食料からバイオエタノール作っては意味がない

家畜生産に打撃が出ている
 人類は肉を食べるようになってから代謝機能が他の動物と比べて飛躍的に向上し脳の発達を促し現在の文明に繋がったと言われている。一部には菜食主義者も居るが人体で生産できない必須アミノ酸は食料から取らなければならない。たしか、菜食主義者でもチキンは食べているはずだ。
 そもそも、遊牧民の時代の家畜放牧から大規模な肉生産に事業化されて家畜の食料も粗飼料(畑で育てた牧草)から配合飼料に変わっている。このため、1キロの牛肉を生産するために10キロの穀物を必要とする。その穀物は人類の食料にもなる。つまり、1キロの牛肉を消費する人は10キロの穀物を消費しているのと同じになってしまった。高密度で大規模な肉生産が世界の食糧事情に好ましくないのは、配合飼料の原料も国際商社を通して換金商品として流通し、飢餓に悩んでいる地域があるにも関わらず、その人々の手に渡らず輸出に回される現実がある。
 例えば南米の農業で生産された穀物は地元で消費されず外国に輸出される。アルゼンチンでは日本に26万トンものトウモロコシを輸出してるが、国内では1000万人が飢餓にあえいでいると言われている。
 アメリカでは、そのトウモロコシからバイオエタノールを作るプラントが急拡大し、トウモロコシの値段が高騰して小麦の作付けを止めてトウモロコシに切り替える農家が多く、ここ2年で国際取引での小麦の価格が2倍にもはねあがっている。同様に大豆作付け農家もトウモロコシに転換が進み大豆の国際価格も2倍近くに上昇した。
 食物連鎖のみでは無く、エネルギー連鎖の中に人間の食料が組み込まれ、金を出しても食料を購入できない飢餓層が地球上でますます増えることになる。

トウモロコシ由来バイオ燃料は効率が悪い
 アメリカという国は合理的な考え方に弱いのか、1920年代の禁酒法のような頭を傾げたくなるブーム性の出来事がよく起こる。ま、何でも法律って国だから「我が町の境界線内で核爆発を起こした者は50ドルの罰金に処す」なんて法律まで明文化されている。
 今回のトウモロコシ騒動はあきらかにブーム、それも金銭的なインセンティブによるブームで実はちっとも地球に優しくないのだ。
 トウモロコシから作られるバイオエタノールは「でんぷん→糖質→エタノール」の行程を進む。各行程でエネルギーを必要とするので製造段階でCO2を排出する。トウモロコシを作ることにより大気中から吸収されたCO2と、出来上がったバイオエタノールが燃焼して排出するCO2の収支は悪い。バイオエタノール作成に使われるエネルギーとバイオエタノール燃焼により得られるエネルギーは1.3倍程度。生産工程が小規模で低技術な場合は1.0倍を割ってしまう事例もある。つまり、エネルギー収支(CO2収支)は赤字になる場合もある。
 トウモロコシ由来のバイオエタノールは決してCO2排出削減に貢献するものでは無い。
 一方、ブラジルで大量に生産されているサトウキビは、そもそも茎の糖分含有量が20%近くあり「でんぷん→糖質」の変換が無い分バイオエタノール生産に必要なエネルギーは少ない。先のCO2の収支で言えばサトウキビ由来のエタノールは生産に要したCO2が少なくて済み加工に必要なエネルギーの8倍ものエネルギーを発生させる。CO2収支もかなり低く抑えられる。つまり、吸収したCO2を再度大気中に戻すにしても生産時に必要としたCO2はトウモロコシとは比較にならないほど少ない。
 アメリカはバイオエタノールを作るのに熱心だが、これによりCO2排出量が削減される訳では無い。なんで、そんな政策を行うかと言えば、世界のエネルギーの主導的立場になりビジネスを牛耳るためとしか思えない。現在、バイオエタノールを輸出可能な国はアメリカとブラジルにかぎられている。この独占状態で世界を席巻しておこうとのアメリカのエネルギー戦略がみえみえなのだ。

もっとも、食料で燃料を作ってはいけない
 世界の国々で飢餓に苦しんでいる人が居るのに産業界の求めに応じて食料を工業製品のように燃料に変換するのはいかがなものかと思う。
 実は上記のトウモロコシ(でんぷん由来バイオエタノール)やサトウキビ(糖質由来バイオエタノール)よりも着目されているのがセルロース由来のバイオエタノールだ。
 アメリカのブッシュ(和名では「藪」なんだよね)大統領が一般教書演説の中でアメリカ国内で生産可能なスイッチグラスと言う雑草を主原料にバイオエタノールを生産する実証プラントに予算を付けて推進してる。実は、本格的に地球規模でバイオエタノールを生産するにはセルロース由来の生産が欠かせない。
 それも、食料では無くて廃材や農作物の食べない部分を利用してこそCO2排出削減(均衡)に寄与するのであって、食料を食べないで加工品にするのは持続可能な方策では無いだろう。
 現状では商用ベース(採算ベース)に乗るセルロース由来バイオエタノール生産技術は実験段階だが、微生物による発酵技術なので日本にも古来からの技術蓄積がある。実は、本田技術研究所などか積極的にセルロース由来バイオエタノールの研究を進めている。
 現在のバイオエタノールの輸出国はブラジルが圧倒的でアメリカは数年前までは国内消費分も賄いきれなかった。日本は生産そのものが実験段階で石油の価格上昇が先かバイオエタノールの自給が先か数年で結果を出す必要があるだろう。現時点では熱量換算ではガソリン(原油輸入で精製)を輸入するほうが安いが数年先は解らない。
 とにかく世界で飢餓に苦しんでいる地域が多いのに、食料をクルマの餌にすることは避けなければならない。それが技術の使命だろう。
 セルロース由来バイオエタノール生産技術の確立が世界の飢餓を防止する。

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