税金で内需拡大が景気対策

富裕層の金余り現象きわまれり
 日本の富裕層の貯蓄が何処に向かっているか。実は三菱東京UFJ銀行の社債(劣後債)がめちゃくちゃ売れている。2009年2月締め切りで2,000億円を募集したのだが、完売で予想金額を上回る4,500億円も販売完了した。
 償還条件は8年で年2.75%の日本としては高金利な社債。一口250万円単位で250万円単位で上乗せができる。しかも3年以降の早期償還の好条件もある。
 劣後社債の劣後とは「一般の社債よりも元本返済や利払いの優先順位が劣後(後回し)する」って物件なのだが、まさか今後8年の間に三菱東京UFJ銀行が倒産するとは考えにくく、仮に倒産した時には日本経済は壊滅してる時で何を持っていようが社会制度が変ってしまうような大変動の時代になっているだろう。
 しっかし、何処にそんな金が有るんだと叫びたくなるが、実は日本の富裕層の割合は高い。純金融資産(貯蓄から負債(借金等)を引いた残りの現金に近い資産)が1億円を越える世帯は80万世帯ある。この世帯に蓄積された現金が三菱東京UFJ銀行の劣後社債に流れ込んで予想を上回る売上げ(引き受け高)になったのだ。世の中が不況だと言うのに4,500億円もの金が個人から集まると言うのは、不況とは富の減少では無くて貨幣の流通量の減少に起因するって経済の基本を改めて実感する。
 いくら市中に貨幣があっても、これが滞留して市中で流通しなければ景気は悪い。つまり、市中で流通する貨幣の量の多さが景気動向なのであって、日本国中で貯金にまわって滞留した(正確には金融資産として再流通するのが建前だが、昨今借りる人が少ない)貨幣は景気回復に貢献しない。
 経済は生き物と言うが、まさに血液が流れて流通している状態が経済で、現在は血液の量は確保されているが、低血圧で流通が停滞しているってことだろう(医学的にはメチャクチャな例え話であることは承知)

定額給付金では内需拡大しない
 一般消費を喚起することが内需拡大に繋がるのだが定額給付金にはその効果が薄い。昔の地域振興券のほうがまだましだろう。地域振興券には期間限定、地域限定の条件が付いていた。総予算は7,000億円と今回の定額給付金の1/3の規模だったが、GDPを年率0.1%上げたと言われている(都市伝説情報)。これに比べて今回の定額給付金は額が3倍なのに同程度に納まると予想されている。
 限定無く配るので実施効果を計るのが難しい面があるが、所詮通常貨幣と区別無く配られるので効果の把握は無理であり、無責任なバラマキに終始することになる。
 実は景気の低迷を一般消費から見ると消費者心理の冷え込みが一番の要因で、例えば古くなった冷蔵庫を「不況だから買い換えを1年先に延ばすか」とか自家用車についても「今度の車検を通して10年乗るかぁ」とかの判断になる。そのために需要が先延ばしになるが、これを未来への貯金だなどと左団扇に構えていられる程現在の景気状況のルツボに居るメーカーに余裕は無い。過剰な在庫を抱えて最後は倉庫に在庫いっぱい抱えて倒産の憂き目に合う。間寛平氏のニコ・バッチと同じ在庫を抱えての倒産になる。
 ところが、例えば三菱自動車水島製作所(岡山県倉敷市)の下請け企業が集まる総社市では先着200名限りだが三菱の新車を購入する市民に10万円を補助する制度を始めたら短期間で枠が埋まってしまった。単純に計算してみよう。市の財政支出は200台分で2,000万円(ま、これを真水と巷では呼ぶ)。それによって購入された新車は平均150万円としても30,000万円つまり3億円。2,000万円のエビで3億円の鯛を釣ったことになる。正確には需要前倒しを実現したことになる。
 これを電化製品に拡大して市町村が薄型デジタルテレビに買い換えたら2万円とか、家をバリアフリーにしたら5万円とか、消費喚起政策による地域経済活性化を行えば投入した真水が何倍にもなって地域に経済効果を生み出す。その品目は市民が納得する市町村の生産物に絞り込めばよい。全国一律では無くて、地域経済貢献度を地域が考えることが肝心だ。それこそ自治の精神なのだから。
 定額給付金のようなダラァーとした全国一律方式よりも、地域の実情に見合った個別の真水投入のほうが一般消費喚起に向けた内需拡大に効果的なのだ。
 ちなみに、国が雇用対策で公共工事のような仕事を作るのは20世紀の経済学だと思う。21世紀の社会資本が成熟した世界では消費の拡大が雇用拡大に結びつく連鎖を経済政策としなければ結果としての雇用創出に繋がらない。現在の「契約切れ人員を介護の現場に」は間違いで、介護の現場を活性化しなければ介護の現場の雇用は充実しないのだ。

