北京オリンピック後、中国はどのように変わるか
数々の問題が判明
北京オリンピック後の話はまだ早いが、いかにも中国だなぁと思わせる事態が多数起きている。まず最初は開会式中継の巨人の足跡映像だろう。NHKのアナウンサーは事前に説明されていたのか「花火で巨人の足跡を表現して開会式会場に向かっている」と説明していたが誰の目にもCG画像だと解る。そもそも警戒厳重な開会式会場に向かって航空機が飛べる訳が無い。が、多くの人が「だまされた」と感じただろう。全体の流れのなかで花火で巨人の足跡が必要なのは解るが、では事前に作られたCGを生中継の中に挿入する放送は生中継の常識には合致しない。視聴者の目をだます行為だ。
この目先を変えて本質を隠す手法は中国の放送局では常識化しているのだろう。実際には足跡花火は打ち上げられており、地上から見上げると足跡が会場に進むように見える。
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/sports/other/168976/slideshow/103369/より引用。
であれば、地上にカメラを用意して巨人の足跡が横切っていくように写せば良いと思うが、総合演出のた張芸謀(チャンイーモウ)監督は映画のエンターティメントと報道の真実の伝達のボタンの掛け違えをした。それよりも、注釈無くCGを使い放映する手法に違和感を感じない中国の放送人を恐ろしく感じた。
同じく開会式で中国の革命歌曲「歌唱祖国(祖国を歌う)」を独唱した女の子は実は口パクで裏で別な女の子が歌っていたとの事件。これも演出と言えばそれまでだが、リハーサルを見た中国共産党の上層部からの指示が裏にあった。北京オリンピックが中国オリンピックである証左でもある。
中国以外のマスコミではこれを「偽装」と呼んでいるが、一連の開会式の中継の中で偽装なのか演出なのか意見は分かれるだろう。但し、後者はあきらかに中国共産党上層部の指示により変更された「演出」だったのだ。
中国応援団の態度も時間が経るにつれ先のサッカーの時と同じく罵詈雑言の形態に入っている。実際にテレビで見ていたのだが、女子バトミントンのオグシオ(小椋、潮田コンビ)は会場からの「シャ−(殺)」の罵倒でリズムを狂わされ一方的敗退となった。前々日に行われたスエマエ(末綱、前田コンビ)が世界ランク1位で第1シードの中国組を破った番狂わせへの報復と考えられる。
ポスト・北京オリンピックでの中国の変化
結局中国は何も変わらないと投げ出したくなるのだが、44年前の東京オリンピックで日本に変化があったように、中国にも北京オリンピック後のオリンピック効果は現れてくるだろう。
何でも「中国共産党と人民軍の勝利」と宣伝するお国柄だから、ポスト・北京オリンピックを中国共産党の支配力の強化に利用するのは目に見えている。しかし、国民はどうだろうか。実際に広い中国では北京オリンピックさえ一地域の小さなお祭りでしか無いだろう。内陸のチベット自治区やウイグル自治区にまでポスト・北京オリンピックの波が押し寄せるには年月がかかる。だが、最も影響が早く現れるのは北京そのものだろう。
大きく両方向の流れが予想される。
北京オリンピック後に人民の団結が強調されより高いナショナリズムが形成されるか、逆に国際化の感覚が高まるか。実は短期的に前者、長期的に後者と思われる。
1国2制度も過渡期を経て矛盾が生じている。一面で都市と地方の格差であり、政治の役割が重要であることに国民が気がついてきた。企業のみ経済のみでは共産国家であるにも関わらず社会保障が貧困になり、格差が助長される。そもそも共産主義が成り立たなくなっているのが今の中国の格差の実態だ。
先の四川省の大地震では北京政府は自助努力による復興を打ち出した。電力供給のためにダムを作り村を立ち退かせて水没させたのに、いざ災害が起これば自分たちでなんとかしろだ。また、復興支援も各省に割り振り北京政府は何もしない。これは、日本の江戸時代の江戸幕府の政策と同じだ。国家が国家たるために政府は国民の生命と財産を守ることすら出来ていないのだ。
中国の近代政治を形成するのは日本
江戸幕府が倒れて明治政府が出来た時代は日本はアジアの先進国であった。近代国家の手本として韓国や中国から後の政治中枢を預かることになる人材が日本に留学していた。
今の中国は経済制度の師としてアメリカからノウハウの多くを得ている。アメリカのような多民族国家の政治制度は中国になじまない。中国も多民族国家ではあるが、国の成熟度はアメリカの50年前、黒人差別が厳しい時代と同じだ。だから、チベットでもウイグルでも人権蹂躙が「常識」として行われている。成熟した民主主義をそのまま導入することは出来ない。かと言って未来永劫1国2制度で中国共産党一党独裁が続くかと言えば、各地での内紛からやがて国内紛争が勃発して歴史は100年前に戻ってしまうだろう。
長期的に見て中国は連邦国家にならなくては多民族の人権は保障されない。最も早い連邦国家形式は台湾州、チベット州、ウイグル州と中国州の連邦制度だろう。民族の自決権を保ったまま、中国国家が成り立つ方策を模索しなくてはならない。
その時に日本がどれだけ手を差し伸べることができるか、これが今の日本の政治に求められる課題だ。
アメリカ中心に世界が回っている時代がヨーロッパのユーロ圏中心に回り始めた。日本もアメリカ依存一辺倒ではアメリカと一緒に討ち死にしてしまう。アジアでもユーロ的な経済圏、通貨圏を作らなければならない。もちろん、アメリカは潰しにかかってくるだろうが。
世界戦略の中で中国のポスト・北京オリンピック効果を注意深く見極め、アジアにユーロ的な世界を展開する行動が政治に求められる。ポスト・北京オリンピックは中国だけの問題ではなくアジアの北京オリンピック後の問題でもある。