耐震強度欠陥ビル、責任の所在の明確化が最優先

裏にある規制緩和と放置主義
 基本的事項の整理からはじめよう。全体像は調査段階にあるが建築基準法で義務付けられている耐震基準が守られていないビルが全国で発覚。これが姉歯建築設計事務所の姉歯秀次1級建築士が構造計算書を「偽造」したもの。
 ま、この「偽造」に既に姉歯氏が誰かを騙そうとしたって雰囲気があるが、この表現は意図的で適語表現では無い気がする。偽造ではなくて捏造が適語だろう。
 でビル建設となると所轄官庁は国土交通省となる。さすが対応はすばやくて建築基準法違反の建物を設計したとして熊本の木村建設(姉歯事務所に構造計算を依頼)を行政処分する方針。が、木村建設はスタコラと会社閉める算段を進めている。
 1998年の建築基準法改正により国指定の民間確認検査機関で審査が出来るようになった。もちろん、それまでは市町村が審査を行っていた。現在、民間確認検査機関を使うと市町村には建物の概要の情報しか流れない。これでは市町村が建築申請に対して可否を論ずることができない。ま、それが良いか悪いかは後述するが、この建築基準法改正が諸悪の根源って論調のヒョウローン家も居るが、もちっと現場を勉強してから発言したほうが良いのではないか。
 また、構造計算(耐震基準計算)は国土交通省指定のパソコン用ソフトで行うことが義務付けられてるが、コンピュータ神話なのか、このソフトで計算すれば間違い無いって幻想があったようだ。これも、現場の声を聞くと面白い。Yesにするために何を変更すると良いかのつじつま合わせのソフトなのだ。
 最大の問題は建築業界の業界構造の未熟さだろう。切っても切っても談合が後を絶たない現状も含めて、建築業界の体質改善から始めないと同種の事件(これも、既にあるのだが)が後を絶たないと思われる。

マスコミは犯人探しが大好きだが
 犯人を見つけ出し市中引き回しの刑に処す。なんてのは昨今のマスコミが好きな「ジャーナリズム」だ。実際はその背景にある構造的欠陥を明にするのが真のジャーナリズムなのだが、それでは視聴率は稼げないのか、はたまた岡引になりたくてマスコミに就職したのか、表面をさらっとなめて裁判官気取りが蔓延してる。
 今回のマスコミから流れてくる情報で非常に違和感があったのは、淡々と話す姉歯秀次1級建築士の態度だろう。ふてぶてしいのでも無く、わびて泣き叫ぶでも無く、淡々と「あ、やっちゃいましたぁ」みたいな記者との対応は、サラリーマンの一生に一度の買い物と言われるマンションを作っている人の感覚ってあんなもんなのかなぁと驚いた態度だった。
 実際に分譲マンションを購入した人の意見として多いのが「国も責任の一端を担っている」って発言。ま、心情的には解るが事態は建築物の瑕疵状況ってことで民事であって刑事事件では無い。建築業法に違反している面も多々あるが購入者と販売者の調整は国が積極的に介入する筋の問題では無い。あくまで建築瑕疵条項を元に販売元と調整するのが筋だろう。
 実はこれを焚きつけているのが販売側の会社。「とても自力で建て直しなんて出来ない」って住民説明を行い、住民の矛先を国の支援に向かわせているのは見え見えだ。契約上は自身の責任に帰する事柄を責任逃れしてる。それを正論として受け止め「国は何をしてるのか」的な発言をするヒョーロン家は本当やれやれな奴って感じだ。
 今回の事件の登場人物を洗い出しておこう。まず、建設を決めた施主、それを受けて設計を行った意匠設計事務所(デザイン等)、その設計で地震に堪えられるか等の構造専門設計事務所、そして施工業者。で、建物が完成した後、施主自らもしくは施主から依頼されて一般消費者(住民)に区画を販売する業者。
 建築に関わる金の流れが高額なので、それぞれの分担でそれぞれの役割をはたす。さらに、建築着手から竣工までに限れば、
意匠設計事務所(構造計算は外注)→民間確認検査機関(建築許可申請)→施工業者→竣工
となる。
さて、マスコミの好きな犯人は何処なのか。

