MRJ、日の丸ジェット旅客機は離陸するか
初期投資が1500億円の事業
小型ジェット旅客機であるMRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)の開発は今回設立される製造会社の設立にかかっている。先の国産旅客機であるYS−11の場合、日本航空機製造(日航製NAMC)が政府主導で設立されて本格的な設計を始めた。但し、作れば作るほど赤字のYS−11事業は結局撤退を余儀なくされた。YS−11の歴史を振り返る本が最近になって多く出版されているが結局「技術的に成功、商売は完敗」の評価が定着してる。事業主体が明確でなくマーケットリサーチも乏しく作るだけで手一杯の状況に陥ってしまったのだ。
今回の事業概要を見ると製造会社の資金は1000億円。政府拠出が3年間で500億円程度、最近になってトヨタ自動車が出資の意向を表明して100億円程度、三菱商事が100億円、住友商事と三井物産がそれぞれ50億円程度、残りを三菱重工が負担する構成になる。
ただ、一番懸念されるのは開発費用がこの枠内で収まるかどうか。往々にして航空機の設計製造は遅れ遅れで進み、当初予算を食いつぶしてもなお作業が完了しない。ヨーロッパのエアバスも政府出資が1/3と見込まれたが結局半分近くを各国の政府出資に頼らざるを得なかった。
ボーイングの下請けで培ったノウハウも有ると思うが、各国で挑戦している小型地域)ジェット旅客機に対して競争力を持ち販売実績を積み上げられるのか、課題は山積している。
世界に旅客機を輸出して商売として成り立っている国は10ヶ国程しかない。その牙城に日本が食い込めるのかは国の支援と前回のYS-11の経験に依存するが前回の教訓から学び「日の丸旅客機」の実現に向けて努力してもらいたい。
MRJは市場投入のタイミングが命
MRJの市場投入予定は2012年に設定されている。もちろん試作を終えて型式証明を取得して量産が始まり各国のエアラインに引き渡しが始まるのが2012年。かなりのハイペースで物事を進めなければならない。
先のYS-11ではいわゆる「三軸問題」で型式証明取得に1年半の足踏み状態が続いた。1964年の東京オリンピックの聖火を運んだ「オリンピア号」はぎりぎり間に合った状況であった。
もっとも、高揚力実験機である「飛鳥」は元の機体があったので1年の短期間で作成できたこともある。ただし、これは富士重工の仕事だった。
実は2012年に市場投入が必須なのはこの時期に世界の小型航空機の需要がピークを迎えるから。大型機による基幹路線就航と地域への小型ジェット旅客機による乗り継ぎが航空利用の主流になりつつあるので、機体の量的には小型ジェット旅客機は今後世界で5,000機の需要が見込まれる。現在のB737-800もさすがにこの頃には引退しているだろう。
ただ、競合他社が多いのもこの規模の小型ジェット旅客機だ。現在のボンバルディア・エアロスペース(カナダ)を筆頭にエンブラエル(ブラジル)、スホーイ(ロシア)、AVICI(中国)が市場参入してくると思われる。
この状況の中で開発費を賄うには600機程度の販売実績が必要になる。先のYS-11は182機製造されて公官庁も含めてエアラインに販売されたが、その3倍のビジネス規模にする必要がある。
優位な技術で他社を差別化できるか
航空機の燃料負担が大きくなっているのでなんとも省エネな機体にする必要がある。航空機の燃費を左右するのは空気抵抗もさることながら機体重量が一番大きい。カーボン・グラファイトのような材料を多用し少しでも軽い機体に仕上げる必要がある。
また、三菱重工はボーイングB787の主翼の生産を行っているのだから、コックピットもB787と同じにしてパイロットの融通が容易な構造にするのが良い。そのためにパテント料をボーイングに支払ってもエアラインの支持を受けるだろう。現時点ではエアバス仕様のスティック操縦桿を想定しているようだがボーイング方式がデファクトスタンダードなことを考慮したほうが良い。
また、そのボーイングが三菱重工の開発会社に出資する方向があるらしい。現在のボーイングの機体戦略では100席以下の旅客機は製造しておらず競合する関係には無いとの判断から。
好材料もあるが航空機産業は先進国のアメリカでも1機種間違うと会社の倒産、吸収合併に繋がるリスクの高い産業だ。最後は国に泣きつくのではなくしっかり「技術的に成功、経営的にも成功」となってもらいたい。