手稲山山頂
ここから、カギのかかった柵を自転車を持ち上げて越えて、いよいよ禁断の(笑い)山岳道路に入る。
2年前に比べると作業用の自動車道路はジャリが敷かれて車には快適なのだろうが、自転車にはちとキツイ。特に前はタイヤ幅が60mm程のMTBだったが、今回は38mmのクロスバイク。急な登り坂では後輪が空回りして先に進まない。このジャリが最近敷いたようでまだ踏み固まってないのも状況を悪くしいている。結局ジャリではほとんど押し。その反動で舗装路面はこいで登る。日曜日のせいか、はたまた紅葉のシーズン故か、高齢な夫婦がゆっくりと散策しながら登山を楽しんでいるのとすれ違う。
「自転車でですかぁ、若い人は馬力がある」なんて言われて面はゆい。
頂上までは合計2時間程。先の初登頂程の感激は無いがやはりそこは1024m、山頂は紅葉の真っ最中、秋風が心地よい。山頂には新しいアンテナが増えたようだが、それに加えて山頂の整備が進み、前回は立入禁止だった本当の山頂広場でひと休み。
ポタリングに毛が生えたような気持ちで来たので、糧食無し、手袋無し、なので本当で有ればここらで引き上げるべきなのだが、どうも縦走してみたい誘惑にかられる。
ここから西区の平和の滝へ向かうコースの概要は知っている。手稲山は海側の正面から見ると緩やかな斜面が標高にして500mほど(今まで登ってきた前半の車道)登り、ここから一気に残り500mを登る。この部分にロープウェイがかかっている。スキー場で言えばいわゆる「手稲ハイランド」がこの急斜面に該当する。この後半の500mは岩山で山頂からは裏にはこの岩が崩れたガレ場が存在する。
手稲山の裏はスキー場開発もままならず、唯一クロスカントリースキーコースが有志により開発されている。冬に途中まで登ってみたが、ここを利用すると山頂まで4時間の超ロングコースが楽しめる。ただし、初心者や単独行は天気の急変に脆弱なので避けたほうが良い。市街地に近いとは言え冬の1000mの雪山は生命の危険が伴う。
ガレ場の山頂側の頂点にはケルンが積んである。ここの周辺で休んでいる人に話を聞いてみる。ベテラン風の中国の人に話しかける。
「自転車を担いで降りれますかねぇ」
「うーん、1時過ぎたから日没までに降りれれば良いけど。絶対怪我しないように注意して行けば大丈夫。怪我したら自転車置いていく覚悟でないと危険だなぁ。今日は年寄りが多いから助けてはもらえないよ」
「どれくらいガレ場続いてましたっけ」
「川と合流するまでは自転車に乗れないだろうから、3kmは担がないと。ま、2時間くらいかかるかなぁ」
2.5kmほど急斜面の岩のガレ場が続くはずだが、その先は自転車に乗れると思っていたのだどうも記憶違いのようだ。ま、ベテランが止めろと言わないのだから大丈夫だろう。
最初の坂を担いで下る。しばらく平坦な路が続いて、これから難所のガレ場に入る。担いで慎重に下って、50mおきに見おろしてコースを探る。後ろからは下山の登山者が追い越していく。「え、自転車で、大丈夫ですか」、ま、自分の体も持て余しているような人が多いから「慎重に行きますからなんとかなります」と答える。こっちも自信無いんだよなぁ。
登山者のグループが通り過ぎると一人ポッチ。直径1m程の岩のガレ場を少しづつ下る。エゾシマリスが目の前を横切っていく、秋を向かえて食料の貯蔵に忙しいようだ。春よりも太っていてかわいい。
次に自転車を休める場所を探りながら、もう何時間下っているだろうか。足を滑らせることもさることながら、クロスバイク仕様なので後ろのディレーラーのガードも外しているので、ここを岩にぶつけて壊してしまわないかと、こちらも心配。
山を下るときに素人が陥るのが膝への負担。ガツンガツンと力に委せて下ると膝の軟骨が圧迫されて傷み、動けなくなる。これを避けるには、常に膝をクッションにするように突っ張らずに下る。まして、自転車の重量分重さが増えているのだから、ここはさらに慎重に時間をかけて降りる。そろそろ日没が気になる。
ガレ場を抜けるまで1時間。1kmを1時間で下ったことになる。ここからは林の中に入るのだが、ここも山頂で聞いたようにガレ場に落ち葉が積もったような様子。担ぎは続く。
心配足への負担に加えてハンガーノックの心配も出てくる。僕の場合は足がつるので、これも山路では最悪動けなくなる。ただ、嬉しいことに高度が下がったせいと、林の中なので湿度が上がったせいで汗が出てくる。まだ汗が出るうちはガンッバれる。
ついに小川沿いに出て少し乗れるようになってきた。急坂のガタガタ路に今度は自転車を握っていた右手の握力が極端に落ちていてハンドルを握り外しそうになる。
やっと緩やかな斜面に出てあとは坂を下るだけ。さきほど追い越していったグループを追い越す。「やったね、たいしたもんだ」、「ありがとうございます」。そんな会話を交わしながら平和の滝に出る。ここからは車道を一気に下って、下った先が自宅。
ついに、夢見ていた手稲山縦走に成功。
1996.10.13 本日の走行 40km
この2日後(つまり火曜日の夜)、この秋最初の寒気団の到来とともに手稲山頂は初冠雪となり、白い頂をわが家から挑めた。