不審船’99の教訓は生かされなかった

不審船で検索すると1999年の事件
 ここのページでも前回の能登沖の不審船の情報が有る。情報はhttp://speech.comet.mepage.jp/news01/mint_056.htmにある。この時は首相(小渕首相)から防衛庁に「海上警備行動」の要請が初めて有った事件だ。一度も抜かれなかった伝家の宝刀を抜いた事件だった。
今回何故要請が行われなかったのか。海上保安庁の巡視船「いなさ」、「みずき」、「あまみ」が行った射撃は20ミリ機関砲であり漁船相手には十分な火力であるが、相手が自動小銃やロケットランチャーを持ち出しては海上保安庁の船舶では太刀打ちできない。現に、「あまみ」は防弾装備がなされて無く、貫通弾の破片により2名が負傷している。
 「威嚇射撃」が行われたが公開されたビデオで解るとおり相手の船が出火したのだから「危害射撃」であることは明確だ。実際に記者会見に応じて警備救難部長は3隻が行った射撃は「計590発。うち、187発は不審船からの銃撃に対する正当防衛射撃」と、威嚇射撃以外の射撃を認めている。
 海上保安庁の使命は海上の安全確保であり、戦闘行為は使命では無い。海上の警察としての役割は取り締まりである。1999年の事件では早々と海上自衛隊の出動を要請したのに、今回は何故軍隊を用いず警察で対処したのだろうか。

危機管理以前の「なわばり争い」
 「テロ特別措置法」成立と同時に海上保安庁の警備行為の拡大の法律改正も行われた。これで海上保安庁は1999年のような不審船への対応が十分出来ると考えたのだろうか。少なくとも「あまみ」は自動小銃程度の武器でも貫通する船体であった。そして負傷者が出たのだから、法律に準じた行動がとれる準備は整っていなかったのだ。
また、現場には中国漁船船団が居て、ここに紛れ込まれると銃撃が困難になるので夜の強制接舷になったらしい。作戦として間違っているのは攻める(仮に乗り込みを目的としたとして)には守る側の3倍の兵力が必要であると言われてる常識を無視していることだ。相手不審船には10名程度の乗組員が目視されてるのだから、こちらは30名程度の武装兵力が必要になる。
しかし、応戦したのは64式自動小銃1発のみであった。「相手が撃ってくるとは思わなかった」のであれば「なめてかかった」としか言いようが無い。8時間近く追跡して、しかも火災を起こして消火の後さらに逃走を続ける不審船に接舷して「逮捕」しようとすれば、当然武装する必要がある。その判断が東京を含めて甘かったと言わざるをえない。

「海上警備行動」を要請すべきであった
 漏れてくる情報によると前日に防衛庁から不審船が居ることが伝えられ、対応を練った上での海上保安庁の出動だったらしい。マスコミに流された時間より半日ほど早く官邸は情報を得ていた。そして、入念な(実際は方手落ちなのだが)作戦を練って海上保安庁の出動となったのだ。この時点で航空自衛隊も含めた「海上警備行動」を要請しておけば、事件はまったく違った展開になっただろう。自衛隊の出動となれば経済水域内での行動で、不審船は取り逃がしていたかもしれない。しかし、1999年の教訓は取り逃がしてでも国を守るのが最優先であったはず。何も拿捕まで行く必要は無い。しかも「北朝鮮らしい」と判断していたのなら拿捕しても外交交渉が難しく、また、自爆の可能性も高かいだろう。そんな外交問題に発展しては広義の国を守る行動に結びつかない。
 10ミリ機関砲だけでは不審船を拿捕することは出来ない。撃沈するつもりなら証拠の確保のためにも昼間攻撃すべきである。接舷するなら火災を起こして停船している時に行うべきである。総て東京からの指示が後手後手になったためだろう。最初に「威嚇射撃」と呼ばれてる「危害射撃」が始まったのは午後2時36分。不審船沈没は午後10時13分。この間に火災による停船を夾んでいるのだから現場判断はすべて東京に委ねられていたとしか思えない。20ミリ機関砲を発射するビデオではわざと「ただいま正当防衛射撃開始」などの声が入ってる。この「正当防衛射撃」は後に(24日)に正当防衛射撃の範疇で無いことを海上保安庁自らが認めている。

海上保安庁の装備では不審船対応は無理
 1999年の教訓ってまさに、ここでは無かったのか。だから「海上警備行動」の要請を行ったのだろう。何故、今回、海上保安庁だけで良かったのか、その判断の是非を問いたい。不審船を捕らえて何を行いたかったのか政府の筋書きを知りたい。結局、広義の「国家の安全」では無くて、縄張りの中の自組織のアピールに留まったのではないか。法律を改正して海上保安庁の警備強化を行ったが、本来、「海上警備行動」の要請を行う場面でも国土交通省所轄で済まそうとした、作戦の間違いが有ったのではないか。
 マスコミもこの点をしっかり情報収集して報道してもらいたい。
 読売新聞のホームページを見ると「砲撃」などの言葉があるが、世界の常識では20ミリ機関砲は「砲撃」に当たらない。旧軍隊の表現でもあるまいし、機関砲であっても銃撃の範疇なのだ。もう少し勉強してもらいたい。

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2001.12.25 Mint