尖閣衝突ビデオは大臣の情報管理手法の誤り

尖閣衝突ビデオは操作ミスで「流出」?
 海上保安庁の石垣で編集され公開された衝突画像は控訴資料と言うより教育用の色彩が強かった。このため当初は極秘ではなく、尖閣諸島で起こった事実として教材用に編集し伝達された。石垣(沖縄)→本部(東京)→海上保安大学校(広島呉)と流れる間に控訴資料の意味合いが薄れ映像を見た者が公開のフォルダーの保存することになった。
 内容は衝突状況の解析を大学校に依頼するものだと言うが、入れられたホルダーが資格認定等の研修情報のホルダーだったのは資料の性格がそのようだったからだろう。申し送りが明確で無く公開フォルダーに保存された。そのため、端的に言えば海上保安庁職員であれば誰でも閲覧やダウンロードが出来た。
その情報がサーバーから巡視船の共有パソコンにダウンロードされ、もはや情報管理を徹底するには遅くコピーまでは手が出ない状況になっていた。10月の中旬に馬淵大臣から情報管理を徹底するようにと指示が出たが、後の祭りでコピーは一人歩きし、保安官の私物パソコンに保管されていた。
 当時の国土交通省大臣は前原誠司氏だが、一部の報道では海上保安庁は前原誠司氏にお伺いを立てて前原誠司氏が了承したので逮捕に踏み切ったとの説がある。これは菅改造内閣で外務大臣にスライドした前原誠司氏がその後ワシントンで前内閣で国交相だった時期に「逮捕はおれが決めた」と周辺に語ったとの情報に起因している。
ま、実際にどうかは解らないが、格好付けの好きな前原誠司氏のはったりかもしれない。現場で公務執行妨害で逮捕するのは現行犯であり現場の判断だ。いちいち逮捕して良いかとお伺いを立てるのは政治的謀略であり、そのような判断を問われたら、田中真紀子元外相のように「ミサイルでも飛んできたらどうするの。さっさと国外追放しなさい」となるであろうから。
 ただ、後述するが、前原誠司氏が指示した可能性は無いとは言えない。

時系列に事件を追ってみると
 事件が起きたのが9月8日、9月24日が沖縄地検による船長釈放、10月18日が馬淵国交省大臣によるビデオ映像の厳重管理通達。しかも、この通達は第11管区海上保安本部(沖縄)、本庁関連部署、映像を撮影した石垣海上保安部に限定されており、今回の神戸には連絡もされていなかった。
 裏の動きだが、中国の劉洪才・駐北朝鮮大使が極秘裏に9月12-15日まで日本を訪れている。この時接触したのは後に「首相特使」として中国に派遣される細野豪志前幹事長代理である。細野豪志氏は2005年12月に民主党代表だった前原誠司氏の中国訪問に同行して中国側とパイプを作っていた。今回はフジタの社員の釈放に向けてメッセージを届けたと思われる。
 また、フジタの社員拘束が外交ルートから日本に伝えられてのは9月23日である。(拘束されたのは9月20日)。
 9月22日に来日予定だった李郡氏から連絡があり細野豪志氏が訪中した。
 これ以外に電話による連絡も飛び交ったであろう。
表にまとめると以下のようになる。
日 付事 象
9/1民主党代表選挙公示
9/8尖閣諸島で中国漁船船長逮捕
9/12-15劉洪才・駐北朝鮮大使が訪日
9/19中国人船長の拘留延長を決定
9/20(23)フジタ社員拘束
9/12-15劉洪才・駐北朝鮮大使が訪日
9/14臨時党大会
9/17菅改造内閣成立
9/23前原誠司外相がクリントン国務長官と会談
9/24中国漁船船長処分保留で釈放
9/29細野豪志氏が北京入り
9/29細野豪志氏が戴秉国・国務委員と会談
9/30フジタ社員4名中3名を釈放
10/18映像管理の徹底を馬淵大臣が指示

 これを見ると9月19日までは検察も政府も「国内法にのっとり処罰」の方向であったことが解る。また、ビデオの非公開は9月12日の劉洪才・駐北朝鮮大使の訪日時に依頼(強制)されたと考えるのが合理的だ。
 中国は国内と国際の2枚舌で、尖閣諸島は中国領、故に中国人船長の逮捕は不当行為と国内向けに宣伝している。それを打ち破る現場で撮影された証拠の公開は望ましくない。公開するにしても中国側に有利な編集を依頼したのだろう。
 この後、前原誠司氏と仙谷由人官房長官の意思の疎通がおかしくなり現場が混乱する。但し、この時点で前原誠司氏は外務大臣にスライドしていて、実際には馬淵国土交通省大臣の案件である。
 そして、実質的な「超法規的対応」で9月24日に中国人船長は釈放される。
 ポイントは何処にあるか。それは船長逮捕と同時に証拠の保全の徹底がなされなかった事である。先の表を見ると民主党は党の代表選挙の真っ最中で各大臣は選挙にしか関心が無い時期だった。また、菅直人氏は苦戦を報じられていた(現実に国会議員票では薄氷を踏むことになる)。
 先の「都市伝説」の前原誠司氏が「逮捕はおれが決めた」のなら、この時期に中国との関係を悪くした方が自陣に有利と考えた。つまり、小沢一郎氏は親中国派で、その中国の悪事を暴けば自陣に有利と考えた。だから「逮捕はおれが決めた」のなら前原誠司氏は公を私物化する誤りを犯したことになる。それを承知でワシントンで「俺が決めた」と言ったなら大した度胸か政治音痴だろう。
 とにもかくにも政治空白の期間であったことが混乱の一義的な理由になるだろう。
 そして、ビデオ映像が対中国外交のカードであることの周知が行われず、現場で安易に教育用に編集されたのは、本人が逮捕を指示したかどうか別にしても、情報管理の徹底を事前に指示しなかった前原誠司氏の責任だろう。

現行の法律は情報化社会に対応していない
 現行の法律は盗みを「物」を前提に考えている。国家公務員法の100条では守秘義務について「職員は、職務上知ることのできた秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後といえども同様とする」となっているが、今回の尖閣諸島衝突ビデオがこれに該当するかは難しい。
 海上保安庁がその活動を動画で配信するのは日常行われており、実写の海難救助映像なんかが救出者の顔が解る状況で公開されている。
最高裁判決でも「秘密」は組織が決めるものでは無く、現在非公開なものに限られる。海上保安庁の活動を記録したビデオが守秘義務対象であるとの教育は当時はなされていなかった。
 「物」と「情報」の違いは「物」は盗めばその場所から無くなるが「情報」はコピーされて原本は残る。故に「所有権の移転」の概念が起こりにくい。また、「情報」は不可逆であり、元の持ち主に戻れば持ち主の権利が回復するものでも無い。
 つまり、法律で守られた「物」と性格を異にする「情報」について、これを法律で守られた「物」と同等に扱うには、それなりの教育が必要になる。
 情報リテラシー教育の中には著作権法の遵守の教育もあるが、現行の法律で対応可能では無い部分を倫理観等で教育しなければ今後も同様の事件が起きるだろう。
 アメリカでは公務員が職務上製作した「情報」には著作権は無いと定義されている。故にアメリカでは秘密の管理が徹底されている。
 法律の整備以前に情報管理の徹底を教育する責任が幹部にはある。そして、それが徹底してなかったのだから責任を取らざるを得ないだろう。

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2010.11.16 Mint