太陽光発電の売電価格上乗せは愚策で責任転嫁

省エネするほど家計の支出が増える
 CO2増加が地球温暖化を招くのかどうか議論の最中だが、ま、化石燃料の使用量を減らす政策は極端な政策で無い限り21世紀に必要なエネルギー安全保障の一翼を担う重要な政策だろう。
 今回の経済産業省の家庭用の太陽光発電での余剰電力の電力会社への買い取り価格を倍にする政策(長いので家庭からの電気を電力会社に売ることを「売電」と呼ぶので売電価格倍化(言いにくい!)と以下称する)は一見、家庭用の太陽光発電装置の設備投資を行った家庭の設備償却期間を短くし(およそ20年→10年)設備投資する家庭を増やす正しい政策に見える。しかし、太陽光発電の売電価格倍化の原資は国民負担となっている。
 そもそも家庭用の太陽光発電による売電はドイツを筆頭にヨーロッパ各地でそれぞれの補助制度により普及を促進してる事業で、その成果は脱化石燃料の施策として着々と実績が積み上がっている。そのインセンティブ(動機付け)が省エネすると家計の負担が減るって原則と、売電による設備投資の回収促進だ。日本では売電価格倍化によって経済の流れに逆らってまで強引にインセンティブを強要する制度に陥っている。
 太陽光発電のような自然エネルギーを不自然に利用しようとすれば所詮長続きせず無駄な省エネに陥る。少なくとも家庭用の太陽光発電は10年から20年のスパンの設備投資で一生の買い物と言われる住宅新築とセットになった個人には高価な設備投資だ。そのインセンティブが「売電で元が取れるから」って部分にあり、しかも他人に負担を強要して成り立つのでは憲法の国民の平等に抵触し、格差社会の助長策になる。
 この太陽光発電による売電価格は全世帯や産業におよび、おおむね1家庭当たりの負担額は電気料金で60円〜100円になる。全世帯(太陽光発電装置の有無に係わらず)と全事業者に電気料金の実質的な値上げを強要しているのだ。
 比較のために民主党案をあげると、家庭用の太陽光発電に加えて風力発電(運営は企業が主体)の売電価格倍化も行うとなっている。この場合、電気料金に占める価格は60円〜100円の2〜3倍になると試算されている。これが家計からの直接負担になる。つまり、太陽光発電による売電価格の倍化は電気料金の値上げもしくは増税である。

外国の電力制度と日本の事情の違い
 日本は明治の時代から西欧に「追いつき追い越せ」をスローガンにする文化風土が続いてきた。すでに世界有数の(第二位の座は中国に奪われそうなので「有数」としておく)国になった日本だが西欧とは違う面が多くある。日本独自手法の採用で世界に比較する先例が無い制度が多い。省エネについても1980年代のオイルショックを受けて工業用分野では電力を筆頭に省エネによるローコストオペレーションが進み、現在世界有数の(二位とは言わない)省エネ国家になっている。
 それ故、日本の世界に占めるCO2排出量は4%しか無い。絞りに絞った「明日のジョー」の「力石徹」状態から更にCO2排出量を絞ろうとするのは、かなり厳しい現状だと把握すべきだろう。にも係わらず過去には省エネに熱心では無かった諸外国の省エネ目標値と同等の数値を掲げるのは日本の国情を知らない政治家が自民党にも民主党にもいかに多いかの証左だろう。国情を知らない政治家ってぇ(笑)。
 1945年以降、日本の電力は9電力(後に沖縄返還により沖縄電力が参画)に分割され供給については地域独占体制がしかれた。電力需要のアンバランスから発電は地域内では賄えず、有名な黒部第四ダムなんかは関西電力の施設である。各地の原子力発電も立地は供給地域外になっているものも多い。この体制の中で日本では発電は10社(沖縄を含む)で行い、それぞれの地域で独占的に供給、つまり送電を行う体制が発達してきた。
 つまり世界の情勢と大きく違うのは発電と送電が一体の電力会社の体制を長く続けてきた。世界では特にアメリカが顕著だが、発電会社は発電のみ行い送電会社に売り、送電会社は一般需要家に電気を売る機能だけで成り立っている。その電気の価格は地域需要や送電設備事情によって各社各様に設定されている。電力売買取引ネットワークが存在し日別時間別に細かく電気料金が入札される。
 日本にはこの「発電だけで飯を食う会社」が存在しなかった、ようやく1990年代に入って国の指導もあって10電力で自分で発電した以外の電気を買う「売電受け入れ」がはじまったばかりである。これは、規模的に風力発電を主眼に置いたもので、家庭用の太陽光発電からの売電は10電力の好意によるものでしか無かった。ま、強力な行政指導の下って修飾は付くのだが。
 今回の太陽光発電の売電価格倍化も実はこの強力な行政指導(自民党も民主党も同じ穴のムジナなのだが)によるものである。

