渡島半島制覇..南茅部、椴法華、恵山、戸井

コース概要
 いよいよと言うか、僕の住む札幌から南方面の最後の市町村を訪問して南方面は完全制覇(離島は除く)の場面になった。具体的に渡島半島の東、亀田半島をまわることになる。今年の北海道は気温が高く、とてもサイクリングをする環境ではなかった。熱帯夜の朝4時に起きても出掛ける気力は起きない。
そろそろ気温30°も終わりそうなので、懸案の道南の最後の亀田半島を走る。
今回はサークルコースで川汲峠を利用して周回コースを設定した。途中に今年8月オープンの道の駅もある。峠を越え、海岸線を南下し火山である恵山を通り出発点である函館の石崎へ戻る。
いざ出発
 札幌から通い慣れた中山峠、洞爺村、豊浦、長万部、八雲、森と車で走りながら、今度この方面に来るのは何時だろうかと考えてしまう。この方面の市町村巡りは今回で全市町村を巡り終えることになる。何度も走ったこの道もしばらくは来なくなる。
 先日の大雨でラジオで「八雲の野田追橋が通行止め」なんて聞くと、あの橋だなと解る程だった。しかも前の紀行記にあるように、野田追橋で自転車に道を譲ってくれたバスと出会った場所だった。さすが、もう来る事は無いと思うと、自転車で走った道を車で辿る時に一つ一つ思い出される事柄が多い。
 車では気にならない登り下りも自転車で走ると体験を通じたランドマークになる。その意味で自転車では登りで苦労した七飯町役場の横の坂ではあるが車では一気に登り高速道路予定地に出て函館市街に向かう。前に書いたけれど最悪の交通マナーの函館市をバイパスして今回の目的地である石崎の道の横のパーキングエリアに出ようと思う。とにかく函館の車の交通マーナーの悪さは前回いやになるほどだったので避けて通りたい。函館上磯線を利用したけれど、やっぱり無意味な渋滞に巻き込まれてしまう。高速道路のバイパス化の工事で渋滞が多い函館だが、あきらかに信号が替わる時に交差点から出られないにもかかわらず交差点に突っ込み直進車を邪魔するドライバーが多い。ま、このあたりが僕が函館を嫌いな理由だ。
さて、ドライブの話が長くなった。
恵山国道を函館空港から6km程恵山に向かった所に石崎漁港が有りその直前にパーキングスペースがある。ここに車を停めて自転車を組み立てる。予定の時間を函館市内の渋滞で失い、出発は11時近くなってしまった。

川汲峠(かっくみとうげ)
 地図で見ると少し函館方面に戻った古川にジョモのガソリンスタンドが有り、ここから函館南茅部線に合流するらしい。ところが、目印のガソリンスタンドはジョモじゃ無いのですよね。地図が間違っているのか、はたまた石油業界の再編成か良く解らないけど、ここの信号を右折して田園地帯を北上し函館南茅部線に合流を目指す。
ほとんど直線の合流地点を経て道々83号線函館南茅部線を川汲峠を目指す。あたりは田園風景から川を遡る道に変わっていく。道南は川の多い地域だが川の水の透明性、川の美しさは最高のものがある。この道も緩い登り坂の途中に矢別ダム、そしてダム横のトンネル(シェルターが正しいかな)の急な勾配を登ると小さな矢別ダムが右手に見えて来る。
車の往来は分数台だろうか両側の木々の背丈が高いのでさほど眺望は開けないが時々下に見える川の音が聞こえる。峠の目印は川汲峠の川汲トンネル。1500m程のトンネルは予想通りこちらからは下り坂。調子の悪いライトを外して手持ちで照らしトンネルを抜ける。後ろの赤の高輝度フラッシャは最近走行中は点けっぱなしで走っている。自転車の場合、前照灯よりも後ろに存在をアピールするのが安全なので普通のLEDを道路標識で使っているタイプに改造したもので、夜だと50m後ろからでも眩しいくらいに見える。まさか、レーザの赤いポインターを後ろに向けて発する訳にいかないので、これが後ろから迫る車への最高の目印になると思う。

