尖閣諸島事件は他国での中国戦略の先例に学ぶべき

事前に何の情報も得ていないのか?
 民主党政府は中国の漁船がアジアの諸外国とどのようなトラブルを起こしているのか。それを先進事例として学ばないとならない。今回の尖閣諸島での中国の漁船1隻が起こした特異な事件として対応している日本国政府は対応の矛先を間違う。
 南シナ海では中国はインドネシアやベトナムと一触即発状態になっている。1980年以降、中国は漁民を「先兵」として派遣し既成事実を作って領有権を主張する戦略に出ている。無人島に漁船員用の緊急避難所を作り、やがて恒久施設を建てて実効支配を行う。漁民が他国の海域で違法操業し、それを取り締まる他国の艦船を「漁業監視船」と称して実質武力を用いて制圧を行っている。この「漁業監視船」は退役した海軍の軍艦を用いている例が多く、実質軍艦である。
 日本の中曽根康弘元総理も「大型間接税」だとか消費税をめぐって言葉遊びを行っているが中国はまさに国際紛争を想定したネーミングを用いている。その最たるものが「人民解放軍」だろう。何から開放する軍隊なのだろうか? 実質中国共産党軍なのだが。
 漁業監視船も海軍では無い、あくまで漁業を監視する船だと言うが400トンもの大型船で「漁業を監視」する必要があるのか。実質海軍なのは明らかだ。ちなみに海上保安庁の巡洋艦では350トン級が中型船の主流になっている。
 ベトナムやフィリピンでは軍艦を出動して違法な中国船を拿捕してきたが、中国は上記の「漁業監視船」を武装させ、拿捕された船員の奪還を行っている。
 今年の6月にはインドネシアの警備艇がインドネシア領ナトゥナ諸島のラウト島から北西約100kmの地点で10隻以上の中国の漁船の違法操業を発見し拿捕しようとした。この時に中国の「漁業監視船」2隻が現れ「インドネシアの経済水域なんか我々は認めていない」と無線連絡し、砲門を向けて拿捕した場合は攻撃すると威嚇した。ちなみにこの「漁業監視船」は排水量は4,450トン、所属こそ中国農業省だが、装備は軍艦なみである。
 ちなみに海上保安庁のヘリ2機を登載できる大型船巡視船「みずほ」の総トン数は5,317トンである。

韓国との騒動はさらにエスカレート
 今年6月には韓国の警備艇が不法操業していた中国漁船を拿捕したら船名を消した別の中国漁船(と思われる)が横付けし船員が乗り込んできて斧や刀を振り回し暴行を加えて船員を奪還していった。この時点で韓国の海上警察官6名が重軽傷を負った。
 韓国と中国の漁業違反事件は2004年から4年間で2,000隻以上の中国漁船が拿捕、20,000人以上の船員が拘束されている。
 台湾でも中国漁船の違法操業は日常茶飯事化していて、今年2月に領海侵犯の疑いで中国の不審船を台湾が銃撃の後、3人の中国人を逮捕した。
 中国は漁業との経済行為の名の下に権益の拡大をはかっている。その結果がアジアの各国に及んでいる。日本だけが「尖閣諸島で1隻の漁船の横暴行為」を受けているのでは無い。
 中国の領土拡張覇権主義を背景に捕らえる解釈が多いが、実は資源、それも漁業資源問題が背景にある。それを「東シナ海には領土問題は無い」とトンチンカンな事を言っている日本政府は実態の把握がまったくできてない。多くのトラブルが漁船を先兵とした中国の資源獲得問題なのだ。だから違法操業による漁獲高の急増が背景にある。
 中国の漁業生産量は2008年で1,515万トン。2位のペルーにダブルスコアの差を付けている。20年前の中国は255万トンでしか無かった。当時は日本が800万トンで世界の海で海洋資源を入手して顰蹙を買っていた。その当時の倍の漁業生産を中国は行っている。しかも20年で6倍にも成長したのだから、軋轢は全世界で多方面に発生している。

領土問題はどうでも良い中国
 漁船の違法操業を武力で合法化するのが中国のやりかたなのは南シナ海の事例を見れば明らか。特に相手の「経済水域」なんてのは認めないよってのは、操業が出来れば根こそぎ漁業資源を取っていくのが最優先である証拠。
 中国は日本に向けても「沖ノ鳥島は岩礁であり、人が住んでいないので排他的経済水域は存在しない」と主張している。実は特に領土問題なんかに中国は関心が無いのだ。いや、資源採掘は技術的にも困難でコスト高になるので将来の木技術開発を見据えて二の次と言うのが正しいか。
 先に上げた中国の漁業生産高を賄うためにはアジアの海域で乱獲するしか無い。かつての日本は南氷洋までクジラを追って出て行った。これを可能にする経済力が当時の日本にはあった。現在の中国では遠く世界の海域に出て行くだけの経済力は無い。当面南シナ海、東シナ海と太平洋西方で中国の漁獲活動が先鋭化してくる。
 例えば東シナ海は日本の中東からの石油輸入の重要航路だありシーレーンと呼ばれているが、ここでの中国の根こそぎ持っていく漁業でカツオは壊滅的被害を受けている。日本は1本釣りで成魚しか捕獲しないが中国は根こそぎ捕ってしまう。このため南からの回遊魚であるカツオが日本にまで到達しなくなってきた。
 目に見えたシーレーンだけでは無く、その海域の漁業資源にも目を配る必要がある。その点を忘れてはならない。
 ガス田だ、日本海の地下資源だと言っている間に、実は漁業資源が既に中国によって押えられているのだ。
 中国の漁船の違法操業は拡大する国内の需要を賄うためで、食料問題でもある。食料資源の確保が中国の短期的課題であることは、中国が外国で農地を買い占める動きからも察することが出来る。なんせ13億人、世界の人口の2割を占める中国の人口をまかなう食料資源問題は根が深いのだ。
 領土問題を棚上げにしたいのは日本の弱腰外交だが、それに乗じて実質的に食料資源を入手しておきたい中国の思惑とも合致している。だから、中国は日本の主張と平行線を何時までも演出しているのだ。
 漁業資源の入手の経済問題と領土侵略の国防問題。両睨みでなければ今回の中国漁船による尖閣諸島での領海侵犯には対処できない。

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2010.10.06 Mint