東海村におけるJCO臨界被爆事故

たまたま外勤の日で
 家で昼を食べて得意先に出掛けようとNHKの朝のドラマの最終回が近い「すずらん」を見ていた時に東海村の臨界事故速報が入った。いつもの被曝事故かと思ったのだが車で移動の最中にラジオを聞くと隣の部屋の作業員が「青い光」を見たとの話を聞いて愕然となった。チェルレンコ光(正しい名称に自信無いけど)だったっけ、核の光と言うか火を作業員が肉眼で見たとの情報には驚いた。実際には光が発せられるのでは無く、人間の眼球に飛び込んだ中性子が眼球の中の水分と反応して光るのだ。これを知っている人ならば「青い光」の言葉でいかに重大な臨界被曝事故であるか解ったと思う。
 臨界に達する事故が核燃料生成過程で起こるのは理論的には有り得るが、まさか、操作マニュアルもあり、特に悪意で作業しているので無ければ臨界は考えられない事故と言える。
 とっさに休眠宣言したオウムのサリンに代わるテロかと思った。
 作業員は典型的な急性放射線傷害の様相を呈しているし、とにかく「青い光」なのだから、最悪チャイナシンドローム。そこまで行かなくても高熱の放射性物質と水が反応して水蒸気爆発もしくは水素爆発。原発と違って防爆壁になっていないからウランとその核分裂物質の爆発による施設外への飛散。風に乗って運ばれた放射能の降着による土壌汚染。事故の規模としては原発程では無いが、原爆被曝国民である日本の文化からすれば所沢のダイオキシン並の世間の反応が予想される。
 車の中で事態の推移を聞きながら大変な事故が起きたと認識したのは9月30日の14時頃の事。
 車の中で聞くラジオのアナウンサーの緊迫感の無さには驚いたが、世界で同等の臨界被曝事故が過去にあったのか、あったのならその対策はどのようにしたのか、そんな追加情報が欲しいのだがまったく報道されてない。ただ、救急車で運ばれたとか繰り返すばかり。そもそも被曝事故に逢った作業員の放射能汚染はどのようであったのか。そのような汚染患者に対応できる医療施設や医療設備が近隣の病院で予め用意されていたのか。
 もっと、根幹的な部分だが、このような事故を想定した危機管理マニュアルはどのようになっていたのか。そのような知りたい情報が一切伝わってこない。

ラジオを聞きながら
 仕事を終えて自宅に戻ってラジオを聞きながら今研究中の「ペルチェ冷蔵庫」の部品を作りながら今回の東海村の事故情報を聞いていたのだが、ニュースで「再臨界の繰り返し」の話が流れて来る。つまり、容器の中で放射性物質が臨界に達して発熱し、これが爆発となる前に容器内で対流し臨界量を下回り、冷えると底に集まって再度臨界点に達する事を繰り返しているとのこと。これも止める方法が無い。
 政府が21時に東海村の臨界事故に関する緊急対策本部を設置することを決めたがこれは遅いと言うより災害認定して自衛隊を使うつもりを宣言したと受け取った。この時点まで、JCOからの提言を受けて東海村が事故現場の事業所から半径350メートルの住民への「避難の呼び掛け」。これに加えて茨城県から東海村のJCOから半径10kmの住民に屋内待機が発せられている。
 国がさらに対策本部を設けるのはこれらの組織が対応できない災害派遣以上の自衛隊の出動を念頭に置いていると理解していた。
 さて、どんな事故が東海村のJCOで起きていたのかを正確に説明するのは情報が少なくて出来ないのだが、当時僕が認識した事柄をを今時点(99.10.04)で整理してみたい。
まず、事故の影響が何かと言うと、これは中性子の被曝である。爆発が無かったしウランの量は16キログラム程度なので、これが外部に飛散しても統計的には「薄まる」範疇だろう。一番怖いのはJCOの事業所から打たれる中性子線(α線)が周辺の住民を被曝させることだろう。中性子線を防ぐ方法は現在は無い。とすると被曝量を記録する装置やプレートを持たない一般の人は一過性の被曝を受け、それを後になって証明できない状態になる。
 分かりやすく言うと、一過性の放射線が多量であっても、放射能物質と違い蓄積滞留されないので後から第三者に被曝量を証明する方法が無いということ。
 今はそう呼ばないが、「レントゲン技師」(現在は放射線技師)は浴びた総量を管理しているがレントゲン撮影された患者は被曝量を管理していない(出来ない)。だから、一過性の被曝をどれくらい受けたか、3名の作業員も含めて何も解っていない(作業員は累積被曝カードを付けていなかったらしい)。
結局、ピーク時にどれくらい中性子線が出て、周辺住民が浴びたかを事後に解る方法が無い。作業員の被曝量から距離を考慮して計算するしかない。
しかし、インターネットは便利なもので、周辺のモニターリング情報をホームページで見ることができる。場所はhttp://www.jnc.go.jp/ztokai/kankyo/realtime/tbl_msr4.html 48時間前までなので今は表示されてないと思うが、(その後、特別なページが用意されている。ここにある)。ここでγ線のモニタリング数値を参照できる。なんと東海村の事故では2時間おきに再臨界が起きていた様子がここの数値からも解る。

