日本郵政の社長交代劇は麻生太郎総理の「ぶれぶれ」

当初は郵政役員刷新で起案
 鳩山邦夫総務大臣の不可解なほど自身に満ちた西川善文社長交代への態度に何か裏があるのだろうかと探ってみると以下のような記事が目に付いた。
読売新聞からYahooへの転電(現在は不掲載)
 2009年の2月に麻生太郎総理は鳩山邦夫総務大臣を呼んで6月の日本郵政の株主総会で取締役の一新を指示した。次期社長候補としてNTTの和田紀夫会長、生田正治・元日本郵政公社総裁、西室泰三・東京証券取引所会長等の名簿も渡して調整を指示したとのこと。日本郵政の人事に関しては人事委員会が存在するが、この構成員が小泉純一郎改革に積極的な財界人で構成されている。麻生太郎総理の日本郵政の西川善文交代工作を察知した竹中平蔵・元総務相が小泉純一郎元首相に相談し、この人事を白紙撤回して西川善文社長続投の人事委員会報告にこぎ着けた。(以上、読売新聞記事より)
 戦国時代のお家騒動並みの攻防が陰であったようだ。小泉純一郎色を払拭したい麻生太郎総理にとって郵政の人事権を配下に治めるには小泉純一郎・竹中平蔵ラインを排除し、自分の息のかかった人材で日本郵政を牛耳るしか無い。そのための特命工作員として鳩山邦夫総務大臣を指名したのだが、自らに降りかかる火の粉の多さに驚いて逆に鳩山邦夫総務大臣更迭で逃げ切ることにした、ってのが真相のようだ。
 日本郵政は3つの事業の集合体だが郵便事業なんかは政治家として魅力も何も無い。問題は郵便貯金事業と簡易保険事業でb膨大な預貯金と保険料が集まっている。江戸時代なら幕府の陰の金庫の「越後屋」だ。ここが為政者の誰と組むかってことによって、財布の後ろ盾を持つか持たないかが為政者の大きな武器になる。そのあたりを狙っての小泉純一郎元首相の郵政民営化論なのだが、その支配権を巡っての権力闘争が今回の日本郵政の西川善文社長交代劇の背景になる。

牛耳る者がアメリカから見た権力者
 大きな政府を国民が望んでいないのは時代のマクロな流れで、地方分権の推進や税の地方への移譲により小さな政府に近づき、これを構成する与党の求心力が弱まるのは時代の流れ。その中で政府配下から「越後屋」を切り離し極力私企業として存続させて影響力を行使するのが政治家の賢い選択肢となる。小泉純一郎氏が派閥を持たず一匹狼で居ても強大な影響力を行使するには日本郵政を手放す訳には行かない。
 日本郵政を牛耳る勢力は政界にも財界にも大きな影響力を及ぼすことができる。しかも、太平洋を越えてアメリカにまで影響力を持ち続ける。郵政民営化を指して「日本売り」と揶揄されたのは、その可能性が公社よりも高くなるって可能性の一つに言及したものだ。郵政公社化が一里塚で最終形態は純然たる民間企業である日本郵政ってことだ。民間企業なので国民の膨大な預貯金を保持する金融機関がブラックボックス化して情報開示の舞台から消えることになった。実際、日本郵政は情報公開法の対象にならない民間企業なのだ。
 表で戦わされている政権交代を含む政治の世界とは別に、裏の面として今回の日本郵政人事には深慮遠謀が隠されていたのだ。その戦いに麻生太郎総理は負けた。

8月2日衆議院選挙が選択出来るか
 今回の麻生太郎首相の日本郵政の人事を巡るゴタゴタで指導力が問われるって論調は大したことでは無い。選挙向けの誹謗中傷合戦の範疇だ。
 大事なことは麻生太郎首相が日本郵政を巡る闘争に敗れたってことだ。江戸時代なら「越後屋」を乗っ取ろうと旧来の家老達に戦いを挑んだが負けたってことだ。筆頭家老の椅子から転げ落ちたって大失態を演じたってことだ。
 このまま麻生太郎総理が任期満了まで衆議院を解散しないと衆議院選挙の前に自民党総裁選挙の洗礼を浴びなければならない。これに「越後屋」を失い求心力を失った麻生太郎総理が勝利するのは難しい。つまり、小泉純一郎・竹中平蔵ラインを後ろ盾にする勢力に勝てない。つまり、総裁選を行えば石原伸晃氏か小池百合子氏に軍配が上がるってことだ。「越後屋」事件に負けたってことは、総裁選での勝利の芽も無くなったってことだ。
 麻生太郎総理は根っからのガキ大将の思考が抜けず、統治は支配であり、人事権等の権力を行使することだと考えている。実は統治にはリーダーシップが必要で、過去の自民党の総裁にはこれが欠落していた。今の麻生太郎総理にも同じ事が言える。つまり、リーダーシップとは「ぶれない」ことだ。何が起きても、例え自らが消えることになっても「ぶれない」故にリーダであり続けられる。「ぶれぶれ」では人はついて来られない。支えたくても支えきれない。
 鳩山邦夫元総務大臣が口を閉ざして語らないので助かっている(現時点(6/15)では、辞任の記者会見で裏話を明らかにしてしまったが)が麻生太郎総理は日本郵政の人事に関して「ぶれて」しまったのだ。そのようなリーダーが求心力を持って自民党総裁選挙を戦い、勝利することは難しい。なんせ「越後屋」は手元からスルリと抜けて相手陣営に逃げていったしまったのだから。
 座して待てば秋の自民党総裁選挙での敗北の文字しか無い。この局面で麻生太郎総理の選択肢は非常に狭まる。任期満了まで引き延ばすカードは失ってしまった。
 7月3日衆議院解散、8月2日投票、このカード以外に麻生太郎総理が切れるカードは無い。7月3日までにこのカードを切らないと、次回の自民党総裁選挙で自民党総裁が替わるのは自明だ。静岡県知事選(7月5日)、東京都議選(12日)の結果待ちも難しい。結果は麻生太郎総理に最悪の結果になるのは見えているのだから。下手に結果を待てば麻生降ろしを加速させるだけだ。
 7月3日の衆議院を解散しない場合、この日を過ぎれば自民党総裁選挙に向けて政局が大きく動くことは間違いない。

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2009.06.15 Mint