日本郵政乗っ取り失敗で求心力を失う麻生太郎総理

表面上は社長人事問題に見えるが
 先に書いた時には鳩山邦夫元総務大臣への日本郵政の役員を変えろとの麻生太郎総理の指示はスクープ情報だが闇に葬り去られると思われた。しかし、鳩山邦夫元総務大臣の退任記者会見で「手紙で名簿をもらった」、「その意向を信じた私がバカだった」と公表するに至っては隠し通せない麻生太郎総理の意向が公開された。
 時の総理大臣が日本郵政に監督権のある総務大臣に「日本郵政の役員人事を変更せよ」と命じるのはおかしい。そもそも株式会社に民営化された日本郵政に対しては過渡期として国が株を保持しているが、やがて市場で売却するのだから、国は株主の権利を出来るだけ行使しないように日本郵政と付き合っていくのが筋だ。
 振り返ってみると、昨年の秋口に麻生太郎総理は言葉では「株がこんなに下がっているこの時期に日本郵政の株を売る必要は無い」と発言した。また、年が明けた2月の国会答弁では「私は郵政民営化に反対だったから外された。担当大臣は竹中平蔵氏で私は関係ない」とまで言い切った。
 これらの言動を踏まえての今回の「日本郵政次期役員名簿」の手紙公表事件である。よもや鳩山邦夫元総務大臣が退任の記者会見で口にするとは思わなかっただろう。
 鳩山邦夫元総務大臣も大人げないと言うか、普通の政治家感覚なら(その是非は別にして)その秘密をネタに例え総務大臣を更迭されても手紙は麻生太郎総理に圧力を掛けるネタとして温存しただろう。それを「正義」を振りかざして暴露するのは政治の素人としか見えない。
 で、手紙が公開されたら(情報は既に公開されたが)麻生太郎総理は改革派と目されている自民党議員から袋だたきに会うだろう。これには2つの理由がある。
 一つは改革派の利権の象徴である日本郵政に改革派以外の人間が土足で踏み込もうとしたっていかにも利権政治の象徴のような拒否反応だ。改革派にあとって自らの利権を守るためには敵は叩きつぶさなければならない。
 二つ目の理由は非常に複雑だ。これは麻生太郎総理が改革派に仕込まれた時限爆弾のスイッチに触れたからだ。

郵政民営化のコンプライアンス
 この場合、コンプライアンスを単刀直入に「法令遵守」とは解釈しない。陰と陽と言うか法令遵守の一歩手前のモラルや道徳に近いところも含めて郵政民営化にはうさんくさい事務処理部分が多々ある。その手法の強引さもさることながら郵政公社を民間企業である日本郵政に移行するには清濁様々な状況を飲み込まなければ短期間には民営化移行は出来ない。
 その裏も表も知っているのが西川善文社長である。
 今回表面化した「かんぽの宿」の一括売却も数年前から意図的に無理な減価償却を積み重ね帳簿上の資産価値を落としておいて辻褄を合わせておき、その後売却しようとしたのだが、鳩山邦夫総務大臣の知るところとなり白紙撤回された。もちろん、鳩山邦夫総務大臣が気がついたのでは無く、日本郵政からの内部告発情報が鳩山邦夫総務大臣に届いたのだ。前回の「かんぽの宿」の売却まで遡って問題にされてないが、これすら1万円落札で6000万円で売却って実態は「法律的には問題ない」で片付けられている。
 改革派が感じた一番の問題は一蓮托生だった西川善文社長と改革派相互の鉄のカーテンの隙間から守旧派に情報が漏れたことだ。実は早急な日本郵政民営化は無理に無理を重ねているので移行に際して常識外の事柄が多々存在する。それを内部告発されないために睨みの効く西川善文社長をトップに据えておいたのに、この社長を入れ替えてガス抜きを守旧派が目論んでいる謀議が発覚したのだ。
 日本郵政に影響力を持ちたいなあって気楽な麻生太郎総理の判断。現にあれだけ揉めた西川善文社長の人事は内閣の3役に任せて「洞(ほら)ヶ峠」を決め込んだのだから大して確執してたのでは無いだろう。しかし、改革派にとってはその行為は敵が本丸の石垣に手を掛けた非常事態だったのだ。
 一部報道によると小泉純一郎元総理が「日本郵政から手を引かないと一切の衆議院選挙協力は出来ない」と脅しを入れたとの情報もある。知らず知らずに麻生太郎総理は虎の尾を踏んでいたのだ。
 当然、改革派は証拠の手紙が出てくれば「麻生は自分の権力を広めるために日本郵政を自分の参加に治めようとした」と改革派以外の議員にもオルグするだろう。これで麻生太郎総理の命運は尽きる。

自民党内で改革派と対峙するのは自爆テロ
 小泉純一郎元総理は深慮遠望の人である。マンガばかり読んでいる麻生太郎総理に比べて言葉の端々に先人の教えが出てくる。「コメ百俵の精神」とか論語からの引用も多い。その小泉純一郎元総理は直球だけでなく変化球でも牽制してくる。特に郵政民営化に反対する勢力には徹底的に戦いを挑む。「今の議席は何によって得られたものか良く考えてもらいたい」とか定額給付金の採決で衆議院本会議を欠席して見せたりと明確な意思表示は第一線を去っても強力に続けている。
 小泉純一郎総理誕生時に「自民党をぶっ潰す」と言ったのは、その後の「郵政選挙」で民営化反対の候補者を公認せずに刺客を差し向けたのも、全て「俺に反対なら出て行け。おれだけが正調自民党なんだ」って宣言だ。
 このような殿様が建てた城に子飼いの家老が入居した。が、健康問題で子飼いの家老は退き、昔小泉純一郎殿が鞄持ちをしていた家老の息子が入居する。この息子にとって小泉純一郎は永久に「親の鞄持ち」でしか無い。その鞄持ちした家老の息子が能力不足で夜逃げ同然に城を出て、新しく入居したのは時代を50年は元に巻き戻すのでは無いかと思われる先々代の大家老の孫。
 正直言って殿様の小泉純一郎は憤懣やるかたない。出来るならば自らの建てた城に火を放ちたいくらいだ。その不満が爆発しなかったのは息子を家老にするまで我慢と思っていたのだが、何時までも息子が登場する舞台が開かない。加えて大家老の孫が土足で金庫倉に踏み込んでくるは、飼い犬は世襲家老はいかんと噛みついてくるは。もうプッツンするしか無い。
 が、鳩山邦夫氏並みのプッツンと小泉純一郎氏のプッツンは違う。深慮遠謀の人だからあのてこの手の変化球を使って反撃に出る。で、敵は外堀の外まで逃げ去ってしまった。
 結局、自民党のコップの中の嵐だったのだが、蓋を開けてみると城には反逆により更迭された家老の兄が入居することになる(らしい)。

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2009.06.18 Mint