FedExは成田空港のウインドシアに対応できなかった

各社の映像の微妙な違い
 今回の事故の模様を、特に初期段階で写しているのはNHKのカメラによって撮られた映像だろう。民放各社の映像は事故に至るプロセスよりも事故後の様子を捕らえているいる。この映像からは事故原因を推測するのは難しい。
 今回は正面からの風は強かったが特に横風が制限値を越えるものでも無く、若干タイトな気象条件だった。ただし、時間が6時48分と日の出と重なり風の息は若干強くなっていただろう。直前に着陸した機長から急に風向が変るダウンバーストのような気象だったと管制塔に報告が入っている。また、この報告は事故に会ったMD11機の機長にも伝えられている。
 当日の風は最大20ノットの北西の風で成田の4000m滑走路は16R/34Lなので、南からのアプローチは34Lへのアプローチとなる。これは若干左からの横風だがほぼ正面と言っても良いだろう。
もう一方の34Rは長さが2180mしか無いので、こちらは燃料の搭載量の多い国際線ではあくまで補助的な滑走路になる。事故を起こしたFedExのMD11は34Lの4000m滑走路に向かって南からアプローチをしていたことになる。
 成田空港は着陸の難しい空港で昔聞いたJALの副操縦士の話だと特にカーゴ(貨物)の着陸に苦労するそうだ。冬場の強い向かい風の時には飛行機が前に進まなくて高度を早めに落として少しでも向かい風の弱い空域に降りてこないと何時までも着陸できない。また、降りてくると風にあおられ機体が安定しないのでさらに高度を下げるために機長が「落とせ、落とせ」と物騒な指示を出して来るそうだ。
 今回のように南から34Lへのアプローチでは20マイル先の筑波山からの吹き下ろしが空気の固まりのようになってコロコロと転がるように吹いてくるので、向かい風の速度の変化は大きい。図では空気の塊の上部では向かい風が強く、下部では向かい風が弱くなる。つまり、高度を下げるに従い(速度を落とし着陸に近づくに従い)向かい風が弱まり航空機の揚力(浮き上がる力)が減少することになる。

向かい風の速度変化は航空機の揚力の差になって来るので風が強ければ高度が落ちないし、逆に弱くなると高度を急激に失う。
 また、ダウンバーストの場合は滑走路上空から風が吹き下ろしてくるので、滑走路のある地点から向かい風が追い風になったり、逆に向かい風が強くなったりと厄介な風になる。
 先のJALの副操縦士(当時)はカーゴ(貨物)機の場合乗客の快適性を考慮する必要が無いので多少気流が悪くても直線的に飛ぶことが可能なので旅客状態より気が楽だとも言っていたが。

MD-11という航空機の特徴
 MD11の特徴を整理しておこう。一世代を作ったエンジンが3発の旅客機である。今はボーイング社に吸収されてしまったが当時はマクドネル・ダグラス(MD)の作成したDC-10の発展型の機体である。B747-400では乗客に比べて客席数が大きすぎる路線に投入する機体としてDC-10の胴体を6m程伸ばして客席を300席ほどにして中長距離路線を狙っていた。何故エンジンが3発あるかと言うと、当時のETOPSの規制では海上を飛行する航空機はエンジンの個数によって陸地から離れられる距離が制限されていた。そのため2発だと島伝いの航空路になるが3発だと直線的に飛べ距離を短縮、つまり燃料と時間を短縮できるメリットがあった。しかし、、これが大幅緩和されて特に3発が2発に比べて有利なことも無くなった。
 日本でも日本航空が国際線を中心に10機就航させていたが、2004年10月に最後のMD-11を売却している。より経済的なB-777やA320、A340に活躍の座を奪われたかたちだ。
 実は全身のDC-10も不運な飛行機で後部ドアのラッチの設計ミスでドアが吹き飛び、パリでトルコ航空が墜落した事故がある。このトルコ航空が利用した機体は本来全日空向けに組み立てられたDC-10で、政治的配慮(ロッキード事件)からキャンセルされて全日空は代わりにトライスターを買ったっていわく付きの機体であった。
 また、上空で水平飛行に入っても若干機体が上を向いているのでキャビンアテンダントは機内の移動が登ったり降りたりでDC-10は疲れる機体だとのありがたくない評判も貰っていた。
 DC-10をベースに胴体を延長して作ったMD-11だが、改造後の性能が予想を下回り、特に経済性向上のために多大な改造を余儀なくされた。その一例として空気抵抗が大きくなり航続距離が伸びないので羽の先端まで燃料を蓄える必要があった。これなどは羽根の中が先端まで燃料タンクなので非常に安全性に課題を残す設計変更であった。
 結局200機程しか作られず、旅客機としては販売期間が10年と非常に不運な機体ではあったが、カーゴ(貨物)として改造されて今回のFedExのように現役で世界の空を飛んでいる。
 MD-11になってからの全損事故は今回の事故を入れて6件あるが、そうち3件がFedExの事故である。それも共通して着陸時の事故である。

事故原因は事故調査委員会の仕事だが
 今回は映像が残っているので、あくまで外観から推測される事故原因を考察してみよう。他にクルーの健康状態異変とか計器の故障とかは外観からは知りようが無いので考慮の対象外になってしままう。詳細は後で発表される事故調の報告書を参考にしてもらいたい。あくまで、今時点で、映像から解る範囲の話になる。

