尖閣ビデオ非公開の説明責任は果たされるのか

非公開の説明責任は菅直人内閣にある
 9月24日に中国漁船の船長を処分保留で釈放した時点で尖閣諸島でのビデオは裁判の証拠と言えなくなった。裁判そのものが放棄されたのだから。まさか、中国漁船の船長を再度呼びつけて控訴するつもりでしたなどと言えないだろう。
 それから1ヶ月の間、国会で公開を求められても「裁判の証拠品は開示できない」の判を押した答弁で逃げ続けた。そして11月1日になって再編集した尖閣ビデオを「裁判の証拠品では無いので」国会議員に公開した。
 非公開とは情報を隠蔽することである。つまり、情報開示が民主主義の基本であるにも係わらず、本来の情報開示を行わなかったのだから、何らかの意図が存在した。その意図を説明するのが民主主義だろう。
 かねてから言われている「説明責任」だ。小沢一郎氏の政治資金誤記載に「間違った!」以上の説明責任を求めるよりも、民主主義の基本を越えて情報を「国家が」隠匿した意図は国民に説明されなければならない。
 ここに来て国会で与野党の合意があれば尖閣ビデオを見せても良いなどと言い出しているが、基本は尖閣ビデオを見る見ないでは無く、何故、あの時点で非公開にしたかの説明だ。sengoku38氏がyou-tubeに公開したとか、何処から入手したかは捜査の問題でしかない。政治の問題はあくまで「何故、国民の知る権利を遮ったのか」の1点に絞り込まれる。
 具体的には中国との間に尖閣ビデオの非公開の密約があったのか無かったのか。説明次第では菅直人内閣は吹っ飛ぶ。まさに民主主義国家として政府が行ってはいけない情報隠蔽の選択をしたのではないか。この国民の疑惑が内閣支持率に表れている。
 菅直人内閣は国家を託すに値する内閣なのか、国民はそれを知りたがっている。

公務員の反逆は過去にもあった
 「国家公務員が自ら知り得たことを個人の判断で公にしては国家が立ち行かない」とは菅直人内閣の閣僚の発言だが、過去にも義憤にかられて情報を公開したりマスコミにリークした事件は沢山ある。
 近くは大阪地検特捜部のフロッピーのタイムスタンプ改竄は内部告発的な女性検事の朝日新聞へのリークであった。厳密には朝日新聞の特ダネと捕らえられるが、内部告発が発端なのは間違い無い。もっとも、改竄には村木氏も気がつき弁護士も指摘していたのだが、大事になったのは朝日新聞の特ダネによる。
 元大阪高検公安部長 三井環氏による著書「検察の大罪 裏金隠しが生んだ政権との黒い癒着」も同じだ。内部告発をしようとしたら仲間に逮捕されてしまった。しかも鳥越俊太郎氏との接触を阻止するために逮捕する前代未聞の組織ぐるみの犯罪だ。
 昨今話題になった野中広務氏が語った官房機密費が評論家に流れていた件も、その10年も前に情報の出所は不明だがフォーカスが「極秘メモ流出! 内閣官房機密費をもらった政治評論家の名前」が公開されている。これも内部告発に近い守秘義務(この場合は情報漏洩者が国家公務員とは考えにくいが)違反だろう。ちなみに、この時に記載されたのは
竹村 健一 200万円
藤原 弘達 200万円
田原総一朗 100万円
俵 孝太郎 100万円
細川隆一郎 200万円
早坂 茂三 200万円
三宅 久之 200万円
であるが、この中の誰も虚偽記載でフォーカスを訴えてはいない。田原総一郎氏も「この時は」受け取っていたらしい。
 最近、北海道開拓時代に活躍し札幌ビールの祖と言われる村橋久成(故人のため敬称略)を海上保安庁の職員になぞられて解説している記事を目にした。彼は黒田清隆のもとで北海道開拓使でビールや紡績等の事業を担当し成功させたが北海道開拓使の解散と事業の民間への格安払い下げ疑惑を指摘して北海道開拓使を去った。以後、行方不明となり15年後に路上で倒れているところを保護されて3日後に無くなった。
 国家も誤ることがある。その時に誤りを正す義憤に長けた人は過去にも沢山いたのだ。そのことにより国民は知ることが出来、不正を正す世論も形成されるのだ。
 今回の尖閣諸島での事件は確実に初期段階で国家が対応を誤ったのだ。反論があるなら政府は説明責任を果すべきだ。「裁判の証拠は公開出来ない」なんて人を喰ったような説明を国民は納得していないのだから政府は説明責任を果していないと言える。

説明責任不備が内部統制も壊した
 情報を漏洩したsengoku38氏の説明責任は果たされていると思う。国民に隠す理由が無くなったのが最大の要因だろう。尖閣ビデオを保持したのは事件から数日以内の事で、この時点では裁判資料であり守秘義務が課せられるものであった。
 しかし、政府は船長が釈放され実質裁判は放棄されたにも係わらず尖閣ビデオの公開を行わない。また、その理由の説明もなされない。
 加えて10月中旬に馬淵国交省大臣から情報管理の厳命を指示される(もっとも、海上保安庁の石垣と沖縄にしか通達されなかったが、sengoku38氏がこれを伝え聞くことはあったと思われる)。これは、ますます情報を隠匿する政府の方針が強くなったと現場に思わせた。
 そして11月1日の一部国会議員への公開である。この時点で尖閣で撮影された映像がどのようなものであっったかは公知になった。一部のマスコミはCGまで作って説明した(このCGがyou-tubeの画像と驚くほど合致していたのは、まさに一部の国会議員からの情報で真実が明らかになった証左だろう)。もはや、秘密の情報でも何でも無い。あとは情報を裏付ける実写だけが隠匿されている状態だった。
 「実写もあるでよぉ」てな感じで2ヶ月近く前に入手した尖閣ビデオがyou-tubeにアップされた。
 sengoku38氏が「国民から永久に隠される」と危惧したのも菅直人内閣の対応の稚拙さだ。永久に隠し通せるものでは無い。現場で多くの海猿が目撃しているのだから。
 では、どのタイミングで公開すべきであったか。APECに尖閣ビデオの公開に中国が抗議して参加しなかったら日本が恥をかくと仙谷由人官房長官は考えていたふしがある(丸山和也参議院議員の電話での会話暴露から推測される)のでAPEC後と考えたかもしれない。実際に国会議員への公開はAPEC後であった。
 でも、これは真逆だろう。
 領有権を主張して海上保安庁の船舶に体当たりしてきた事実を公開したことにより、中国が胡錦濤国家主席のAPEC出席を蹴ったら、恥をかくのは中国だ。漁船の体当たりと国政は違う。それを同一視したら中国は国際感覚の無い国(実際に無いが)として恥をかく。
 中国漁船の船長を釈放した時に公開すべきであった。これは国民が「犯罪者を釈放した」と騒ぐと懸念して行わなかった。ここも説明責任を回避して物事をうやむやにした。
 結局「現場の対応は適切であったが、日中関係を考慮して超法的立場から指揮権を発動した」と公表し、その結果責任を取る。その根性が無かったのだろう。
 そもそも、自らの保身にあけくれ、国家を担う根性の無い人間が今の政権の中枢に多く居るってこと。これは菅直人総理の言う「最小不幸社会」では無く「国民の最大不幸」だ。

button  尖閣衝突ビデオは大臣の情報管理手法の誤り
button  尖閣諸島ビデオ公開は司法に詳しい者の犯行か?

2010.11.18 Mint