景気対策に有効な手段は!
 それが解れば苦労は無いと書いてしまうと元も子もない。
一つ、高齢化マーケットで成功しそうなヒントを書いておこう。
内需の中で大きな割合を占める一般消費の立て直しだろう。現状はデフレスパイラル一歩手前なので物を消費者に売る産業は将来性が無いと思われている。しかし、実際は電化製品等が消費者に訴求する力が弱まっている。つまり「欲しい物が無い」状態なのではないか。
 確かに店舗を構えて従業員を使って販売する店頭販売はそこそこの原価が掛かるので高級品志向に変化している。しかし、所詮物販なので海外も含めた販売ルートの多様化で高級品が必ずしも高価格で売れる時代では無い。ブランド品などは海外旅行の旅行費用を掛けても国内の店頭価格よりも安く購入できる。
 また、販売原価の極端に低いネット販売と比べて店頭販売は急速に価格競争力を失っている。残念ながら店頭販売方式は一部のコンビニ的な品揃え以外は今後生き残るのは難しい業態だろう。昨今の百貨店に代表される大手量販の行き詰まりは、まさに時代の変遷のなかで取り残された店頭販売の実態を表してるのだろう。
 先に書いた貯蓄層は高齢者が多いのだから、高齢者が楽しめる商品の廉価な販売(高齢者にネット通販は無理だが、テレビショッピングなら可能)に力を入れている動きが見えない。テレビショッピングも大画面テレビとかデジカメとプリンターのセット販売とか、どちらかと言うとメカに弱い主婦層向けで、明確に高齢者にターゲーットを絞った物は健康食品くらいしか無い。
 実は新聞広告の変遷を見ていると昨今、通販でのDVD販売が目に付く。それも廉価で50年も前の映画の焼き直し(文字通り、DVDへの焼き直し)の広告が目に付く。しかしDVDプレイヤーの広告は少ない。つまり、自分で買ってセット出来ない高齢者に売ってクレーム付けられたくないので売りきりのDVDソフトだけに絞っているのだ。
 パソコンの普及も限界に達した時に「オールインワンノート」ってのが出た。買って電源入れれば動く。本体とディスプレーとキーボードとマウスを接続出来ない層でも使いこなせる。そのDVD版がポータブルプレイヤーだろう。値段も手頃になっているので、時間の潰し方を提案する「昔の映画とポータブルDVDプレイヤーのセット」は高齢者の消費拡大の目玉となると思う。

デジタルテレビのネット利用促進
 ISPがどうちゃらとか、ネットワーク設定がどうだとか、およそマニアにしか解らない家電製品は市場の拡大を図れずマーケットが拡大しない。NTTでも盛んにSMAPを使って「テレビにさすんだよ」とやっているが、デジタルテレビのネット接続はそう簡単な物では無い。新たな契約が必要で当然現在の利用料金より高くなるが民放の無料番組に慣れた高齢者には新手の「振り込み詐欺」にしか感じないだろう。
 精々月1000円(ISP料金込み)程度ニュース速報が見られます程度の料金設定にならなくては普及は難しい。しかも、1映画500円程度の古いDVDが販売されているのだから1番組200〜500円のNHKアーカイブスがキラーソフトとも成り得ない。
 廉価で導入できて誰にでも(高齢者でも)恩恵が短期的に得られるデジタルテレビの普及が一般消費の向上には必須であろう。もはや商店街を綺麗にしたり、駐車場を整備したりでは一般消費は増えないのだ。全てネットに有る状態を官民挙げて作っていくことが新たな一般消費の想像であり内需の拡大に繋がる。
 これって、IT基本戦略で唄われていたことなのだが、官僚は目先の予算獲得に巧みに作文を作るが、長期的時代の流れを感じる感性が欠如してるから、何時までも実現しないのだろう。
 1億円も掛けて使いもしない競技場予約システム(それも、住民記録カードと連動のおまけ付き)を作るよりは、年間1万円ネット接続料金を補助してネットで動画やカラオケを楽しんでもらって以後も使ってもらえれば立派な一般消費拡大になる。
 ちなみに、1億円有れば1万世帯で利用が可能になる。北海道では1町村では賄いきれない世帯数になる町村も多い。

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2009.03.15 Mint