道路の税制についての歴史、経緯、未来の論議を

ガソリンが25円安くなる
 民主党の政治感覚はスローガンに終始する皮相的なものが多い。政治スローガンは聴衆を引きつけるキーワードであって、引きつけた後に説得力有る説明を行わなければならない。『ガソリンが25円安くなる、是か非か』では品格が無い。
 道路特定財源とはどのような経緯で法律化されたか、それが今の時代にまで延々と引き継がれているのは何故か、そして、時代に合った改革のビジョンの提示。このプロセスの入り口にすら到達していない民主党の「スローガンに終始」の態度は決して世論を形成できない。
 そもそも、日本の道路予算は特定予算であり成立の当初は政府の予算編成権を侵す憲法違反の法律とまで攻撃された。その根本から『歴史に学ぶ』姿勢が必要であろう。そして、道路予算を中心にした政官業のトライアングルにメスを入れ、これからの道路整備計画は過去の延長線上で良いのかを世に問うて、初めて世論形成の活動と呼べるだろう。
 それにしても、今回調べてみて1952年からの55年の道路特定財源の歴史は、トリガーに田中角栄元首相が居たとは意外だった。また、道路を造る予算が多額な割に道路の完成が遅々として進まないのは高単価体質の道路整備にあり、何故、高単価なのかの構造も見えてきた。
 道路政策は戦後60年間の自民党の敷設した線路をひたすら見直しもせず走ってきた結果だ。ガソリンが25円安くなるのでは無い、道路整備に関わる構造改革こそがこれからの日本の発展に向けて必至な政治課題だ。その切り口からのアプローチが民主党に求められる。

青年、田中角栄登場
 1952年までは日本の道路整備は一般財源から行われていた。その規模200億円(当時)。戦後の復興は石炭と鉄道に負うところが大なのだが、戦後7年を経て、次の日本の復興の決め手は道路整備と考えられた。しかし、一般財源から道路整備に回せる予算は少な過ぎた。
 そこで田中角栄青年の登場である。ガソリンにかかる税金を道路整備に限定する。道路の整備が終わるまでの特別措置法としてガソリン税(揮発油税)を道路特定財源にした。もちろん、特別措置法なので将来は一般財源化する前提で法律は成立した。
自動車専用道路から高速道路まで道路の整備には有料道路の考え方で建設時の借金を返す。これも借金返済が終われば無料化する。これも特別措置法として整備された。
 やってみると、以外とこの道路特定財源は自民党に「おいしい税制」だった。故に特定財源はその後増え続け、国会の承認を得ない予算の再配分が横行することとなった。その最大の規模を持つのが道路特定財源だ。田中角栄青年の頃は200億円だったのが途中で「さらに追加」の臨時措置法で上乗せしたので2兆円規模にまでなった。
しかも、この道路整備計画が何時までも終わらない(完成しない)。昨年の政府説明ではあと4600kmも作らないと完成しないと言う。なんで、そんなに進まないのか。実は現在の道路建設費は一般道路と高速道路の建設費を合わせて8兆円前後。この金額はドイツ、イギリス、フランス、イタリアの4ヶ国の道路建設費を合わせた額と同じ。いかに日本の道路建設予算は多額か良く解る。
 道路を整備して地方を活性化するなんてのは全然無くて、道路工事を高単価で継続することで地方に雇用を生み出す。本末転倒の道路整備がまかり通る構造になっている。道路は「使ってなんぼ」なはずが「作ってなんぼ」の構造になっている。
これって「万里の長城、ピラミッド、戦艦大和」の上を行くのでは無いだろうか。

戦後復興にかけた情熱の残り火
 時代は少子高齢化に向かい福祉重視の政策に国の舵取りをしなければならなくなっている。その時代に道路建設だけは戦後復興と同じまま残される矛盾を民主党は国民に訴えるべきだ。なにが「ガソリンが25円安くなる」だ。国民を愚弄するのもたいがいにして欲しい。
 政治が世論をリードしなくてはならないのに、不作為で手を付けてこなかった道路特定財源改革を隠して皮相的なスローガンだけで世論を喚起しようとしてもその手法は姑息過ぎる。
 道路を頂点とした特定財源(ま、永田町埋蔵金とも呼ぶが)にメスを入れるのが政権を担える政党としてアピールする格好の舞台だ。「金返せ論議」に誘導するいまの広報政策では自民党に強行されたら国民は敗北感を味わって終わりだ。
 ガソリン25円値下げが自民党のビジネスモデルの氷山の一角であり、氷山はこんなにでかいんだぞと、一角を掻き取るのでは無く氷山を粉砕するくらいの意気込みを前面に出してアピールして欲しい。
 田中角栄の手法は論議のある所だが、時代を読んで時代を先取りしたのは確かだろう。時代を読むことを忘れて(無作為)その残り火を大切にして飯を炊いてる自民党のビジネスモデルを「ぶっつぶす」のが野党の責務ではないのか。

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