駒大苫小牧高校〜優勝旗は津軽海峡を越えた〜

最高の日程で最高の感動
 たぶん北海道人にしか解らない部分もあると思うが、2004年夏の甲子園で駒澤大学付属苫小牧高校(以下、駒大苫小牧)が決勝戦で愛媛県代表の済美高校(さいびこうこう)を10-13で破り北海道の高校として初めて甲子園優勝を勝ち取った話。
 北海道では夏休みが本州より短いこともあり、高校野球は2学期が始まったころに決勝戦がある。夏の甲子園よりも春の選抜のほうが春休み期間に決勝戦があるので記憶に残ることが多い。ま、社会人になってしまうとあまり関係無いのだが。
 僕にとって記憶に残る高校野球は多いのだけれど、春の選抜大会は1963年に北海高校が準優勝した試合。じつは小学校6年生だったのだが家族のだれも高校野球に関心が無く、一人ラジオにかじり付いていた。当時の技術の限界なのか中継の音がメロメロで、試合が終わってもどちらが勝ったのか分からなかった。この時の選手の一人が現在のヤクルトの監督の若松選手だったのは後年知った。
 あとは、何年だったか忘れたがハイジャック事件があって高校野球中継が中断した年もあったなぁ。
 今年の日程は準決勝土曜日、決勝日曜日と時間の都合が付けやすかったので、駒大苫小牧も再度準決勝から観戦できた。駒大苫小牧の初戦はお盆休みで実家でパークゴルフ場で流れていたのを聞いた。9回3点差でノーアウト満塁。あ、また「北海道的な」で終わるのかなと思ったが、3者連続三振で勝利をおさめた。そのため、パークゴルフは大叩きしてしまったが。
 土曜日の準決勝は駒大苫小牧の野球ってこんな野球なんだと教えてもらった。とくに凄いと思ったのは満塁なら3人ホームに戻して(当然3点取られるのだが)スッキリ出直したほうが良い、みたいなサバサバした野球が表目に出る打線の強さだ。
 準決勝を見ていなければ決勝はハラハラドキドキの連続だっただろう。実は準決勝を見て駒大岩見沢の底力を知って日曜日(8/22)の決勝戦観戦となるのだった。

2chしながら決勝戦を見る
 なんかなぁとお叱りを受けそうだが、100年待った北海道のチームが決勝戦で勝つかもしれない試合なのだから、沢山の「仲間」と見たかった。その意味で前日の特設スレが出来ていたボードで書込みしながらの観戦って変則の観戦になった。
もちろん書込みが出来るのは相手の攻撃の時だけ、それもテレビが気になって誤字脱字の嵐(恥じ)。
 1回の表、2点をあっさりと取られる。「北海道的な」って感覚が頭をよぎる。しかしその裏に1点を返す。今までの北海道の高校野球は1点の重さに泣いた。1点も取れないで完封負けした試合ばかりが多かった。最近は打線優位なので数点獲得するが、でも相手がそれを上回って点数を取る。だから、俺達も得点できるのだって意思表示の1回の裏の1点は大きい。
 で、2回には満塁になってしまう。ここでリリーフしたのが鈴木投手、満塁からポンポンと(笑い)四球出して2点を献上。その後にヒットが出て1-5で、ああ、「北海道的な」が実践されてるぅ。
2chで絶望的な書込みが目立つ。4点差では何時もの繰り返しかと思って見ていたがゲームの流れが変わる。3回、4回と相手をゼロに押さえたのだ。裏の打撃では1点づつ返していく。
 実況を書込む以上に打線に期待する書込みが増える。
最大の書込みは以下の流れだと思う。
「こりゃ、反撃のひぐま打線だ」
「ひぐま打線は駒大岩見沢高校のコピーだろうがぁ」
「じゃぁ、なんだ」
「火がついたら何時までも消えない、駒大苫小牧のナフサ打線ってどや!」
ここで僕は爆笑で試合見てる場合でなくなった。なんて感性なんだろう。出光興産苫小牧精油所の貯蔵タンク火災と引っかけて「ナフサ打線」とは。ま、絶対マスコミは不採用だな(笑い)。
で、その「ナフサ打線」が、本当に消しても消しても消えない。

