日本の領土問題解決は政治主導の最たるテーマ

前原外務大臣は慎重さが足りない
 中国漁船の尖閣諸島での海上保安庁艦船との接触(衝突)事件は何も教訓を残さずにうやむやに終わった。しかし、ボタンの掛け違えが何処にあったのか民主党は反省会を開いておかないと同じ事がまた繰り返される。
 駐中大使の人選で外務官僚の反発を買い協力が得られない現状では政治主導にならざるを得ないが、あまりにも外交下手で今回の混乱を自ら招いたのだから。
 前原外務大臣の発言がボタンの掛け違えだろう。
「国内法で粛々と対処する」
 尖閣諸島問題は、日中平和友好条約の締結に向けて当時の副首相ケ小平氏の「尖閣諸島問題は棚上げにして次世代の知恵に任せよう」との提案に日本はこれ幸いと乗った経緯がある。その経緯を踏まえての発言が必要なのだが、前原外務大臣は「国内法」と中国との暗黙の約束を反故にしてしまった。
 また「領土問題は存在しない」は明らかに間違った発言で、未解決の領土問題が存在しているのだ。
 尖閣諸島に関する外務省の公式見解は1895年の下関条約で戦勝国の日本が台湾の割譲を受けた時(4月)の3ヶ月前の1月に内閣決定で尖閣諸島を沖縄県に編入したので戦後台湾が返還された時にも尖閣諸島は沖縄の一部として米軍統治下にあり、1972年に統治権が返還されたとのものだ。
 また、どのような下工作があったのか不明だが前原外務大臣はアメリカでクリントン氏から「尖閣諸島は日米安保の適用範囲」の言質を得ている。これを外交カードに使おうとしたのだろうが、居残り組みの仙谷官房長官の対応が稚拙過ぎた。しかし、中国を刺激したのは後にも先にも前原外務大臣の「国内法によって粛々と」だったのだ。
 「船舶の停船を求めたのに体当たりしてきたので逮捕した」で良かったのだ。
 また、領土問題は自民党の置きみやげとして尖閣諸島には存在する。これを忘れているのか不勉強なのか、対応が後手に回る根本的問題であった。
 今回の尖閣諸島での漁船衝突と船長逮捕における政治主導はリーダたる政治家が不勉強では道を誤るとの反面教師だ。

領土は戦争によって動く
 1895年の下関条約は日清戦争の戦後処理である。この時に日本は台湾の割譲を受け台湾府を作り日本領とした。その前に尖閣諸島を沖縄県に編入している。そして日清戦争を経て1945年に日本は太平洋戦争において連合国(アメリカ、イギリス、ソ連、中華民国(国民党政府)、フランス等)に負ける。
 ここで領土の線引きがまた行われる。それが日本では未解決の領土問題として北方領土、尖閣諸島、竹島そして沖ノ鳥島問題として残された。しかし、中国は2002年に中華人民共和国領海法を制定し大陸棚はそれに繋がる国のものと一方的に宣言してしまう。これに時の小泉純一郎総理は抗議はしたが強硬な外交問題には発展させず日本は黙認してしまった。
 つまり、先の太平洋戦争の戦後処理によって領土はリセットされたと考えるべきだろう。今回、メドベージェフ大統領が北方領土の視察に行くと言い出して、前原外務大臣が駐日ロシア大使館員を呼びつけて抗議しているが、これでますますメドベージェフ大統領は意地になって北方領土を訪問するだろう。
 敗戦当時の日本領土の処理については敗戦国である日本は蚊帳の外で、北海道の分割を求めてきたスターリンに対してトルーマン大統領は樺太と千島(現在の北方4島を含む)をソ連に与える妥協案を持ち出したのだ。また、アメリカは中国(国民党政府)に満州と台湾を返還している。この時に沖縄とベトナムもどうかと打診したとの都市伝説があるが蒋介石氏は何故か不要と断ったそうである。これが実現していれば後のベトナム戦争は無かったかもしれず、ま、歴史にiFは禁物なのだが。
 カイロ会談やヤルタ会談で話し合われたのは戦前の日本の領土の分割であり、これは繰り返すが敗戦国の日本には関与の余地が無かった。つまり、1895年の条約を盾に「昔から日本の領土」なんて言うのは国際感覚の無さで、本来領土は戦争の結果に起因するのだから、1945年および1952年のサンフランシスコ条約に起因しなければならない。

実効支配が世界の常識
 日本にとっては有利な面と不利な面があるが、世界の領土問題は実効支配している国のものが基本。そのために中国は漁民を先兵に無人島に避難所を作り、これを恒久施設にして警備隊を常駐させて実効支配を重ねてきた。南沙諸島では着々と実効支配を行って領土拡大(確保)をはかっている。
 今回の尖閣諸島については、日本の設置した灯台があるので実効支配は日本側にあると言えるだろう。中国側も暗に日本の実効支配を認めている。中国が尖閣諸島に強行上陸すると国際社会を敵に回すと知っている。ただ、この実効支配の論理で行くと竹島や北方領土は韓国やロシアが実効支配しているので日本の領土とは言い難い。また、沖ノ鳥島については無人観測機材があるが人が住んで経済活動を行っていないので周辺海域の日本の経済水域論は難しい局面になる。
 領土は戦争か外交によって動くものだが、この外交に武力行使ってカードの無い日本では領土問題を進展させるのは唯一世界の常識である実効支配の論理である。
 領土問題を解決しようとしたら、この点で棲み分けるしか無いだろう。その意味で今回のクリントン氏の「尖閣諸島は日米安保の対象地域」の言質を取ったのは大きかった。しかし、実際には両国の外務大臣と防衛大臣相当の会談である「2プラス2会議」で「島嶼問題」は日本が対応するとの役割分担になっている。
 尖閣諸島を中国が占領し沖縄に侵攻して来ればアメリカも動くだろうが、尖閣諸島だけでは自衛隊の担当になる。あり得ない仮定だが、かりに中国が尖閣諸島を占領したら、それは中国の実効支配であり、もはや日本領では無いのだから日米安保の対象外となる。それが外交だ。
 クリントン氏の発言はアメリカが日本を守ってくれると言ったとは解釈しないことだ。あくまで外交のカードの1枚と考えておくべきだろう。
 結局、日本の領土問題を解決するのは2勝2敗、尖閣諸島と沖ノ鳥島で勝利、竹島と北方領土で負け、これしか選択肢が無いのではないか。そのビジョンによって政治主導で動かない限りまたまた政治の不作為によって次世代に置きみやげを残すことになる。
 政治主導とは決断し結果責任を負うこと。その意味では前原外務大臣は国民に借りを作ったことになる。電子メール事件と今回の尖閣諸島問題で借りは2つになった。

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2010.10.12 Mint