その後情勢はダイナミックに変化する
麻生太郎氏は2兆円のバラマキを公約に衆議院城の新たな城主を決める衆議院選挙に打って出る合戦の準備が整って2008年9月24日に「御名御璽をもって」総理代人に任命される。臨時国会での所信表明演説と冒頭解散作戦を実施に移す時がきた。が、その直前の自民党の戦況分析が「負け戦」を示し準備を完了していたにも係わらず、振り上げた衆議院解散の手の振り下ろし先が無くなってしまった。
ここに来て唯一の救いは9月20日にアメリカのリーマンブラザーズの破綻により世界金融恐慌が懸念されること。これに仮の城主である麻生太郎氏は食いついた。
実際、1929年の世界恐慌の影響が日本に現れるのは2年後であり、アメリカが対応策を取って、その対応策の影響がアメリカ国内で方向性を持って、そして諸外国に影響が広まっていく。ネットワークの発達した社会であるが、経営破綻に対して選択した対応策により他への影響が明確になるのであって、破綻直後の状況で「政局より政策」などと叫んでも具体的な政策は相手次第の状況で何も手を打てないものだ。その最たるものが今回の2009年度予算の「何が起こるか解らない予備費1兆円」に現れている。
にも係わらず衆議院解散の戦を屁理屈で無かったことにして10月30日には「緊急経済対策」なるものを発表する。これは官僚の作文で「以上、政府は緊急かつ十分な経済対策を行って日本経済がしっかり発展することを目指します。あ、それから2年後には消費税をあげんかんね!」と言ったひどいものであった。
そして11月、12月と無為に過ごして1月5日には通常国会が召集され第二次補正予算として定額給付金が再度国会の議論のまな板に登場することになる。この4ヶ月で急激に変化した日本国内の経済状況は半年前に巻き戻したかのような通常国会が始まった。
なめられた野党にも責任がある
議院内閣制の日本では総理大臣が何人替わっても衆議院第一党に首班指名権がある。その意味で小泉純一郎元首相が建てた城に仮住まいでも特に問題は無い。がしかし、本当の城主なのかって疑義は国民の側にはある。特に今回のように2/3制度を多用して法律を作り続ける姿勢は議員内閣制では合法でも真の民主主義の観点からは落第である。
11月、12月と無為に過ごした時間に衆議院解散を行えなかった事情は解る。検討中の法案が全て審議未了で廃案になってしまうからだ。では、1月通常国会でも冒頭解散は無いのか。これは十分根回し可能だったと思う。その作戦に野党は長けていなかったのだ。
もっとも、Changeしない麻生太郎総理を白砂に引き出すつもりだったのなら、それは作戦として妥当なものだろう。
もはや合法的な選挙違反である2兆円のバラマキが経済対策と呼べない事態に陥っている。リーマンブラザーズの経営破綻の影響が日本に及んだのは半月後の世界株同時安に始まり、1ヶ月半後の12月には自動車メーカーのビッグスリーの経営危機の原因となった自動車販売の不振になって現われてきた。
日本国内ではトヨタやソニーを筆頭に期間雇用契約社員、派遣労働社員の契約打ち切りが始まった。つまり、ビフォー・リーマンショックの時は内需低迷による消費の拡大が経済対策の一環であったが、ポスト・リーマンショックの現在は外需不振による雇用対策が経済対策の大部分を占めている。
しかも、外需不振により契約を解除され失業した労働者には購買力はほとんど無く、定額給付金による景気対策もマクロで見ればマイナス要因となって吸い込まれてしまう。先の「地域振興券」よりもGDPに占める効果は薄いと想定される。今必要な経済対策は雇用確保」にシフトする必要があるのだが、まったく初志貫徹、バラマキ実行の戦略しか無い。
極論すれば知恵が無いのだろう。元は国民の税金であった2兆円を有効に使う知恵が行政府のトップである内閣に無いのなら、衆議院城は明け渡すのが筋だろう。
平成の坂本龍馬は存在しないらしい。
そんな時代に生きている国民は不幸としか言いようが無い。