信じられない時間が流れる
 9回表、これを押さえれば勝利だ。でも簡単に行かない。8回の裏に2点差から1点加えて3点差にしたのは大きい。9回の表1アウト毎に1点やっても同点で9回の裏に進める。今の駒大苫小牧高校の力なら同点になってもサヨナラ試合につなげられる。
 ところがヒットや四球で塁が埋まって行く。ノーアウト1、3塁。満塁まで行ってしまうのか、と思った瞬間1、2塁間でのダブルプレー。ま、1点で済んだと思ったら3塁済美高校のランナーが残っている。何故? 絶対1点覚悟の状況なのに、相手の3塁走者はホームに突っ込まない。単なるミス? それとも何か考えがあるのか。
 2アウト3塁でフォアボール。で、最強の4番打者を向かえる。レフトを守っているのだが、今日の試合は駒大苫小牧高校のセンターが本塁好返球でホームで2名刺した。比べて済美高校の強打者たる背番号7番は守備で相手に点数を与えすぎた。強打者かもしれないが、外野の守りは弱い。
 そのことを解っての投入だから最高の場面が両者に訪れた。試合は3点差。場面は2アウト1、3塁。本当なら2点差2アウト1塁の場面なのだが、もう、どうでも良い話やろう。最後は内角のストレートでショートフライに打ち取って駒大苫小牧高校の、そして北海道のチームとして最初の夏の甲子園優勝が決まる。
 僕自身にとっても41年ぶりの北海道のチームの高校野球決勝戦であり、初めての優勝体験の瞬間だった。
 ただ、ショートのワンハンドキャッチはいただけない。高校野球なのだから、左手を添えて確実に補給してもらいたかった。堅牢な守備を見せて終わらせて欲しかったのだが。

閉会式、泣かせてくれよNHK
淡々と閉会式が進む。
 高野連の「総評」なるものが演説されるのだが、正直言ってテレビ完全中継の時代にアナクロな感じだ。
『西日本勢が奮わなかった』には会場から苦笑すら起きた。目の前に負けた済美(さいび)高校の選手が居るにも関わらずだ。また、台風による風水害でそれどころでは無い地域が結構あったのではないか、そんな配慮の無い発言に会場から苦笑が漏れたのだろう。
 この間、駒大苫小牧の選手は帽子を脱いで聞いていたが済美高校の選手は着帽のままだった。発言の内容はともかく脱帽して聞くべきではないのかなぁ。優勝旗の授与、そして選手一人一人にメダルが掛けられる。駒大苫小牧高校のベンチ入りした選手全員、そして済美高校の選手全員。
そして....なななぁんとNHKはここで放送をうち切ってアテネオリンピックに切り替えてしまった。あわてて民放に回すと、とうの昔に放送を終えて、こちらもアテネオリンピックを流している。
 後から解ったことだが、夏の甲子園決勝戦の北海道(札幌)の視聴率はNHKと民放あわせて怪物のような49.5%。道民の半分が見ていたのだ。この番組を途中で切るとはなんたることか。

公共放送だけど、試合が終わったんだから、って言うじゃない。
でも、あんた、不祥事を高校野球完全中継で挽回出来てませんから。 残念!
NHKは北海道民に視聴料返せ、斬り!

って感じだ。
 試合終了の瞬間「勝った、勝ったぁ!」と騒ぎ、試合終了のサイレンが鳴り、一区切り付いたところで閉会式。ま、発言に問題はあったが全試合の様子を振り返える。優勝旗の授与、準優勝楯の授与、選手一人一人にメダルの授与。ここでジワジワと「ああ、勝ったんだなぁ」と今回の夏の高校野球を振り返る。
 やがて「選手退場!」。準優勝のチームが、そして優勝チームが優勝旗を先頭にそれぞれグランドを一周して甲子園球場を去っていく。
それをおくるバックには吹奏楽団の演奏する夏の甲子園のテーマソング「栄冠は君に輝く」(全国高等学校野球大会の歌。作詞:加賀大介氏、作曲:古関裕而氏、作詞権利者:朝日新聞社)が流れる。球場では試合中の5回終了後にグランド整備の時にアカペラで流れ、NHKでも1回戦の時にはチーム及び高校のある地域の紹介の時に裏に流される。
会場だけで無く、テレビの前に集まった人も行進する選手を見ながら心のなかで「ああ、栄冠は君に輝く」とくちずさむ。
 選手の列がゲートに消え、熱い試合を繰り広げたグランドに静寂が戻ってくる。夏の終わりを告げるヒトコマ。しかも北海道に住む我々にとっては、球場を出た深紅の優勝旗は何処に行くのでも無い、こちら(北海道)に向かってくるのだ。
いままでは優勝旗を見送るだけの儀式だった北海道の高校野球フアンにとって、「選手退場」で甲子園グランドを一周したあの旗が甲子園を出て北海道に向かってくる。そんな感激をテレビの前で味わいたかった。テレビの前に集まった人々も瞬間の感動の優勝決定の瞬間とは別に互いに肩を組みながら「ああ、栄冠は君に輝く」と歌いながら思いっきり泣きたかったはずだ。
 しかも、事後の情報によると、前回雨による再試合によって敗退した駒大苫小牧の退場の時に突然雨が降ったとか。なんとも因縁の雨に、優勝の感動はより一層高まったはずだ。
 それをカットして「NHKは北海道民に視聴料返せ、斬り!」。

button 駒大苫小牧、街ぐるみの責任をどう果たす

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2004.08.23 Mint