民主党圧勝で政局は流動化するか

人気投票を逆手に取られた自民党
 衆議院選挙の結果はマスコミが予想するように民主党の圧勝で終わった。自民党の獲得議席数はマスコミの下馬評のさらに下の166議席。野党第一党ではあるが、もはや野党としての存在感すら示せない少数野党になってしまった。
 麻生太郎自民党総裁は「長年の自民党に対する不満が爆発した」とまるで他人事のように語るが、そもそも、そもそも自民党は長期低落傾向で細川政権による政権交代から将来の自民党凋落による本格的な政権交代の下地は着々と整っていた。それが小泉純一郎総理ってカンルフ剤により表面的には元気を取り戻し、解散しない権利の行使によって衆議院選挙を経ずに3代の総理大臣交代劇となった。
 その結果着々と自民党離れが進み僅かな力でも自民党は支持を失っていく。昨年の麻生太郎総理就任時に衆議院の解散を打てば、少なくとも「私と、小沢一郎とどっちが日本の総理大臣にふさわしいのか」と打って出て選挙戦を戦うことができた。少なくとも自公連立でかろうじて過半数、もしくは、第一党を確保し、民主党を巻き込んだ政界再編成が起こったであろう。しかし自民党にとって不幸なことに選挙巧者の小沢一郎氏が西松建設事件で国民の不満が高まったピークを利用して辞任し、選挙の顔として鳩山由紀夫氏を代表に押し上げた時点で勝敗は決着した。
 本来、選挙の顔として党首を祭り上げるのは自民党のお得意の戦略だった。人気のある総理を先頭にイケイケドンドンな選挙戦を戦ってきたのは自民党だった。だから、小泉純一郎ブームを再びと願って、安倍晋三氏、福田康夫氏、そして麻生太郎氏と人気を探りながら選挙のタイミングを計ってきた。しかし、総理の弾では無く、議員の時の人気が責任者になったとたんに無能をさらけ出す結果となって、解散すら出来ない状況が続いた。

政権という名の引力の作用
 圧倒的スコアー差で勝利した民主党は大学院生の集団と揶揄されるように勉強熱心だが実務経験に欠ける集団だ。衆議院選挙の結果が与野党拮抗の線であれば民主党内部にもキャスティングボードたらんとして党を割って出る勢力が出来ただろう。しかし、現在の議席数では民主党を割って出るメリットは何処にも無い。唯一有るのは小沢一郎氏でいわゆる小沢ファミリーが100名を越えるのだから、これが自民党と大連立を組めば216(大連立)vs208(民主党)の構造は作れる。しかし、それこそ数合わせであって現実的では無い。他の民主党のグループでは割って出ることは政権政党からの離脱であり何のメリットも無い。
 これが、自民党が迷走しながらも続いていた「権力という名の引力」の作用だ。
 この引力は物理の法則と同じように内部からは崩壊しない。崩壊するだけのエネルギーが内部では無く外部から加えられたときに初めて崩壊する。今回の日本政治史に残る3度目の選挙による政権交代は、まさに引力の低下では無く、外部からの力によるものだ。

御旗無き自民党は存在事由を失った
 この外部からの力は時代に合わなくなった自民党が見放されたってことだろう。1989年11月のベルリンの壁崩壊から世界の構造は冷戦の時代の終演を迎え、新たな国作り外交を求められるようになった。最も端的なのが日本で、東西冷戦の時代にアメリカの核の傘を利用して経済政策傾倒の政治だけで反共、資本本位経済政策を錦の御旗にして求心力を得ていた。時代の変遷とともに、国としての姿を振り返ると、今までの日本の戦後の中途半端な国の姿を世界の標準に戻す必要がでてきた。
 しかし空白の10年。自民党政治は新たな御旗を上げることができなかった。最後に小泉純一郎総理の「改革路線」に活路を見いだしたのだ。実は、世界情勢が変化している中で日本の政治は改革が必須の要件であった。しかし、小泉純一郎首相は国内改革にのみ目を奪われ、対外的な日本の存在事由を書き換えることはしなかった。
 その意味で安倍晋三総理の「戦後レジュームからの脱却」はアメリカと距離を置いた旧来の自民党の考え方では危険思想に近いものであったが、時代に則したものだった。しかし、健康問題から政権を福田康夫総理にバトンタッチ、さらに福田康夫総理から麻生総理へバトンタッチする間に、自民党は経済政策主体の冷戦前の政策に引きこもってしまった。
 新しい世界情勢の中で日本のあるべき姿。これを政治主導で行うことが旗の色が何色であれ政治の錦の御旗である。この旗を揚げること。この旗の色を鮮明にすること。これが現在の世界情勢の中で日本の政治に求められる日本の存在事由だ。
 その意味で「政権という名の引力」は内部から崩壊しないにしても外部の彗星衝突(社民党)とか隕石落下(国民新党)とかで引力を低下させることは大いに考えられる。また、何時浮遊する暗黒星雲(みんなの党)に覆われるかもしれない。はたまた、自らの重力に負けて内部圧縮崩壊して赤色矮星になるのか。
 圧倒的議席数を占める民主党にとって敵は自民党では無い。自らの内側に存在すると考えておいたほうが良いだろう。

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2009.09.01 Mint