周辺のモニタリングをインタネで公開せよ
 とにかく隠す、一生懸命隠す。これが原発関連施設の東海村JCO臨界事故の現場の対応である。最近は前述のようにインターネットでバンバン情報が開示されているので隠せないのだが、それでもすぐにばれる嘘をつく。今回の事故で記者会見場で説明していた工場長らしき人の誠実さは伝わってきたけれど、所詮小さな嘘をつくか、大きな嘘をつくかの違いでしか無かったようだ。
 操作手順が違法だったと騒ぐマスコミもマスコミで、違法なら事故が起きて、遵法なら事故が起きないなんて論理は無い。事故は常に死角で起きる。起きてから安全基準の不備に気が付く。その繰り返しは必然である。だから、原発の安全管理を信じることなく万が一の危機管理が必要になる。
 安全管理と危機管理は矛盾するものでは無い。100%の努力で安全管理しても尚危機管理するのは安全管理が100%で無いことを指しているのでは無い。言葉のあやだが危機管理の基準は120%以上の安全管理のさらに高い所に照準を当てている。安全管理で言う「起きるはずが無い」範疇の領域にまで踏み込み、策を講じておく(想定しておく、臨機応変に対応する)のが危機管理である。
 この100%から上に踏み込むことは安全管理への愚弄だと考える風潮が技術者の世界には有るようだ。日本人の特性なのか、火山のハザードマップを作ると温泉街から危険地図なんかいらないとクレームが来るように、安全管理と危機管理の違いや、双方の必要性が解らないのは災害に対する教育の不徹底だろう。
 マスコミがハザードマップを見て、やっぱり危険なのかと言った論調を持つことも問題で、ま、マスコミはレトリックな文章で「売らんかな」の営業の兵隊をそろえるより少し理工系の人間を増やし科学的な論点を示したら良いと思う。
 なににも増して必要なのは、高学歴社会の現代で、情報を的確に開示し、個々人に判断の根拠を与える体制の整備である。避難勧告すればおとなしく従う時代では無い。自己責任で判断できるだけ情報を提供して、同じ情報から避難が必要と判断したとの説明が果たせなくては住民は納得しないし指示に従わない。
 何点かおかしいところが有った。
1)半径10kmを算出するのに風向の裏付けが無かった(当時、風は海から陸への東風であった)。
2)半径350mの根拠。中性子線の射程距離と言われているが、途中の遮蔽物との関係から実際はもっと狭いと思われる。
3)避難所での甲状腺検査。テレビで見た人が多いと思うが、首のあたりに計測機をあてて甲状腺への放射性物質の集積を計測していた。原発事故ならいざしらず、あの段階では核分裂物質であるセシウムが検知されていないのだから甲状腺の検査は無意味である。危機管理として原発事故マニュアルしか無かったことが証明されている。

怒る東海村村長、知事の無能
 最後に述べておきたいのだが、「違法操業に怒りを覚える」のは住民の感情である。行政のトップである村長(なんで、人口3万5000人、職員数450人も居るんだ? 東海村)や知事が、これ幸いとマスコミの論調に乗って親会社の住友金属工業やJCOを呼び付けて怒鳴りちらすのか。
 行政のトップとして小渕総理や科学技術庁長官を呼び付けるのが筋だろう。JCOは税金を払ってくれる自治体から見たお客様で、違法操業を見付けられなかったのは行政の責任である。それを、違法な操業により事故を起こした会社が悪いといだけ片付けていては、安全操業に関する国の許認可は無責任な余計な作業で税金の無駄使いでしか無い。
 監督官庁が監督官庁たる責任を国民に対して果たせなかった責任は何時もうやむやにされる。監督官庁が職務を果たせない時のPL法が必要だろう。少なくとも原子力行政が国民のコンセンサスを得るためには違法操業をした会社が悪い、許認可の監督官庁には責任が無いなんて論法は通らない。
 違法を見付けられなかったのなら、監督官庁への国民の信頼は失墜してるのだから。東海村の村長や知事がまず率先して行わなければならないことは、住民に対する説明と対策の明示だろう。企業のトップを呼びつけて怒鳴り散らすなんてのはヤクザの親分でもしない(この表現が一部のヤクザの親分に不快感を与えたことをお詫びします)。
 「信じていたのに裏切られた」なんて言い分は行政のトップには言い訳でしか無い。行政のトップの果たすべき職務を自覚していない行動だ。

NHKの異常に迅速な報道
 気になったのだが、NHKは今回の東海村の臨界事故の報道に異常なほど時間を裂いている。その真意は解らないが、NHKには「原発事故報道のマニュアル」みたいなものが有るのだろう。それを今回行使したような気がしてならない。
 妙な言い方だが、NHKには原発事故を想定した放送方針の危機マニュアルが存在し、それが実行に移されたってことで、NHKは危機管理できてるなぁと変な感心をしてしまった。
 それは、安全管理上は安全だが、危機管理上は安全が損なわれた場合の対処を事前に検討しておくって危機管理の基本中の基本をしっかりNHKはシナリオを用意していたってことだろう。安心して良いのかどうかは別にして報道機関として当然の処置を事前に行っていたとしたらNHKは捨てたものでは無い。
 以下は余談。
シーベルトを「シートベルト」を読んだ女子アナの報道が数件。
JCOをJOCと言った報道(以後の訂正無し)。
ミリベクレムとマイクロベクレムを間違え、まったく訂正しない無関心(1000倍違うのだ)。
中性子防護服の提供を米軍に依頼した自衛隊(米軍から、そんな防護服は世界広しといえど、何処にも無いと断わられた)
「バケツ」としか表現できないマスコミ(正確にはトレィとかバケットだろうに)
最大のお笑いは「臨界」が何か解らないJCO東海村の馬鹿。

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1999.10.04 Mint