イージス艦「あたご」の防衛省の中間報告

単なるヒアリング記録だが
 防衛省ホームページに3月21日に掲載された船舶事故調査委員会の報告書
 正直この報告書を読むとイージス艦「あたご」は一切回避行動を取らなかったことが解る。
 前にイージス艦マグロ船団に突入で、当時の情報不足から一部憶測で書いた「衝突後に停船したのではないか」って疑いが現実のものになった。
 報告書の中間部分で船首のモニターを見ていた当直員Fは「清徳丸」と思われる船が船首をよぎった後に両舷停止の指令を聞いている。
 また、そのすぐ下の脚注に当時防衛庁が発表した「3時55分頃に「清徳丸」の明かりを視認した」とか「4時5分頃に右に緑の(右舷)の光を見た」との情報は聴取されていないと書かれている。
今回海上保安庁が調査中の核心に迫る見張り員のヒアリングは出来ていないので、この部分が欠落してるとも解釈できるが、基本的に回りの見張り員の知り得た情報では2分前から気がついていて1分前に両舷停止、そして全速逆進に推移する感じでは無い。
 衝突して二つに割れた清徳丸が左右に去っていくのでイージス艦「あたご」が停船しバックしたってのが実態では無いのか。
 さらにこの報告書には互いに矛盾するヒアリング結果が記述されている。衝突後に気がついたのか、衝突前に回避処理を取ったのか、個々の当直員の証言が一貫していない。
このあたりはより核心に近い当直員を調べている海上保安庁の発表が待たれるが、基本的に当初防衛省から発表されていた数々の広報に誤った情報が相当数含まれていたことは事実のようだ。

なによりも速度を落とすことだろう
 複数の船が同じ方向へ進んでいるのを発見したら、船団の中に入り込みそうだと考えるのが普通だろう。そして船団ごとやりすごすか、船団が通り過ぎるまで減速して灯火を付けて警告を発するべきだろう。
 イージス艦「あたご」クラスの艦橋の高さがあればレーダが事前に船団であることを見通すことが可能だった。また、目視でも白灯群(報告書の記述のまま)が見えていた。白灯が見えると言うのは自分たちを正面に見て進んでくる船があるってことだから、衝突軌道上にあり、なんらかの対応(例えば、せめて自動操舵(オートパイロット)は切る)を第一段階で取るべきだろう。
 4時5分ころの時点で複数の白灯と紅灯(漁船の左側が見えている)は確認されていた。
 4時6分には右70度、距離100mに清徳丸と思われる紅灯を見ている。清徳丸側の見張りが不十分だったのか、イージス艦「あたご」の船首を交わすように右から左に横切ろうとしている。事実、衝突時の状態はイージス艦「あたご」の船首が清徳丸の左舷にやや後ろから当たっている。当直員Cのヒアリングからも清徳丸は直前に面舵(右方向)を切っていたようだとあるので、船首を交わそうとしたと思われる。
右70度からの、かなり深い接近で取り舵(左)は切れずしかも常識としてイージス艦「あたご」は右に切ってくる(衝突防止は相手船舶を右に見るものが回避行動を取る決まり)だろうから清徳丸の面舵は妥当なものだろう。

はじめから矛盾した広報がなされていた
 一番の矛盾は汽笛になるだろう。少なくとも右70度から高速(イージス艦「あたご」の倍近い速度)で接近する清徳丸に警告の汽笛を吹かなかったのが不思議だ。これはイージス艦「あたご」が気がついていないからではないのか。
 自動操舵(オートパイロット)の解除。これは、下手に動くよりも真っ直ぐ進んだほうが避けてくれると考えていたのではないか。それよりもレーダ情報で船団の真ん中に迷い込んだので舵の切りようが無かったのかもしれない。それであれば、減速が選択肢として合理的だろう。避けてくれると思いながら自動操舵で進むのはクルマの運転で言う「だろう運転」でしか無い。
 確かに清徳丸にも見張り不十分の可能性がある。目視で状況を見たり無線を聞いていれば船団の中にイージス艦「あたご」とは名称は解らなくても軍艦が迷い込んだことは解るだろう。直前に回避した船同士で無線交信も行われていた。
 それにしても「2分前に発見、1分前に両舷停止、数秒後に全速逆進」はあきらかに誤報だ。前半の「2分前に発見」が余計な部分。そして、それは「漁船と衝突後」と書き換えると実態に合ったものになるのではないのか。
 海上保安庁の発表が全然無いのも気になるが、大きな矛盾をはらんだ今回のイージス艦「あたご」衝突事故の全容を早く明らかにしてもらいたい。

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