南茅部(みなみかやべ)町
 峠越えの楽しみは下りのダウンヒル。南茅部町まで一気に下る。市街に入るあたりからコンブの町の看板が目立つ。去年か一昨年に日高方面を走った時に、一家総出で朝コンブを海から揚げて玉石の干場に広げ、夕方には仮乾燥したものを規格の長さに切って取り込むのを見ているのだが、ここの方式は違うようだ。
役場で恒例の記念写真を撮って海岸線に出る。なんだぁ? 沖に多くの「浮き」が浮かんでいる。あれは何だ? 太平洋の海に黄色い(オレンジ色かな)「浮き」が沢山並んでいる海が広がる。
 役場の場所から少し進んだ所に海岸線から南茅部のバイパス道路があるのだけれど、ここを曲がらずに旧道の漁業の市街地を東に向かう。小さなトンネルの所が「黒鷲岬」ここに記念碑があって「建網大謀網漁発祥の地」とか。ま、良く解らないのだが、説明文を読むと北海道の漁業を資本家の投資の対象であった時代のものらしい。この記念碑の碑文を戦後北海道が旧社会党主体の政治体制であった象徴の田中知事が書いているのがなんとも違和感がある。
 ここでさっきから気になっている沖の「浮き」について地元の人に聞いてみる。どうも、コンブの養殖棚らしい。日高のコンブと違い、この地方のコンブは幅が広く肉厚でトロロコンブの原料になるらしい。このコンブを沖に棚を作って養殖している。幅が広く長さは数メートルなので海中に横に張ったロープから伸ばしているらしい。
各地でコンブ干をしているけれど、洗濯物のようにコンブを小屋の中に縦につるして灯油ボイラーで乾燥させてる所が多い。屋外で干しているのも洗濯物のように縦に吊して干している。漁業の中心がコンブの時期なのかもしれない。
 各小屋の軒先に2リットルの大きさのペットボトルの空きビンと言うのか容器が下がっているのだけれど、これも聞くと「浮き」として便利で只で利用できるから漁師の家では捨てないで利用していいるとのこと。
 リサイクルで盛んに繊維に戻したりしているが、ボランティアで2リットル容器をここ南茅部に集めれば立派なコンブ養殖棚に使えるらしい。海藻や貝殻の付着したペットボトルを見ると産業廃棄物が必ずしも迷惑なものでなく、したたかに利用する南茅部の人達の逞しさを感じる。

椴法華(とどほっけ)村
 南茅部から国道278号線、通称恵山内浦ラインを走る。左に広がる海はまぎれもない太平洋。その荒波に先のコンブ養殖の「浮き」が並んでいる。走り初めて峠を一つ越えて汗を洗い流したいのと給水をしたくて学校を捜しながら走る。北海道の場合、冬の凍結を考えると公共の公園に給水施設は乏しく、有ったとしても本管から遠く、誰も使わないので飲用に適さない。唯一学校の水飲み場は顔を洗っている間に古い水を流しだし給水が出来る場所である。
しめしめ、椴法華中学校が見つかった。グランドでサッカーの練習をしている生徒が数名居る。水飲み場に居た生徒が「こんにちは」と声をかけてくる。「あ、水飲ませてもらいます」、「どうぞどうぞ。何処からですか」。中学生が地域の外から来た人間にこんなにきさくに話しかけてくるとは思わなかった。「札幌を朝4時に車で出てね、函館に車を停めて自転車で川汲峠を越えてここまで走ってきたんだよね」と答える。「ふーん、じゃぁこれから函館まで走るんだ。結構遠いですよ」なんて答えてくれる。通学で自転車を走らせていると50キロも走るのは遠いに入るのだろうけど、普通100キロ以上走る身としてはここから函館までは近いって感覚なのだけれど。
一休みしているとサッカーのゴールキーパをしていた子も水を飲みにくる。「こんにちは。札幌から来たんですか」声を掛けてくれる。「違う違う、車で函館まで来て、そこから自転車」、「でも、函館まで走るんでしょう。自転車で函館まで行くって考えたこともない」。
 うーん、この話の内容ではなくて、こうやって地域の外から来た人間と気さくに話せる子ども達ってどうやったら育つのだろう。朝方の函館の町を抜ける気分の悪さがすっかり飛んでしまった。少し前に南茅部の漁師のお祖母さんと話したことも影響してるのかもしれないが、ここ渡島半島の東には西にないホスピタリティを感じた。
小さなトンネルをくぐり、銚子トンネルを抜けると椴法華村のT字路に出る。南茅部から沖に見えていた「浮き」がここでも目にすることができる。この地帯はコンブを中心にした漁業主体の町なのかもしれない。市街地はT字路になっているが商店街の規模は小さい。ここを左折すると村役場。恒例の記念写真を撮影してT字路に戻る。先の道を直進すると行き止まりなのだが有名な恵山の水無海浜の露天風呂に出る。ここは海水と温泉の混浴(って、言うのかなぁ)の露天風呂らしい。

