小沢一郎研究〜その金脈と人脈が出版されるか

オリジナルは立花隆氏の著作
 1974年に文藝春秋で「田中角栄研究〜その金脈と人脈」が発表された。それから37年を経て主人公が代わっただけの事件の再燃なのか。どうも既存のマスコミの立ち位置を見ると小沢一郎氏に対しての批判に迫力が無い。これは政権与党への配慮なのか、マスコミの報道姿勢の変遷を37年前と比べてみると面白い。
 実は37年前も同じ事があった。文藝春秋は立花隆氏の田中角栄批判を掲載したのだが、その後この事案から手を引いてしまう。立花隆氏を二階に上げてハシゴを外してしまったようなものだ。そのため「田中角栄研究〜その金脈と人脈」の単行本は講談社から発刊されることになる。立花隆氏の田中角栄を追うリポートはその後多くの出版社を渡りながら続くことになるが、これは立花隆氏が人気ジャーナリストで出版各社が獲得合戦に乗り出したって側面もあるのだろうが、基本的には時の権力に配慮し、批判を分散したジャーナリズムの敗北ではなかったのかとも思える。
 今回の主人公は田中角栄氏に替わり小沢一郎氏だが、マスコミの報道は検察発表を断片的に繋げているので全体像が見えない。書いている記者が見えていないものが読者に伝わる訳が無い。
 「4億円は二つあった」と検察から発表されるまでは「謎の定期預金担保に融資を受け土地を購入」に目を向けていたものだから、謎解きのような記事になってしまった。検察の断片的な情報を点と線で繋いだ、最も解りやすかった報道は産経新聞のみで他は情報整理が出来ない一貫性の無い報道であった。
 小沢一郎氏の今回の疑惑は全体像から入らないと解明が難しいだろう。検察のリーク情報だけではとても全体像が描けない。多くのパーツの抜けたジグゾー・パズルでは何時まで経っても全体像が見えてこない。

不動産の取得手法はマネーロンダリング
 小沢一郎氏の政治資金収支報告書の事務費に不動産取得が含まれていることはかねてから明らかになっている。そのため、政治活動に不動産取得は含まれないので、政治団体の不動産取得を禁止する決まりまでできた。
 小沢一郎氏の主張は政治献金を不動産取得に回して不動産を有効活用して政治活動を行うのが何故悪いと開き直るが、実は政治献金(今回の場合、不記載)を裏の金として、これを表の金に化けさせるマネーロンダリングが今回の事件の本質だろう。
 裏の金は使えば足が付く。しかし、現金を預金で塩漬けにして、これを担保にして借り入れを行い不動産を購入すれば、取得した不動産は自由に売買できる。一定期間を過ぎると裏の金の担保権も外され塩漬けから解除される。ただ、この場合最初の預金の出所が追及される可能性がある。しかしそれとて時効の壁を越えれば刑事事件にはならない。まさに、今回の事件はここに絞られる訳だ。
 しかし、ここから小沢一郎氏に関する事件性が急激に萎んでしまう。当時野党だった小沢一郎氏が「田中角栄研究」にあるような金脈を作っていても、それを贈収賄や請託で政治的な刑事事件として起訴するのは難しいだろう。当時の野党議員に請託するのは「企業経営者の無駄な交際費」ってことで、株主訴訟の対象にはなっても政治問題化するには何時も問題になる「職務権限の有無」が問われる。実際、野党の政治家にどれほどの職務権限があるのか、疑問視される所だ。逆に、職務権限を装った小沢一郎氏の詐欺事件なら解るが、これも被害者が訴えなければ事件として立件できない。

逃げ切れる自信があるから開き直りなのか
 今回の事件は結局、「大山鳴動してネズミ一匹出ず」に終わる公算が高い。残念ながら国民には納得できる情報が伝わらない。残尿感が残るだけだ。腹をくくって「小沢一郎研究〜金脈と人脈」を発表するジャーナリズムは今回は存在しないだろう。何故なら、37年前に比べるとジャーナリズムの質が変化している。当時は学生運動崩れの一匹狼が食い詰めながら徘徊していた業界だったが、今は違う。
 今はジャーナリストは全てサラリーマンで会社の経営がジャーナリズムの基本方針だ。会社の経営から見て、時の権力と戦っても旨味は無い。そう、小沢一郎氏は問題の期間は野党だったのだ、そして今初めて実質的に与党の最高権力者になっている。先の田中角栄氏と大きく違うのは頂点に上り詰めて(総理大臣になって)、退陣に追い込まれた時の田中角栄氏と、下手をするとヒョウタンから駒で総理大臣に(これから)なってしまう小沢一郎氏とは政治的立場が違う。特に企業経営層の対応が違うのは当然だろう。権力とは下り坂の時には叩きやすいが上り調子の時には手が出せないのだ。
 政治家は世論を味方につけておけば安泰だと考える人種だ。その世論はジャーナリズムにより形成される。マスメディアと言い換えても良いだろう。
 昨今はインターネットが普及したとは言え、そこは無償の情報提供の場でビジネスに結びつく情報提供はやはりテレビであり新聞であり週刊誌の世界であるマスコミでの情報提供だ。そのマスコミが立ち位置を模索している今回の小沢一郎氏の事件は結局、尻切れトンボで終わるだろう。それを見越して民主党の議員(含む鳩山由紀夫総理大臣)は風が過ぎ去るのを待っている。夏の参議院選挙に向けて一番効果的な終焉方策を探っている状況だろう。
 結局、与党である民主党とマスコミの腹の探り合いで、国民は土俵にすら乗せてもらえない。それを、ジャーナリズムの終焉と呼ぶのは言い過ぎだろうか?

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2010.01.15 Mint