無許可離陸滑走開始の新千歳空港でのJAL502便
機長が聞き間違えた
2008/2/16 10:33 当時の新千歳空港は雪が激しく降っており二本ある滑走路A、BのうちA滑走路は除雪中でB滑走路のみを利用して離着陸を行っていた。通常の新千歳空港の運用では離陸滑走路と着陸滑走路は分けて使用している。条件が少しタイトな状況ではあった。
コックピットクルーは機長席に機長、副操縦席に副操縦士訓練生、後ろのジャンプシートに副操縦士の3名乗務していた。機体はボーイングのB747-400D、JAL502便羽空港行き。
出発は定刻より50分ほど遅れでコックピットクルーは出発を急いでいた。
一方、同じB滑走路には関西国際空港発のJAL2503便が着陸した。機種はMD-90。
着陸したJAL2503はA滑走路が除雪中のため途中の誘導路を使えず、滑走路の先端まで進んで誘導路に入る必要がある。
また、後方からは着陸態勢に入った羽田発のJAL513便が新千歳空港のB滑走路に近づいていた。
その隙間にJAL502便を離陸させようと管制塔(タワー)はJAL502便に滑走路への進入を認めた。通常では先行のJAL2503便が滑走路を出たことを確認してから入れるが、ここに管制塔(タワー)も若干の無理を犯している。
当時の新千歳空港は降雪のために視界が500m(本当は800mあったと思う)程度で滑走路に入って離陸方向に飛行機を向けても滑走路の先のJAL2503便はJAL502便からは見えなかったと思われる。
マスコミではタイトルのように「機長が聞き間違えた」となっているが、細かい情報は後から出てくると思うが、通常管制塔(タワー)との交信は副操縦士の役割で、復唱しないまま「機長が聞き間違えた」のはJALの社内遵守事項に違反する。
実際の指示と会話を調べてみると
細かい解説は朝日新聞のWebにあった。
管制塔(タワー)がJAL502便に出した指示は「expect immediately takeoff」(即座に離陸できるように待機)である。通常の管制用語マニュアルには無い用法である。このexpectを聞き落とす(聞き間違えるでは無く)と(直ちに離陸せよ)になる。
これが現段階の事故調査関係者の見解らしいが、かなり言葉遊びになっている感じがする。
まず、復唱の問題。この副操縦士訓練生は「ラジャー」と答えて一緒に離陸滑走準備に入る。通常離陸の指示は「JAL502 cleared for takeoff」と管制塔(タワー)から出され、JAL502便では「roger cleared for immediate take off JAL502」と返す。復唱と言うよりも自らの行動を管制塔(タワー)に伝える。これが管制塔(タワー)の意向と合わなければキャンセルを伝えてくるが「roger」だけでは管制塔も対応が出来ない。
幸い新千歳空港には地上監視レーダーがあるので、JAL502便が動き出して60ノット(100km/h)あたりで管制塔から停止の指示が出され両機は最大で1500m程の間隔で止まった。
実際にどの程度先発のJAL2053便が滑走路から出ていたか判明しないが、一方は離陸する航空機だから速度をどんどん上げてローテーションあたりでJAL2503便が視界に入ってくるのではないだろうか。もはや飛び越えるしか無いのでさらに操縦桿を引いて失速になりJAL502便は場外に墜落していたかもしれない。
国土交通省が重大インシデントに指定するのは十分な意味がある。
ちなみに滑走路の使用権を認めるのだから離着陸の最終判断は管制塔(タワー)にある。我々が「もうすぐ着陸だな」って頃にはまだ搭乗機に滑走路に降りて良いって許可は出ていないことが多い。準備はするが着陸許可はギリギリのタイミングで出される。
ちなみに、航空管制用語では着陸許可は「Cleared to land」離陸許可は「Cleared for takeoff」何が許可されたのか間違われないようにtoとforの違いがある。自分の航空機に対する許可なのか他機への指示なのか、余裕を持って判断できるように用語は厳選されている。
その後の対応が後手々のJAL
一番割を食ったのはアプローチ中のJAL513便だろう。管制塔(タワー)から「ゴーアラウンド(着陸復航)」を命じられて雪で視界の悪い中(たぶん、ILS進入中)キャンセルして手動に切り替えパワーを入れてギアアップと大忙しで着陸復航して苫小牧上空に抜けたのだろう。この時直下にはJAL502便が見えていたと思われる。
事件が起きたのは10時33分頃。この後、離陸をキャンセルしたJAL502便は誘導路を回って駐機場で天候回復の待機に入った。そして乗客を2時間近く缶詰にした後の午後0時50分頃に乗客を一端降ろし、事故の報告を管制塔(タワー)に行った。
羽田に向けて出発していれば、エンドレステープのコックピットボイスレコーダー等は上書きされて状況を再現することが出来なくなる。JALがそれほどのインシデントでは無いと判断した根拠は今現在も示されてない。
今回のインシデントの原因を過度にJAL側に求めるものでは無いが、パイロットの優先順位は安全運行が最初にあるべきなのに、定時運行を優先してしまった結果では無いだろうか。もしくは、そのプレッシャーを強くコックピットクルーが感じる社内的背景があったのではないだろうか。
確認に確認のし過ぎは無い。安全をコックピットクルーの誰かに委ねるのでは2マン・クルー制度が無意味になる。しかも、今回は訓練生とは言え3名もコックピットに居たの何故誰も気がつかなかったのか(現在は通常2名のコックピットクルーで運行してる)。
副操縦士研修生なら、なおさら基本に忠実に物事を運んで会得させるべきで、同乗した副操縦士が指導的機能を果たしてないのは何故なのか。
加えて、航空自衛隊が管制する空港に起こりがちな事象では無いのか、再発防止に重要な検討項目だろう。
新千歳空港での滑走トラブル
2005/1/22 JAL1036便B777が離陸許可を受領しないで離陸滑走を開始し管制(タワー)より停止の指示を受ける
2007/6/27 夜、羽田行きスカイマーク730便離陸するため、滑走路に入ったところ前方を全日空機が横切って行った。
2008/2/22 朝、羽田発のギャラクシーエアラインズ901便(貨物)が航空自衛隊千歳基地の滑走路に誤着陸寸前のミス。