ソマリア沖の国際条約で自衛隊の文民統制が実施不能

海上自衛隊の行動は「脱法」か?
 ソマリア沖で起きているシビリアンコントロール(文民統制)が及んでいない事実関係を把握しておこう。
 1)4月3日午後8時40分(日本時間4日午前2時40分以下現地時間のみ表記)日本関係船舶3隻の護衛をしながらアラビア半島沖を西航中、近くを航行中のシンガポール船籍のタンカー「オーシャン・アンバー」から「不審な小型船が接近している」との国際VHFによる緊急電を受け船団後方に位置していた「さざなみ」が船団から離脱、直ちに南方に数キロ離れた現場海域に向かった。約10分後、タンカーに接近しようとしている小型船4隻をレーダーなどで捉え、接近してサーチライトを照射するとともに、ソマリア語で「我々は海上自衛隊である」と警告した。この結果、ダウ船などの小型船4隻はタンカーから離れていった。
 2)4月11日午前9時頃(日本時間同午後3時頃以下現地時間で表記)護衛艦の「さみだれ」の近くを航行するマルタ船籍の「パナマックス・アンナ」から国際VHFで「海賊に追われている」との緊急無線が入った。不審船に向けてソマリア語で大音響装置を使い「我々は海上自衛隊だ」と呼びかけ停船させた。同時に艦載のSH60K哨戒ヘリ1機も発進、上空からの状況確認を行った。(朝雲新聞社「朝雲」より)
 3)4月18日午後2時頃には航行中のカナダ船籍のクルーザーボート「ウェア・ドリーム」から「(海賊らしき)小型船舶が急接近している」との国際VHFによる緊急電を「さざなみ」が受信。SH60K哨戒ヘリが発進し現場に急行した。SH60Kが不審船の周囲を飛び、監視行動を続けると、まもなく不審船は停船、追跡を止めた。ヘリは現場に20分ほどとどまり、クルーザーが安全な距離に遠ざかったのを確認して母艦に戻った。
(朝雲新聞社「朝雲」より)
 これは現在(4月30日)までに判明した事案である。
 これに対して国内のマスコミはソマリア沖の海上自衛隊の行動は「脱法」だと騒いでいる。ま、その陣頭指揮を取っているのが共同通信社でその尻馬に乗っているのが北海道新聞社のようだが。それ以前にシビリアンコントロール(文民統制)の問題だとは伝えない。
 現実的に考える必要があるだろう。国際ルールは現地が公海であるので日本国内法に優先する。まして、船舶の安全航海を相互扶助するシーマンシップに係わる事案だ。困っている船舶を助けないのは国際法上もモラル上も許されない非紳士的行為なのだ。
 例えば日本の港湾に原子力潜水艦が急病人の揚陸のために緊急入港を要請してきたら、これを港湾管理者の思想信条で拒絶することは出来ない。緊急避難の条項は相互扶助の精神から互いに遵守する暗黙のルールなのだから。
逆に、日本国籍の船舶が北朝鮮の港湾に急病人の揚陸(が、あったとして)を要請して拒絶されたら、北朝鮮を非難するだろう。それが相互扶助のギブアンドテイクなのだ。
 しかし、国際法上のシーマンシップはソマリア沖の海上自衛隊に日本国憲法によらない「大儀」を与えてしまい、シビリアンコントロール(文民統制)が機能しない状況を引き起こしているのだ。

不審船の側から考えてみよう
 上記のソマリア沖での3事案は最初が夜間で後の2件は昼間である。まず夜間に航行中に強力なサーチライトを浴びせられ、大音響で現地語ではあるが「我々は海上自衛隊である」と叫ばれたらどう感じるだろう。日本人が考えている「自衛隊」の概念は世界では通用しない。まして「護衛艦」って区分も国際的には無く、一番近いのがヘリ空母。百歩譲って駆逐艦になる。ソマリア沖での海上自衛隊の行動は、軍隊が威嚇してきたと思うだろう。
 まして昼間は搭載したヘリがソマリア沖上空を「状況確認のため」旋回している。もちろん、新聞社の取材ヘリとは違いSH60K哨戒ヘリは7.62mm機関銃を搭載し、サイドドアを開けば外からも機関銃が見える。これが撃つのか撃たないのかソマリア沖の海上に居る不審船側からは判断がつかない。しかも、ヘリは防御は脆弱で不審船から機関銃程度の軽火器でも燃料タンクはロータを破損して打ち落とすことができる(もっとも、そこまで近づかなかったとは思うが)。
 つまり、原因は何であれ、ソマリア沖の公海上で武力行使(威嚇を含む)を行ったのが事実である。
 撃つ側の論理と撃たれる側の論理は往々にして行き違う。ソマリア沖の海上自衛隊が何と言おうと撃たれる側から見たら武力行使である。ちなみに日本国憲法9条には「国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」と明記されている。
 ソマリア沖での拡大解釈でも逃げ切れないのが「国際紛争を解決する手段」の部分だ。海賊は正規軍では無いとしても、ソマリア沖から見たら外国籍船を狙っているのだから国際的には「国際紛争」に間違い無い。これの解決に向けての武力行使(まがい)は治安維持の範疇を超える非常に危険なものだ。そこに現地判断が優先し、シビリアンコントロール(文民統制)が機能してない危うさが加わる。