恵山(えさん)町
今回は、先の道からみて右折して恵山の西を恵山町へ進む。ここからは内陸の山道に入る。さほどの登りでは無い坂を越えて前に海が見えてくると恵山のT交差点に出る。ここから左に曲がり恵山に向かうことができるが、こちらのルートもいきどまり。活火山の恵山を海岸線で抜ける道は無い。今日の目玉「道の駅、恵山」を目指す。今年の8月にオープンなので、このルートは今日まで伸ばしておいた。さすが自転車でここを訪れる人間は酸くないようだが、ここは子供の遊び場、道の駅の施設、海浜の海水浴場と複合している。道の駅はそれぞれの地域で千差万別だが、ここはお勧めである。カニの販売もしているが、地元としては割り高だがそれでも千歳空港のような馬鹿高ではない。
最近ダイエットで避けているのだが、あまりの暑さにソフトクリームを食べてしまう。「コンブ・ソフトクリーム」なんてのが有るのだけれど、すなおにバニラにする。道の駅の2階のバルコニで太平洋を見ながらソフトクリームを食べているとなにやらエーゲ海の避暑地でくつろぐブルジョアの気分になる。おりから海から吹いて来る風が「エーゲ海にささぐ」のジュディオングの世界に入ってしまう。がぁ! 風に当たったソフトクリームは劇的に溶けてしまうので、幼稚園児のように手にたれるクリームを後追いでなめる無様な格好になってしまった。
海からの風を受けながら左を見ると活火山恵山の赤い山膚が見える。内浦湾を噴火湾と呼んだのは1796年に北海道を軍艦プロビデンス号で訪れたイギリスのウイリアム・ロバート・ブロートン(参考文献:続北の火の山「小池省二著」)だが、その彼が室蘭から南下して3つの火の山と称したのが樽前山、有珠山、そして恵山であった。(当時昭和新山は無かった。あたりまえだけど)
その3番目の火山を目にする。恵山近辺では方位磁石が狂うと言われているが、これは恵山近辺の海岸にある砂鉄が原因らしい。前に書いたバンダイ号遭難の事故調査報告にこの部分が触れられていないのが気になる。ノンフィクションライターの柳田邦雄も注目していない。その疑惑の地に今自分が居るのだと感じられるだけでも、ここに来た価値がある。

戸井(とい)町
 ここからいくつかのトンネルを通って戸井町に抜ける。最長のトンネルはサンタロトンネルだが、1km程である。交通量が少ないのとトンネル内が明るいので助かる。戸井町の役場で一休みしてから、あまりの暑さにコンビニで1.5リットルの桃の天然水を買う。これをサミットバックともどもハンドルからぶらさげて先を進む.なんせ,暑さで途中の給水をまかなえない。1リットルのボトルは2回程で空になる。そんな状況なので、ハンドルから揺れるペットボトルをさげてのサイクリングになる。
戸井町には汐首岬があって、ここが北海道と本州の最短距離となる。ここの灯台の下には「北海道本州つりばし17km」の看板があった。が、海の深さを考えれば現実的では無いだろう。超伝導磁石を使ったカタパルトでここから500人登場の簡易シャトルを下北半島に飛ばすのはどうだろう。スペースシャトルの最大の民間技術は推進力が無くても高速グライダーとして滑走路に着陸できる技術なのだから。
ペットボトルが揺れて車輪に当たるのを我慢しながら、出発点の石崎のパーキングエリアに戻った。
1999.08.29 本日の走行 79.5km

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