テクノスーパーライナーを米軍輸送に転用?

米軍再編に伴う高速輸送船
 かねてからテクノスーパーライナーにはきな臭い噂があった。高速移動が可能なので空母への転用が可能ではないかって疑惑。実際には旧日本海軍の時代では無い。艦載機が空母が高速に移動し合成風力を得て離陸するなんて時代では無いので疑惑の根拠に乏しいのだ。実際にはカタパルトから打ち出すし、艦載機を収納する格納庫、甲板に艦載機を上げるエレベータ等がなければならないので簡単に空母に転用なんてのは出来ない話だ。
 ところが11月23日になって外務省から、米軍再編に向けての高速輸送船についてテクノスーパーライナーが候補に上がっている話が漏れてきた。
沖縄からグアムに移転する米兵6000人を速やかに沖縄に移動(もちろん、武器弾薬も含む)させるのに高速輸送船が必要になるが、これを新たに建造するのでは無く就航の目処がたたない「テクノスーパーライナー小笠原」を流用しようとの考え方だ。税金を115億円も投下したのだから、これを国が借り上げて有事に備えて訓練しておこうってことだろう。もちろん、自衛隊が全面的に運用にあたることになるだろう。
 政府専用機であるB747が航空自衛隊千歳基地のハンガーにあるが、これは運行は自衛隊が担っている。本来民間機だが国によっては軍用機の(軍用輸送機程度だろうが)扱いを受けている。現に東南アジアで上空通過を認めない国もある。
この政府専用機よりさらに進んだ形態で、自衛隊が米軍を運ぶことを前提にした開錠輸送部隊を編成することになる。これって「集団的自衛権の行使問題」の範疇でまだ政治決着が付いていない問題だ。憲法9条を変えようって動きの中でも「集団的自衛権」の憲法明記が必要(拡大解釈だけでは乗り切れない問題)との方針が明示されている。

テクノスーパーライナ開発は軍事開発では無い
 目的が違っても結果オーライで行くってのは民間の発想として許されるが、国が民業振興を狙って国民の血税を投入した研究開発で第三セクタを作って船の民間海運会社へのリースまでシナリオを固めていたのに、急遽「米軍輸送」では今までの税金投入の理論武装が破綻してしまうだろう。
 かつてYS-11開発の時期開発として自衛隊のジェット輸送機と設計を共有しようとした時に政治的判断で分離し、次期YS-11を完全に潰してしまったのは日本の航空産業は軍需産業化しないとの判断があったはずだ。僕はこの判断に疑問を持つが当事の自民党の頭の悪い政治家が政治判断として下した愚作であった。
 が、今度は高速大量輸送。それもメチャクチャ燃料を消費するのでロジスティック優先、コスト度外視の軍事利用に活路を見出すなんてとんでも無い話だ。今後の研究開発テーマであるローコストオペレーションも研究されないままテクノスーパーライナーは終焉を迎えてしまう。
 これって、まさにYS-11で学んだことが生きない、前例世襲主義の弊害だろう。日本が先端技術で世界に躍進するには平和利用の技術分野しか無いのだ。トヨタが自動車分野で世界一になるのを見ても明白だろう。軍用トラックへの技術流用はあるかもしれないが、所詮、軸がどこにあるかの問題だろう。
 政府専用機も本来であれば民間に貸し出し運営させるべきで自衛隊管理に置くべきではない。たまたま時の総理大臣である中曽根康弘氏の内需拡大の政策と連動しオペレーションは自衛隊となったが、これもかなりタカ派的発想だ。本来は民間運営で使わないときは自由に事業に組み込んでよいように規制緩和すべきだろう。
 テクノスーパーライナーも自衛隊運営では無く、今後も実験を続けながら有事に自衛隊による運行って方策を考える必要がある。やっかいものを整理するような官僚の発想に乗ってはいけない。

テクノスーパーライナー小笠原は失敗作
 残念ながら、大量のエネルギーを使って高速に走行するって発想ではコストを意識しない軍事以外に使い道が無い。しかし、日本の技術開発の方向は常に「出来たものを改良」に向かっている。残念ながらテクノスーパーライナーはエネルギー多消費で現在の高速フェリーの60%増しの速度しか出ない。現在のフェリーは30ノット運航に速度を上げている(もちろん、その分燃費が落ちているが)。単純に考えて抵抗は速度の二乗に比例するので、現行のフェリーの2.5倍のエネルギーを使って60%増しの速度が出るのならなんら技術革新では無い。その意味でも「失敗作」であろう。
 しかし、失敗作が有ってこその技術革新志向なことを忘れてはいけない。地球温暖化対策としてトラックによる物資の移動は大量輸送にモーダルシフトせざるを得ない。鉄道や船舶による輸送を改善しないとモーダルシフトを起こせないし、二酸化炭素の排出量を抑えることも出来ない。
 テクノスーパーライナーはコスト度外視の軍需でしか使えないって結論にしてしまうのは早すぎる。これから実証実験を重ねて改良を積み重ね、「小笠原」から得られた改造ポイントを再設計し、本来の海上輸送の革命を起こさなければ今までの15年間に投入された税金が何の成果も生まずに消え去ることになる。
 役人の発想では「厄介者」かもしれないが、これは技術開発の種なのだ。しかも航空機の製造と違い、アメリカの横槍が現時点では入らない分野なのだ。その所を考慮して大局的な判断が望まれる。

大量輸送は有事には向かない
 軍事の面からもコメントを加えさせてもらう。記録映画で海面を埋め尽くす上陸用舟艇の映像はサイパン上陸、沖縄本島上陸、そしてノルマンディ上陸作戦で目にしている。これは兵力の分散でリスク回避の手法だ。
 敵の砲火にさらされながら数で押し通し上陸人数を確率的に多くする。一艘に1000人乗せて上陸する場合と100艘に10人づつ乗せて上陸する場合、前者は博打になる。的の砲弾が1000発として、そのどれかが当たると致命傷になる。かりに命中率が1/100だとして、10発当たることになる。後者の場合、同じ条件でも90艘900人が海岸線に達する。
 有事の場合、グアムからテクノスーパーライナーで乗船定員で740名を運ぶことになる。沖縄からグアムへ移転の兵力は6000名なので、単純計算で8往復で沖縄への再配備が終わる。がテクノスーパーライナーを早い時期に撃沈できれば、他の輸送手段に切り替えることになる。事実上1往復だけと推定すると全体の12%しかテクノスーパライナーで送れないことになる。
 航空機での制空権は確保できるだろうが、潜水艦による攻撃まで防御できるだろうか。現在のテクノスーパーライナーの速度では通常魚雷を当てるのは難しいが、仮想敵国の中国あたりではスーパーキャビテーション魚雷の実用化がされているだろう。これだと時速200km以上の速度で推進するので適当な自動制御と組み合わせればテクノスーパーライナー程度の速度では回避できない。
 また、先の上陸用舟艇のように、テクノスーパーライナーも10艘程度配備しなければ真の有事の兵員再配置には役立たない。
 これから軍事向けにさらにテクノスーパーライナーを作るのか、技術開発を続けて民生用を目指すのか。アメリカは軍事目的でテクノスーパーライナーを欲しがっている。原子力船としてのテクノスーパーライナーはロケット・ランチャーとして原子力船と同様に非常に戦略的兵器になるのだから。
 もう少し、技術とは何か、テクノスーパーライナーは日本の国益に資するって観点で大局的な考え方をしてもらいたい。

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2005.12.08 Mint