イージス艦「あたご」の事故原因速報が無い

事故原因の速報は必要
 イージス艦「あたご」とマグロ延縄漁船の衝突事故は事故発生が2月19日から現在(3月7日)まで半月を過ぎて事故原因の速報が流れてこない。本来、当事者である海上自衛隊よりも事故調査の主体である海上保安庁が率先して調査状況を公表しなければならないのに情報発信が後手に回っている。また、マスコミも海上自衛隊を攻めて情報を入手してるが、本来は海上保安庁の発表を報道すべきである。
 事故調査の目的は何かと言うと2つある。一つは事故原因を調査することにより事故を起こした責任者や責任機関を特定し責任を追及すること。これは当事者に向けられた罰則のための調査。もう一つは事故の事例を研究することにより同等な事故の再発防止をはかること。今回のマスコミ報道は前者に傾注するあまり、後者の視点が欠如してる。
 それ故にとは言わないが、3月5日になって明石海峡でタンカーと貨物船2隻の衝突事故が起こり、こちらは情報が早くて最初に衝突した砂利運搬船「第五栄政丸」とタンカー「オーシャンフェニックス」の両船が自動操舵(オートパイロット)で航行しながら狭い明石海峡を通過しようとして異常接近し、タンカー「オーシャンフェニックス」が避けようと手動操作に戻して左に舵を切ったところ右舷後部に追突されさらに左に向かって貨物船「ゴールドリーダー」の横に衝突した。結果、貨物船「ゴールドリーダー」は沈没することになる。
 狭い海峡で多くの船が航行する場合、自動操舵(オートパイロット)は望ましくないと広く広報されていれば今回の事故は無かったとは言わないが、イージス艦「あたご」と同じく自動操舵(オートパイロット)の便利さと危険の広報が事故速報として流れていれば事態は別な展開を見せたのではないだろうか。

責任論が優先する社会
 航空機の事項調査が典型的なのだが、事故調査は再発防止に重点を置いて行われる。その意味で本来航空機事故調査委員会は当事者が過失を犯したとしても過失に至った経緯まで踏み込んで調査する。当事者が事故再発防止の観点から自分に不利益な情報も開示することが望まれる。
 しかし、日本では事故調査委員会の報告書が刑事裁判の証拠として利用されるように、事故原因調査が往々にして事故責任者告発に使われてしまう。
 今回のイージス艦「あたご」の事故も、海上自衛隊の責任論に展開されるのを防ぐために事故調査の速報が控えられているとすれば、それは本来の再発防止の観点からは問題が大きい。特に多数の船舶が行き来する状況をレーダで知った時点で自動操舵(オートパイロット)は解除すべきであるって情報は早期に流すべきであった。
前にも書いたが、そもそもイージス艦「あたご」は衝突まで気がつかなかったのではないかって疑惑も海上保安庁から何のアナウンスも無い。もし、衝突まで気がつかなかったのなら高度な政治判断が必要になり海上保安庁もアナウンス出来ない箝口令がひかれているのかもしれないと疑心暗鬼になってしまう。

イージス艦「あたご」への疑惑
 衝突まで気がつかなかったのでは無いかって疑惑は以下の点に整理される。
1)警告の汽笛が発せられていない
 多くの僚船がイージス艦「あたご」の存在に気がつき、一部の船は回避行動を取るほど接近したが事故直前に「あたご」の警告汽笛を聞いていない。
2)2分前に自動操舵解除、1分前に逆進
 船体が二つに分かれた漁船の受けた衝撃が逆進をかけて減速してるイージス艦「あたご」の速度で起こりうるだろうか。通常の速度で衝突した衝撃が、あの漁船の切断に繋がっているのではないか。
3)右転舵による回避行動が無い
 逆進のみで速度を落としているが、本来転舵も行えばさらに減速の効果は高まる。船体の抵抗を増やせばそれだけ減速が早まる。上記の1)と同様に右転舵は衝突防止行為の基本である。が、しかし、その形跡が見られない。
 事故の一義的な原因は自動操舵(オートパイロット)にあるのが濃厚だ。この事実を早期に海上保安庁は広報すべきだろう。上記の事実の真偽は別にして、多くの船舶が現在も自動操舵(オートパイロット)の便利さに慣れて、見張り等の欠如により事故の可能性が高まっているのだから、せめて、警鐘を鳴らすくらいの広報はあっても良かったのではないか。

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