強度計算の現場は架空の計算作業の連続
 その前に、民間確認検査機関の存在に不正が無いか検証しておこう。
実際の建築の現場では今まで重箱の隅をつつくような役所の審査よりは専門性が高く審査時間も短くなったとおおむね歓迎の方向にある。それは、不正に目をつぶってくれるって意味では無くて仕事の速さによる時間短縮をさす。それまでは、強度計算なんてやったことが無い役人がああでもないこうでも無いの繰り返しで、専門家同士が腹を割って話して問題点を指摘するってこととはかけ離れた非効率な場面が多かったのが改善されたと言う。
 ただ、民間確認検査機関の中には役所OBが役所での経験から指定された機関もあり、姉歯建築士が言っているように「通りやすい所もある」って、機関の質の問題は内包されてるようだ。
 で、本来の国土交通省ご指定の地震強度計算ソフトだが、可否の判定を行うものらしい。強度計算の元になる材料の材質を変えれば通らなかったものが通るようになる。そもそも意匠設計の図面では部材の指定が完璧では無く、強度計算を行う側が「たぶん、これを使う予定なんだろう」みたいな感じでパラメータを与えてパソコンに計算させる。で、パソコンのソフトの可否判定を可にするテクニック(もちろん合法だ)は多々有るらしい。今回の姉歯建築士の耐震強度のごまかしは、そかまで手が込んでないので発見は容易だっただろうってのが、現場の声だ。つまり、もっと高度に可否をコントロールすれば通る方法はいくらでも有るって世界のようだ。
 その高度なコントロールを見抜けてこそ民間確認検査機関なのだが、その技術の濃淡は前述のようにかなり開きがあるのが現状だ。

無責任の連鎖が潜む構造こそが問題
 先の登場人物の関係を再度整理すると、そこに利用者と直接接する部署が少ないことが解る。例えば車を買ってリコールの通知が届いた(我が家は数回経験があるのだが)とする。車をディーラに持ち込んで「リコールばかりじゃないか」とクレームを付けたとする。「今回の部品は外注に出したエアバックで我が社には責任が無いんです」などと言われたら、あなたならどうしますか。
 基本的に建築業界ってのはPL法(製造物責任)の適用を受けないか、その意識が薄い業界ってことだろうか。最終ユーザであるマンション購入者に接するのは施主もしくは施主の依頼を受けた営業業者で、自分が販売する物件がどのように作られたか、もしくは、どのような物件なのかを正確に知らない。
そして実際の製造の現場では、
検査会社「書類は整ってる。内容に間違いがあれば意匠設計者の責任」
意匠設計「施主の紹介だから。何かあったら施主の責任」
施工業者「指示されたとうり作ったのだから、指示した側の責任」
と、制度の建前とは違う本音が潜む。
 実は建設業法では施工業者は「これはおかしい」って個所が有った時は必ず設計管理者に報告し確認する義務を課している。優良な施工業者は危ない工事を受けない。これが業界を渡る者の常識らしい。
とすると、今回の一連の事件のA級戦犯(笑い)は施工業者なのだが、この部分にはマスコミは一切踏み込まない。制度の欠陥の最後の砦である施工業者の最後の砦が崩れた原因こそが今回の一連の事件の再発防止の要になるのだが。
 つまり、開発会社である「ヒューザー」が使った施工業者が熊本県の木村建設。同じく不動産会社である「シノケン」が使ったのも熊本県の木村建設。この構造が今回の一連の事件を生む「基本構造」であった。で、肝心要の施工業者は会社を清算して情報を闇に葬り去ろうとしている。
 ま、物作り技術の海外流出は単に軽工業に留まらず、日本全体のモラルも含めた理工離れが招いた氷山の一角ってことだろうか。

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2005.11.24 Mint