武器を使用基準も無く軍備を公海に出した政治
 後追いで一生懸命「海賊対処法」の法整備を頑張っている政治だが、今回のソマリア沖への海上自衛隊波形は、基本的に出してしまったらシビリアンコントロールが効かないって状況で、テロ特措法でのイラク派遣よりも「危険」だ。「危険」との表現が適切で無ければシビリアンコントロールが出来ていない軍隊が一人歩きしている。これを日本政府が容認したと世界に受け止められる事態に対して説明無しでは通らない、国際的に日本の政治への不審が蔓延するってことだ。
 「海上警備行動」の公海への拡大解釈は認めてきたが、今回の海上自衛隊のソマリア沖での実際の行動を聞くと、何処まで「警備行動」が守られたのか疑問を感じる。自衛隊は国際的には軍隊である。その軍隊がシビリアンコントロール(文民統制)の効かないままソマリア沖の公海で活動してる実態を文民はしっかり国民に説明すべきだ。ゴマカシでは無く、日本国の意志としての「治安維持活動」に適うものかどうか、非常に曖昧で危険な状況にある。
 彼ら2隻の護衛艦(ヘリ搭載駆逐艦)はマンガ「沈黙の艦隊」なのか!
 ソマリア沖に「海上警備行動」で出て行った海上自衛隊は警備行動が主体であり、交戦では無くて治安維持活動が目的だ。その行動の詳細は把握できないが今回は海上警備行動を逸脱している。威嚇攻撃の範疇に入る。海上警備行動の目的は犯罪抑止であり「犯人逮捕」、もしくは「犯罪を事前に抑止するために逮捕を匂わす」行動でなければならない。武力行使による威嚇等による犯罪防止は治安維持を逸脱する。
 ヘリがどの程度の行動を取ったか不明だが、ヘリは偵察機だって考えは相手には通用しない。そもそも、何時でも機関銃が発砲できるのだから、偵察目的には小型のベル通信ヘリあたりを持ち込むべきだろう。自衛隊で言う偵察機は攻撃機の一部なのだ。
で、相手が海上自衛隊の威嚇に対して発砲してきた場合はどうするのか。威嚇射撃で返すのか。正直言ってヘリ搭載の、しかも回転式機関銃で正確な射撃は出来ない。銃弾のまき散らししか出来ない。威嚇射撃と言っても実際には何処に弾が飛ぶか解らない射撃しかできない。結果、発砲は例え射手が威嚇と思っても実際には反撃(攻撃)と見なされる。
 海上自衛隊の発表にも「我々は海上自衛隊である!」と大音響で脅したとあるが、ここに「我々は日本の海上自衛隊である!」と発表されないのも何とも制服組の猿知恵に感じる。つまり、国を代表して警備に当っているのでは無いと言い逃れ出来るような姑息なマニュアルが存在するのか。
 正直、海上自衛隊のソマリア沖での武装した偵察ヘリ使用は「海上警備行動」の範疇を逸脱してる。何時か「交戦」になる恐れを含んでいる。どんな高性能カメラで撮影したか知らないが、上記の朝雲新聞社「朝雲」に掲載されている海上自衛隊のヘリから撮影した写真を見るに相手の反撃は通常の猟銃でもヘリは墜とされる危険がある。
 このソマリア沖での実態を把握してもなお、政治家は口をつぐんでいるのか。国際紛争は撃つ側と撃たれる側のチョットした行き違いから起こる。盧溝橋事件のように仕掛けた側が明確で無くても戦争は始まるて歴史上の事実を踏まえれば、現在の海上自衛隊の警備行動をしっかりシビリアンコントロール出来ていない政治の危険性を強く感じる。

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2009.05.09 Mint