政局よりも政策よりも定額給付金よりも雇用

企業に内需拡大の発想が無い
 大胆に決めつけると世界一の自動車生産企業になりたくてトヨタは前年にさらに上乗せした生産計画を立案し背伸びをした所に世界金融危機が襲ってきた。ソニーについてもヨーロッパのユーロ圏内への輸出を拡大する路線で捕らぬ狸の皮算用で円に対して上昇するユーロを当て込んで経営計画を策定した。外部の不可抗力とは言え経営計画策定の誤りであり、危機管理無き経営計画だった故に生産計画の見直しを余儀なくされた。
 特にソニーについては先代の井深大氏が「為替の変動で企業努力が飛んでしまう今の輸出産業は脆弱だ。為替を安定させるのが国の勤めだ」と強く叫んでいた。また、為替変動にソニーとして備えるために自前の銀行を持つのが井深大氏の悲願でもあった。その教訓が生かされなかったソニーの為替戦略は危機管理を無視した放漫な経営の誹りはまぬがれない。もっとも、ソニーは東芝との次世代ディスク仕様に勝利しブルーレィ・ディスクにて順風満帆に見えたが実際には予想に反して売れ行きは不振だ。加えてテレビのソニーと言われた家庭用テレビでも大苦戦を強いられている。為替の読み違い以外に経営体制が脆弱だったことは多々あるのだが。
 規制緩和で生産現場に派遣社員が入ってくると企業としては派遣社員の費用は人件費では無く業務委託費として経費に勘定される。生産機器と同じ生産のための原価だ。もっとも、自社工員も同様だが、これは人事計画、人事考課の対象として扱われる。いわゆる人材って無形の資本だ。しかし派遣社員は生産手段であって人材にはカウントされない。どちらかと言うと設備にカウントされる性格のものだ。
 だから、生産計画の見直し(縮小)が発生すると縮小、つまり契約解除となる。
そもそも、生産現場への派遣を認めた段階で予知可能な状態であった。にも係わらず生産現場の派遣社員のセーフティ・ネットを考えておかなかったのは政治の無作為であり、政治が国民と乖離した民衆の代表の体を成していない証左だ。

輸出企業には内需拡大の発想が無い
 小泉政権以降の企業の勝ち負けを考えると輸出産業が勝ち組みで内需産業が負け組に分類される。その原因は日本国内の長期デフレ傾向に対して、証券バブルでドルが意外と強く基本的経済力では考えにくい1ドル120円台が長く続いたからだ。
 一部にはFXを中心にした日本の主婦層のFX投資によって1ドルが5円近く円安に揺り動かされる事態にも発展した。これをアメリカでは「マダム・ワタナベの時間に入った」と呼んでいた。日本の午前10時から午後15時あたりの時間帯に対ドル取引にFXで10倍にも膨らんだ主婦層の円が大量に流入してきたのだ。
これを映画「ラスト サムライ」の渡辺謙になぞらえてマダム・ワタナベと呼んでいたいのだ。
 その勝ち組の輸出産業を中心に今回の世界恐慌の影響が出ている。先のソニーについては複数要因があるがトヨタについては完全にイケイケ・ドンドンの波に乗って危機管理を忘れていた結果だ。これに追従するように日産、いすず、マツダが生産縮小に契約派遣社員の契約の継続を止めた。
 しかし企業従業員は企業が生産した商品を購入する層でもあり、今回の生産調整による契約解除によって消費者の購買意欲が停滞するとともに実際に契約を解除された派遣社員の実質の購買力も低下する。特に地域社会で企業城下町化している地方ではその影響が目に見える形であらわれるだろう。
 実は勝ち組は輸出に関心を向けるあまり自ら寄って立つ生産現場をないがしろにしてる。企業が働く場を提供して給与を払い地元も含めた経済圏を担うって発想が出来てない。これに比べて内需型の企業は国内市場の変化にも敏感でマーケットを身近に捕らえて工夫を積み重ねている。例えば高齢者を顧客として捕らえる囲い込む戦略、いわゆるマーケティングは内需型企業では研究されているが、外需型企業ではマーケットそのものは外国の販売会社に丸投げでひたすら作り続ける機能しか持ち合わせていない。

景気対策は雇用対策
 小泉政権の功罪は多々あるが、日本を戦後間もない輸出型経済を指向する経済構造にしたのは罪のほうだったろう。それが「何でもアメリカの言う通りにする」故に結果として形成されたのは小泉政権の無能、無作為が原因だった。
 物づくりが中国にシフトしていると言っても、実際には環境問題や製品の品質、食品の安全性で必ずしも中国経済は順風満帆では無い。特に生産技術面では国民性もあり、効率の向上を自主的な工夫で乗り越える日本の生産現場とは大きく違う状況にある。
 日本の場合は小さな町工場であっても世界通用する職人の技がある。アメリカの労働者は1cmの目盛りのスケールを与えられると1cm単位にしか計らないが、日本の職人は10回計って平均を出し1mm単位を計ると言われる。生産力では無くて生産技術では日本はまだまた中国に負けない。
 実は中国と対抗するためには価格競争に巻き込まれず品質競争で勝負しなければならない。その基本が内需に秘められている。日本の人件費は中国より高い。そのため日本で作成した新製品を直接海外に販売するにはよほど特殊なもので無ければ太刀打ち出来ない。しかし、工業生産の場では大量生産こそが損益分岐点を越えて利益を生む手法なので、この手の職人一品料理は使えない。
 しかし、国内需要であれば国内生産国内消費であるから製品の価値は為替差によらず正当な金額で評価可能だ。実は、内需を対象に工夫された数々の製品が生産手段の工夫(ローコスト化)により世界に出ていった例は日本には山ほどある。
 先のソニーで言えばウオークマン、それに使われたカセットテープ、ビデオテープ、ビデオデッキ、カーナビ等々国内需要を念頭に制作され製品が海外にまで生産拠点を移して輸出されるようになった。
 実は自動車ってのは我々は溶接ロボットがバチバチ溶接してベルトコンベアーから自動的に流れ出てくるように感じているが、実際は逆で多くの人手による生産工程を経ている。特に組み上がった自動車の品質管理は全て人力で行われる。
 秋葉原殺傷事件の容疑者はトヨタグループの関東自動車の工場で塗装の品質をチェックする仕事に長年従事していた。この品質検査は自動化できず一台一台なめるように目で検査する。
 人力投入型の自動車産業が安い派遣社員に依存するのは、それだけ人力が必要とされる産業だからだ。そのような産業は先の競争の舞台は価格競争である。決して品質競争の舞台には登れない。
 雇用対策により金が回る仕組みを作り、そこに内需指向の企業の製品を買って貰う。その事により旧来負け組だった内需型企業を育成していく。そして雇用の場をさらに確保する。このような循環が無ければ日本経済は再生しないだろう。
 願わくば、2兆円にならんとする定額給付金の使い道を上記の雇用対策に向けたほうが「米百俵の精神」に順次未来に残せるのではないか。幸い国は配布方法は市町村に任せるってんだから、組長が「財団を設立して全額財団の基本財産とし、継続的に雇用対策、雇用拡大に使っていく。市民には配らないがご理解をいただきたい。駄目なら市長の職を賭して選挙に打って出る」くらいの奴は現れないものか。

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2009.01.07 Mint