電力はエネルギー戦略として国策にすべき
 家庭用の太陽光発電の普及に伴ってやっかいな問題が起きてくる。その最たるものは家庭用に限らず太陽光発電は夜は発電出来ないってあたりまえの事実だ。加えて電力は需要分だけ供給するって原則によって成り立ち、貯めておいて後で使うって機能は極少数の実験を除いて実用化されていない。
 但し、各電力会社は100%稼働が宿命の原子力発電の割合が高まるにつれて上下にダムを持つ揚水発電所を積極的に利用している。これが規模的には唯一実用化されている電気の蓄積手段だ。詳細は後述する。
また、足りない電力は地域間送電(電力会社同士で融通)で成り立っている。
 電気は使う分だけ供給するので需要に応じて細かな制御を必要とする。この細かな制御が電圧や周波数のゆらぎとなって現れる。
 ところが、いまの送電電気は交流で中学校で習うが電流と電圧には常に位相のずれがある。家電製品で言えばVA(電流電圧表記)とW(消費電力)表記の違いになっているが、力率と呼ばれる電流と電圧の位相差が存在し、我々は実効電力と呼ばれる電流と電圧と力率の積を消費電力料金として支払っている。家庭用は単層電力だが送電系は3相電力によって送電されている。
 前提が長くなったが、自然エネルギーは家庭用の太陽光発電や風力発電には発電量はお天道様任せ、風任せの部分がある。特に曇りの日や強風の日には発電量が時々刻々と変動する。
 その電力を受けて需要に見合った供給を行うには現行の発電設備を細かくコントロールする必要がある。特に大規模な太陽光発電や風力発電が送電系統にある場合、既存の火力発電の出力コントロールで対応せざるを得ない。まして、これを遠隔地に送電するとなると先の3相交流電力に電圧と電流の位相差が著しく生じていた場合、送電電圧と電流の位相差による無効電力の大量発生で送電系とが破綻することがある。専門用語で電圧崩壊(voltage collapse)と呼ぶので詳しくはググッテ欲しい。
 で、問題は電力の貯蔵である。この技術を確立するのが自然エネルギーを上手に使う基本技術なのだが、これには時間を要するだろう。現在のNAS蓄電池やリチウムイオン電池では限界がある。超伝導蓄電は何らかの超伝導破壊が起こった時には大爆発を起こす危険がある。
 ところが、温故知新である。原子力発電所が出力コントロールが難しい(常に100%出力が最も安全で効率の良い運転方法で出力変動はチェルノブイリ原発の例のようにリスクが伴う)のでピーク時電力を貯蔵するために揚水発電ダムってダムを用いる。これは水力発電所である。高いところに上部ダム、低いところに下部ダムを設置し、夜間の余った電力を使って下部ダムから水を吸い上げ(正確には発電機をポンプとして使ってポンプアップする)上部ダムに貯めておく。昼間電力需要が高まった時に上部ダムから放流し電力を供給する。昔から使われている技術である。
 これを家庭用の太陽光発電のような自然エネルギーの変動に対するバッファとして利用する技術を確立してはどうだろうか。個々の系統ではNAS電池のようなバッファ、全体では揚水発電ダムのようなバッファを送電系に組み込むことにより自然エネルギーの平準化を行う研究開発が早急に必要だろう。
 ちなみに蓄電単価ではおおまかな試算によるとNAS電池2.8円/kwhに対して立地条件にもよるが揚水発電ダムは2.5円/Kwh以下とされている。また、その実用利用期間もNAS電池で10年、揚水発電ダムでは60年と言われている。
 高水準な電力供給を維持するためには日本の国情である送発一体型の電気エネルギー政策を堅持して世界に先駆けた技術開発を行うべきだろう。家庭用の太陽光発電普及にあわせて技術開発が必要だ。
 ※もう一つの自然由来電力の制御技術である「スマートグリッド電力網」については、時間があれば後で述べたいと思う。

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2009.08.26 Mint