルトニウムを保持しているのは日本になってしまった。陰には「核兵器は持たないが核兵器開発技術力は保持する」って日本の外交カードがある。もっとも、日本の原発のように「徹底的にウランを燃やす」原発からは核爆発を誘導するプルトニウムは分離できない。詳しくは日本の保有するプルトニウムでは核武装はできないを参照してもらいたい。
 この陰の論理を隠匿するために、苦肉の策でプルサーマル原子炉でプルトニウムを燃やすか、いつ実用化するか解らない核燃料サイクルの要である高速増殖炉に手を出してる。
 しかし、世界は別な方法論を用いた。
 今後ウラン系の原発が世界各国で稼働するとプルトニウムを保持する国が増えてくる。これは核拡散の観点から好ましくない。国として核兵器を作らなくてもテロリストに盗まれ核兵器に加工されるリスクが増えてくる。なんせ、先に書いたように兵器への加工は容易でプルトニウムさえあれば、トム・クランシーの小説から得た知識だけで核兵器はつくれてしまう。設計時の計算も今ならパソコンで十分可能だ。
 トリウムを原子炉の燃料に使えば使用済み核燃料にプルトニウムはほとんど含まれない。生成される各物質も強いγ線のため兵器への加工は容易では無い。核兵器の原料が拡散することを防ぐことができる。
 加えてオバマ大統領の言う核廃絶と原子力発電所増設が矛盾しないものになる。アメリカがウラン中心の世界の原発の流れをトリウム原発に切り替えると自国のウラン業界を刺激するので中国に公式発表させたのでは無いかと思う。アメリカは昔の技術を掘り起し核廃絶とエネルギー問題の両方を解決しようとしている。
 トリウム原発の研究者として古川和男氏の著作『「原発」革命』が有名だが、これは既に絶版になっている。その続編と言われる『原発安全革命』が緊急出版された。ここにリンクがある


トリウム原発は5年で実用化が可能
 前に理想的原発としてキャンドル炉のことを書いたが、トリウム原子炉を利用した原発はこれよりも早く実用化が可能だろう。キャンドル炉もやがて実用化する技術と思うが20年とかのスパンで考える必要がある。
 問題は技術開発では無くて技術審査に掛かる時間だ。既存の原発で燃料だけ交換すれば良いのか、新たな原発の設置が必要なのか。これは既に実証実験例があるのだから調べれば早急に結論が出るだろう。強いγ線がトリウム原発の弱点なので地下建造物として作るのが良いかもしれない。また、γ線対策で全自動化が必要になるので、一基当たりの規模を小さくしてネットワークを形成し全自動無人運転の電力ネットワークを形成することもできる。
 地元住民への説明と合意もウラン系のプルサーマル程は時間を要しないだろう。危険回避の観点からトリウム原発を前倒しするくらいの姿勢が必要だ。
 問題は、国内に54基も原発を抱えてしまった原発行政をトリウム原発に向かわせる舵取りが出来るかである。
 役人は前例の無いものを嫌う。慎重に検討と言いながら時間を引き延ばす。アメリカの真意を確かめるために時間を浪費する。結局、行政制度を動かすのに無駄な時間が費やされる。
 トリウム原発は燃料の着火剤としてプルトニウムを使うのでプルサーマルも中止。一回の燃料搬入で10年近く運転でき、しかも使用済み燃料の核種の大半は半減期が数十年なので地下処分場も不要。一部の核種は半減期がべらぼうに長いが分離は容易でしかも量も少ない。
 ウラン系の核燃料サイクルは行わないので高速増殖炉は不要。
 いいことづくめだが、何故、これを行わないで無駄な施設に税金を投入し続けたのか。それは、アメリカの原発技術に隷属し独自な技術開発を志向してこなかったから。アメリカが諦めたウラン系の原発による核サイクルにしがみついていたから。
 この国は黒船に弱い。
 アメリカが確実にトリウム原発に舵を切りなおしているのを注目すべきだ。世論を形成すべくマスコミはしっかりと技術動向を調べて報道すべきだ。日本の技術を持ってすれば5年で実証実験炉(mini-FUJI)にまでたどり着けるだろう。強い政治主導があればだが。
  株式会社 トリウムテックソリューション

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2011.04.26 Mint