非核三原則の法制化は茶番劇を生む

非核三原則はキャッチコピー
 いまさらの感も無きにしもあらずだが、1967年12月11日の衆議院予算委員会において当時の佐藤栄作首相が小笠原返還は核抜きなのかと質問されて「核兵器を持たず、作らず、持ち込ませず」の非核三原則を答弁で用い、これが日本の政府見解となった。これを政権交代した民主党の鳩山由紀夫総理が「非核三原則を法制化しておこうか」と脳天気な発言を行っている。
 一方米軍は日本各地の港に入港するにあたり港湾管理者からの非核の証明要求に対しては「軍事的見地から、あるとも無いとも言えない」と返答している。日本国政府は同様の港湾管理者からの問い合わせに「アメリカから事前通告が無いので非核三原則に準じて無いってことだ」と答える。つまり非核三原則の見地から、核の持ち込みは事前協議が必要で、その事前協議が無かったのだから核の持ち込みは無いって論法で切り抜けてきた。
 核の持ち込み密約については『1960年の日米安全保障条約改定時に、核兵器を搭載の米軍艦船などの日本立ち寄りは「事前協議の対象外」とすることを日米が了解した』との秘密条約が非公開のまま申し送りされてきた事実。
 これと関連して、沖縄返還においても密約があったとの密約情報をスクープしたのは当時の毎日新聞の西山太吉記者。この裁判は「取材上知り得た機密情報を国会議員に漏洩した」との国家公務員法違反事件であった。ちなみに情報を渡した先は現在の民主党の横路孝弘氏(当時社会党)であった。この裁判は非核三原則に反する密約の有無が問われた裁判では無い。
 その後、密約の米軍公文書が30年を経て公開されたり、元外務次官(複数)の密約はあったの証言が明らかになっているが、現在の政府見解は「密約は無かった」である。この煮えくらない態度にキレた河野衆議院議長は「以後、密約が無かったと口にする議事録はゆるさん!」と表明した。
 非核三原則は内閣の「私的な」スローガンでしか無いのだが、民主党の鳩山由紀夫総理は社民党に流し目するために「非核三原則の法制化」なんて口にして良いのか。政治的判断力を疑う発言だ。

戦略核兵器は通常兵器と違う扱いが必要
 戦略核兵器の代表格の核は有るとも無いとも言わないのが戦略上最高の抑止力になる。ま、「有る」と言うのが一番かもしれないが。公開の場で核兵器を保持するが使わずと言えない日本だが、全国各地に展開する在日米軍基地に関しては関知しない。例え非核三原則があったとしても日本には先制核攻撃は戦略の範疇に無いのだから、報復核攻撃能力の有無で核兵器を戦略的に使うしかない。それも「報復核攻撃の可能性の情報」を外交で使うしかない。それが結局核兵器は有るとも無いとも言わないってことだ。
 非核三原則を法制化するのは「無い」と明確にする行為で国防上の最悪の選択肢だ。日本国は核兵器を保有していないが、日本本土に展開するアメリカ軍が核兵器を保有しているかどうかは日本政府は関知しないってのが最高の日本の核兵器戦略だ。
 それを、非核三原則の法制化で日本政府が米軍基地も寄港する米軍艦船も非核三原則の見地から核兵器を持っていませんと証明して何になる。逆に北朝鮮に「さそい水の罠ではないか」と裏の裏の裏を読ませる高度な戦略なのだろうか。いや、単細胞故の失言だろう。
 米軍の艦船や基地に核兵器が貯蔵されているのは公然の秘密として肯定も否定もしないのが国防に関する政治判断ってものだ。それを法制化しても、その信憑性に疑義が残るのだから無駄な行動だ。ま、法制化は社民党へのリップサービスとしては下品な政治ジョークですらある。

有事に備えて自衛隊が訓練すべき
 有事法制も喉元過ぎれば熱さ忘れるで話題の外になっているが、北朝鮮の核攻撃を想定した有事対策は何処まで練られているのだろうか。集団的自衛権の解釈も遅々として進まない。北朝鮮からの核攻撃に対する報復手段を明確にしておかないと北朝鮮からの核攻撃を戦略的に抑止できない。一見矛盾するようだが、備えることが抑止になるのが軍事力だ。現に北朝鮮は事あるごとに核攻撃を口にしている。
 非核三原則の法制化とはこれと逆だ。本来であれば外国からの核攻撃に対し日本は同盟国のアメリカから核兵器の貸与を受け、これを自衛隊が使用するって有事想定をしておくべきだろう。「持つ」のでもなく「作る」のでもなく「借りる」のだ。加えて自衛隊は貸与された核兵器の実戦での使用を前提に日米合同で訓練を行っておくべきだろう。背広組の机上の空論だけで無く、制服組の実戦行動訓練が北朝鮮に対する抑止力を形成する。ましてや、非核三原則を法制化して国是としたらこの国は守れない。逆に非核三原則は撤廃すべき政策だろう。
 現にヨーロッパではNATOがニュークリア・シェアリングにより自国が核兵器を持たなくても同盟国から貸与を受けて自国内で自国軍隊が核兵器を使用することが可能になっている。そのための訓練も行っている。
 現在の日本の非核三原則には「使わず」には触れられてない。このあたりの改革から始めなくてはならないが、少なくとも「核の傘の下」状態で非核三原則を叫んでも諸外国から見たら「言ってることとやってることの違い」は明確で全然説得力を持たない。
 国防の見地から、専守防衛の見地から核兵器の戦略的使用(実戦使用を匂わす)は必要で、隣の国が核を持った時点で旧来の核兵器戦略・戦術を見直す必要がある。まして非核三原則の法制化なんかは時代に逆行している。
 茨城県の東海村のJCO臨界事故で米軍に「中性子防御服を貸与して欲しい」と電話して「世界の何処にも無い」と答えられた自衛隊だから、何も考えてないのだろうなぁ。政治家はもっと考えてないのだろうが。

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2009.08.18 Mint