ソマリア沖の海上警備行動は自衛隊の三軍出動

海外派兵がなし崩し的に広がる
 まず断っておきたいのだが、ソマリア沖への自衛隊の派遣は反対では無い。しかし、国際貢献の一部として警察行動を主とした「海上警備行動」の範疇であればだ。実際には綱をとかれたように出動した自衛隊部隊が警察行動の範疇を逸脱して言葉は悪いが「軍事行動」を行っている現状を目にすると、とてもじゃないが賛成しかねる状態だ。
 今月(5月)末には航空自衛隊海上自衛隊のP-3C2機が派遣される。これに伴って空港警備のために陸上自衛隊も派遣される。また機体整備のために航空自衛隊員も14名。加えてC-130やU4による輸送任務に航空自衛隊90名が派遣される。
 結局、自衛隊の海上自衛隊+陸上自衛隊+航空自衛隊の派遣に、オミソで海上保安庁が付いている本末転倒な自衛隊主役の「海上警備行動」に変化している。
 追記:派遣されたP-3Cは正確には海自「派遣海賊対処航空隊」(司令・福島博1佐以下約150人、P-3C哨戒機2機)であり、海上自衛隊に所属するので、この部分は訂正
 国際感覚では自衛隊は軍隊であり、日本を代表する日本軍の進駐である。マスコミはこの事実を何故問題にしないのか。国民の知らないところで着々と自衛隊の海外派兵を既成事実化する政府の欺瞞に満ちた行動はやがて国際社会から日本を孤立させ、外交カードとしての自衛隊を侵略のための皇軍と解釈される危険をはらんでいる。
 治安維持のために国際協力する名目で、事実上軍隊の海外駐留を行っている今の政府の行動は日本の国際的評価を損ねるばかりでは無く、日本の海外での軍事行動を既成事実による拡大をはかった姑息な行動である。自衛隊に外国籍の船舶と戦闘状態に陥った時に対応できる危機管理が出来てるとも思えない。事件の後始末は外務省に丸投げして知らん顔の自衛隊になる。それは、戦前の軍部暴走となにも違いが無い。
 シビリアンコントロール(文民統制)が出来ているのか。そもそも、シビリアンコントロール(文民統制)とは自衛隊内で背広組が制服組をコントロールすることでは無い(自衛隊内部にすらそのような誤解があるが)。政治が軍隊をコントロールすることだ。その最高責任者は日本国総理大臣なのだが、とても麻生太郎総理大臣が現状を知り責任が持てる雰囲気は無い。つまり、麻生太郎総理大臣が知らないところで自衛隊の「軍事活動」が進められている、まさに、シビリアンコントロール(文民統制)欠如の自衛隊任せの海外駐留が現実の問題として起きているのだ。

いつの間にか米軍連携作戦に拡大解釈
 相手はたかが海賊である。重火器を持っていても数は知れている。ましてや補給が出来ないので弾薬の数は知れている。その海賊がタスクフォース(戦略機動部隊)を編成して武力行使におよぶとは考えにくい。つまり、大がかりな泥棒の範疇なのだ。それに対して警察で警備するのが今回のソマリア沖での「海上警備行動」の基本方針であったはず。
 ところが、今月末には航空自衛隊海上自衛隊のP-3C機を2機ソマリア沖での「海上警備行動」に派遣すると言う。しかも、このP-3Cはソマリア沖のアデン湾で収集した情報を米軍に提供する任務も受けている。米軍のソマリアに対する方針は日本の「海上警備行動」とは違い、軍事介入やテロ対応の武力行使も念頭に置いた方針で、日本は収集した情報をこのような方針にある米軍に提供する、つまり、米軍の軍事行動の一部を担うことになる。これが「海上警備行動」なのか。米軍と一体になった軍事行動以外の何ものでもない。
 航空自衛隊はP-3Cへの整備や補給のための輸送任務にC-130も派遣する予定だ。これらの航空機はソマリアの隣国のシブチのシブチ空港をベースにする。このベースの一角を借りるので、その警備のために陸上自衛隊の中央即応連隊所属の隊員も派遣する。
 またシブチの港は「対テロ」戦争支援のためにインド洋に派遣されている海自艦船の補給基地でもある。現在、派遣されているのは護衛艦「あけぼの」と補給艦「ときわ」の2隻。
 このソマリア沖近辺に「海上警備行動」の護衛艦(国際的名称は駆逐艦、もしくはヘリ空母)2隻「さざなみ」「さみだれ」で約400名、インド洋での給油活動に330名、加えてP3Cの整備と警備に150名、、補給部隊としての航空自衛隊が90名。合わせて1、,,00名近い自衛隊員(軍人)がこの地域に集うことになる。自衛隊の連隊並みの人員が外国に駐留することになる。しかも一部は米国の軍隊と共同行動をとる。
 これが治安維持を中心にした警察行動を規範とする「海上警備行動」なのか。しっかり説明して欲しい。これは「警備行動」を逸脱した「軍事行動」以外のなにものでも無い。その事実をマスコミは国民に知らせないのは何故なのか。単に不勉強なのか。そんなマスコミはいらない。

日本の常識、世界の非常識
 人員の規模で言えば札幌の雪祭りに陸上自衛隊が延べて2,500名(作業期間を考えると日々300名程か)雪中訓練と称して出動している。それに比べてソマリア沖やシブチの900名は規模が大きいとは言えないとの考えもあるだろう。しかし、ソマリア沖は外国である。冬の札幌大通公園では無いのだ。しかも、国情不安定なソマリアで日常の治安もままならない地域なのだ。だから海賊が出て外国の船を襲うのだが。
 そのような地域で旗幟を「米軍関連」と鮮明にして活動することの危険性。とても日本が独立国として国際貢献の役割を担って活動してるとは理解されないだろう。
 軍事行動では無い証しが少数の海上保安庁職員の同乗では説明が付かないだろう。日本の感覚では「自衛隊は災害復旧や雪祭りの雪像作りをする部隊」だろうが国際的には軍隊である。まぎれもない事実だ。その軍隊が兵器を携えてソマリア周辺に駐屯するのだから諸外国が納得できる説明が必要だ。特にシビリアンコントロール(文民統制)下にあることに日本国政府は責任を持たなければならない。いや、そもそも駐留はすべきで無いのかもしれない。
 「海上警備活動」に米軍と一体となって活動するP3Cが必要なのか。そもそもの発端である「海上警備行動」に何故P-3Cが必要なのか。過剰警備ではないのか。
 そのあたりの議論がなされていない。一部の赤旗新聞でしか報道されない。しかし、我々日本国民は日本が「警備」に名を借りて軍隊を外国に駐留させている事実に責任を取らなければならない。世界の国々と比して相対的に弱体な日本の外交が、今回の件で益々国際的発言権を失い、ひいては日本の国益を失ったとしても、日本国民はその責を受け止めなければならないのだ。だから、せめて、納得できる説明を受けておきたい。

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2009.05.20 Mint