FTAに見る日本の農業の有り方と文化の有り方

農林水産大臣自死に見る混迷
 亡くなった松岡利勝氏のご冥福をお祈りします。
こと農政に関しては彼の能力に期待していた面がありましたので残念です。
 背景は様々に言われているが、そもそも東の鈴木宗雄、西の松岡利勝と称されてるように松岡利勝氏の「政治と金」についての不透明さは昨今始まったことでは無い。
当選以来、常に松岡利勝氏には「政治と金」の問題が付いて回っていた。安倍総理大臣の擁護方針が逆に内閣の存亡にかかわる「現役大臣逮捕」に及ぶと危惧した松岡利勝氏が自らの命を絶ったとしか思えない。
自らの内閣を守るために、松岡利勝氏を「結果として」犠牲にしてしまった安倍総理大臣の責任は重い。
 そもそも、昨今の農政は国際問題でWTO(世界貿易機関)やFTA(自由貿易協定)の農業交渉が国内農業に及ぼす影響等が政策決定の課題になっている。その意味でも松岡利勝氏を外せないとの考え方は判るが、それには農林水産大臣を辞任させ、しかる後に農業交渉の特命を与えればよいのであって、やはり欠かせない人材としてでは無く安倍内閣を守るための人事が裏目に出たと言わざるを得ない。
 経団連が押し自民党が推進するWTO、FTAが日本の農業にどのように影響してくるのか。日本が直面する農業交渉とはどのようなものなのか、現状を整理してみた。

FTAと略して書くと本質が見えにくくなる
 FTA(Free Trade Area)は日本語にして報道すべきだろう。的確な日本語は「自由貿易圏」だろう。本来思いを込めたいのは「同じ国として、国内として扱う」って意味なのだが、これに適語が見つからない。つまり、関税を撤廃するってことは同一国の一地方として相互に交易するってことになる。
 はたして、このメリットは何だろうか。
 相手国の人口をそっくり国内と同じ消費者としてカウントできるってことだ。
マーケットの規模が膨らむことになる。
良いことづくめのようだが、実は大きな落とし穴もある。
それぞれの強み分野(業種)にはメリットが発生するが弱み分野(業種)にはデメリットが発生する。
 例えば日本とオーストラリアでのFTA締結により廉価な農産品が日本に流れ込み、国内農業は保護政策を取らなくては壊滅的に縮小する。
保護政策とは補助金のばらまきである。自動車産業が恩恵にこうむる裏で国民の税金が農業へばらなかれる。既に食料自給率が40%の日本において、さらに自給率を下げることになる。
 また、フランスを越える192%の自給率を誇る北海道農業だが、特にFTAによる影響は大きい。北海道の試算によると1兆3700億円の経済縮小が計算されている。主な農産品は小麦の減産852億円、牛肉の減算422億円と推定される。
経団連の思考はFTA受入による市場の拡大で自民党もその方向にあるが、影響を受ける農業分野への配慮はなされていない。
 工業のために農業を売り払う政策ではないか。そのあたりに詳しかったのが亡くなった松岡利勝農林水産大臣だったのだ。そのため、安倍内閣では辞任させずに引っ張ってきたが最悪のシナリオを招いた。それと共に農業政策のプロを後任に当てるのに手間取っている。

国が違うのに経済は同じで良いのか
 国家には国家の基本がある。だから、個々の国に憲法が存在する。地勢的要因もある。日本の戦後の水産業の遠洋航海は日本の食料エネルギー元として魚を必要としたからだ。
国土が狭く耕作面積が狭い日本では米作中心の農業の相手をするのが農政だが、実は農産品の主役はもはや米では無く畜産や畑作へと移っている。にも係わらず政治は米作を農業として見ているから先のオーストラリアとのFTA締結も国内農業を正確に見ていない。
国内の地方に展開する農業を保護するだけで無く、強くするための政策も東京を中心に物事が決まるから配慮がされていない。中山間政策も箱物作りで販路作りや生産性向上には繋がっていない。
現在の農水省の主たる課題は国内農業よりもFTAやWTO農業交渉に場を移している。農水省が外交を行わなければならない時に、よほどのリーダシップを発揮できる農水大臣を任命しないと日本の農業の未来は見えてこない。
 こつこつと地方を回る民主党の小沢一郎氏の選挙対策がここまで深読みしたものかどうか判らないが、経団連と自民党が進める政策に地方への配慮は無い。
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2007.05.31 Mint