 画面左からアプローチしてくる。距離的には既に滑走路の上に進入していると思われる。第一回目の接地は機首上げで主車輪(メインギア)で接地している。若干の横風に合わせて機体を左に向かせていたものも補正して滑走路に正対している。滑走路との摩擦で白い煙が出ている。この煙が若干多い気がするがハードランディングと呼べるほど強いとは思われない。このまま前進し前輪を滑走路に付けてブレーキをかければ良いのだが、手前の駐機場の機体の尾翼に隠れて良く見えないが、急激に機首を下げて前輪を接地させようとしている。
 その反動か、はたまた急激な落下を防ぐように機首上げになっている。5m以上滑走路から飛び上がっている。これがパイロット(PIC)の操作によるものか風の息によるものか画像からは解らない。フライトレコーダで確認できるだろう。自然条件が原因とすれば先の主車輪(メインギア)接地の瞬間に向かい風が弱まり、前輪が接地する頃に向かい風が強まった。つまり、急激に前輪を接地させたのだが、強い向かい風が再度吹いて機体を持ち上げてしまったのだ。
 そして、先に書いた「落とせ、落とせ」である。
 浮き上がった機体を押えるために舵を機首下げに切っている。この機首下げは5m程の高度からの落下でしかも最悪の前輪接地になる。この瞬間に前輪が飛んだように見える。そして、前輪を失ったことと、若干の左側からの横風によって機体が左に向く(垂直尾翼が横風に押されるで)。左に向くと右翼は風に向かうので揚力を発生し、逆に左翼は揚力を失う(失速する)。着陸時の低速状態なのでたぶん左翼は失速しただろう。
 で、MD-11の特徴である翼の先端まで燃料タンク状態の左翼の先端が滑走路に触れる(既に機体は滑走路を左に逸脱してるかもしれない)。瞬間破壊が起こり残存燃料が翼の中の燃料タンクから霧状にまき散らされる。それは左エンジンの排気よりも垂直尾翼直下の中央の第三エンジンに吸い込まれて爆発を起こす。
 その前に左主脚が胴内に突き刺さり燃料タンクを突き破って燃料をまきちらしたかもしれない。この時に機体には後ろから見て反時計回りのモーメントが働く。このモーメントを受けて垂直尾翼の第三エンジンがさらに機体のネジレ(反時計回りのモーメント)を強調する。左翼の失速から機体に反時計回りのモーメントが働き、接地後も胴体は回り続け逆さまになっている。
 つまり、2度目の接地の時にハードランディングもしくは、意図的な下げ舵になった時点で事故は避けられない状態になった。
 滑走路が4000mあることを考えると無理に「落とす」必要は無かったのではと思うが。。また、不思議なのは滑走路を逸脱しそうだったら当時の風は左から吹いているのだから機体を右に振ったと思うのだが、機体は左に傾いている。
 このあたり、垂直尾翼内の中央エンジンの重量で重心位置が高くなり、一度左に傾いた勢いはそのまま中央エンジンの慣性になって機体を仰向けにしたのかもしれない。
 実は先にFedExのMD-11の事故は3件目だと言ったが、(1)1997年7月31日:ニューアーク国際空港に着陸しようとしたFedEx14便(N611FE)が不安定になり宙返りして着地して炎上、(2)1999年10月17日:上海を出発しフィリピンのスービック・ベイ国際空港に着陸しようとしたFedEx87便(N581FE)が、滑走路で静止出来ずオーバーランし、海に突っ込んで大破し水没。そして、(3)今回の成田空港事故である。
 一節にはMD-11は操縦系統が他の航空機に比べて敏感なので極端な挙動をすると言われている。今回の「落とせ!落とせ」がMD-11の挙動によるのだろうか、それともウインドシアによるものなのか。どちらにしても決定的証拠が出なければパイロットミスに分類される事故になるだろう。

成田空港は国際空港と呼べるのか
 毎日新聞の「にっぽん号」が世界一周飛行を行ってから70周年になる。毎日新聞が特集を組んでいるのだが当時の飛行航路をマイクロソフト・フライトシミュレータ(MSFS2002)で飛んでみた、当時の空港が無くなっている所もあったが、少なくとも国際空港では滑走路は4本以上あり、同じ方向でも右に降りろとか左に降りろの指示が出る。
 今回、4000m級の滑走路が使えなくなった瞬間に国際線の離発着、特に離陸が難しくなった。残りの2160mの滑走路では燃料を満載した国際線の長距離航空機は離陸できない。つまり、1本の滑走路が機能しなくなると成田空港は閉鎖されているのと同じになる。
 羽田空港にダイバードしようにも税関設備等の国際ターミナル機能が羽田に揃うのは来年の3月までおあずけだ。各国の飛行機はセントレアや関空にダイバードしたようだ。新千歳空港もカーゴ便の駐機ラッシュになったらしい。このまま成田空港を使うのか、もうあきらめるのか。政治的判断が必要だろう。官僚は「事業を止めます」とは言えない人種なのだから。
 初めて成田空港で起きた人身事故で成田空港の脆弱さが露呈したこととなった。

button  羽田航空行政の課題と航空機
button  中華航空、沖縄那覇空港で駐機後に炎上

2009.03.23 Mint