原子力平和利用のプリンシプルを再確立すべき

エネルギー自給率4%
 原発再稼働に向けて反対意見が多いが、その内容は非常に心情的で「合理的で民主的で経済的」な論調は少ない。
 1)「核は人類には制御不能だ」
 完全な敗北主義だ。人類は手に入れた核エネルギー利用を試行錯誤しながら進めてきた。決して核エネルギー利用を手放したりはしない。仮に現在は制御不能であったも、それを制御可能にするのが人類の英知だ。
 2)「自然エネルギー利用で脱原発すべき」
 タイトルのように日本のエネルギー自給率は4%しか無い。今後とも化石燃料の輸入に頼らざるを得ない。自然エネルギーの利用は不安定で精密加工の制御を前提にするとその安定性には多大な無理がある。自然エネルギー利用が拡大すれば、それに伴って新たな問題が発生する。例えばメガソーラは20%弱が電力になるが残りの80%は熱になる。今後各地に出来るとヒートアイランド現象を広める元凶となる。
 3)「核廃棄物を10万年も管理することは出来ない」
 まぁ、出来ないだろうなぁ(笑い)。しかし、10万年先の人類の科学技術はいかなるものだろうか。少なくとも現在の原子力原始時代と同じってことはありえない。1000年前の縄文時代に「土器は焼けても鉄を溶かすことは出来ない」と言っているのと同じ論調で非科学的だ。
 科学評論家の松浦晋也氏がPc-Onlineに連載している「原子力発電を考える」の最終回で述べているように、原子力発電のプリンシプルを確立しないまま前例至上主義で進めてきた原子力政策(原子力戦略)が結果として「原子力ムラ」を生み、危険を放置したまま原子力発電所を運転し、福島第一原発の事故に繋がった。
 今一度、原子力発電のプリンシプルとは何かを考えてみたい。

世界情勢はトリウム原発へ
 トリウム原発に否定的な意見が多い。上記の「敗北主義」的な「出来る訳が無い」が圧倒的で、トリウム原発の研究者である故古川和男の本を読んでいるとは思えない。トリウム原発は1960年代にアメリカで安全に数年稼働した実績があるのだ。アメリカ政府の政治的理由で研究を止めてしまったが、技術確立は既になされている。このあたりを知らないで「出来る訳が無い」の筆頭が小出裕章氏なのだが、既に動いた実績が有るのも知らないのだろうか。
 世界の情勢は「フクシマ」の経験からトリウム原発に向かっている。
 ウラン原発は戦略核としてのプルトニウムを生み出す転換炉で、たまたま発電も出来ますって程度だ。だから核分裂反応したエネルギーの30%を電力として取り出し、残り70%は熱エネルギーとして自然界に捨てている。それはプルトニウムを得る手段だから。だから、現在のウラン原発は地球温暖化を推進している。
 そのトリウム原発の研究を急ピッチで進めているのが中国だ。しかも、アメリカの全面的技術供与を受けている。国立オークリッジ研究所は中国技術者を受け入れている。2012年11月には上海で「トリウムエネルギー会議」が開かれ、世界中のトリウム原発研究者が集まった。
 アメリカが中国のトリウム原発開発を支援するのは中国がプルトニウムを得ることが中国の核戦略に繋がることと、オバマ大統領の核廃絶には、これ以上ウラン原発を増やしては実現しないとの思惑からだ。今後、世界のエネルギー需要は拡大こそすれ減ることは無い。しかもその主力は電力だ。手軽に発電所が設置出来る(少なくとも水力ダム発電とかと比べて。火発は最も手軽だが燃料代がかさむ)原子力発電が主流になるだろう。その時にウラン原発だと世界各国がプルトニウムを持つことになる。それを防ぐのにトリウム原発は最適なのだ。強いガンマー線を出すので所在、運転状況が把握しやすい。プルトニウムはほとんど出ない。加えて、余っているプルトニウムを燃やす(核種変換)することも出来る。
 中国以外にインドとロシアがトリウム原発研究に熱心だ。日本にもトリウム原発推進の研究はあるが、政府が積極的に支援はしてはいない。


アメリカの国益
 アメリカが中国と組んで次世代のトリウム原発の実用化を進めるのは何故か。
実はアメリカは産軍複合化の「原子力ムラ」(軍事を含むところが日本と違う)が強力で、アメリカが世界の警察たるために他国が核廃絶しても自国は核兵器を持ち続ける国民い意識が強い。
 であれば、日本の「フクシマ」を例示して世界に、特に日本にウラン原子炉を廃炉させ、核の脅威を縮小する(その口車に乗ったのがドイツのメルケル首相な訳だ)。その替わりに、中国にトリウム原発を実用化させ世界のウラン原発をリプレースする。それがアメリカの国益nに繋がる。
 70歳代の人は経験で知っていると思うが、アメリカがトランジスタ技術を法外なロイヤリティと引き替えに日本に技術供与した歴史がある。その後、日本はトランジスタ王国を築いて世界に出て行く。その間にアメリカは日本のビジコンが持ち込んだ電卓用IC回路を応用してintel 4004を実用化して世界のintelを構築した。
 つまり、アメリカの基礎研究は得意だが応用研究が不得意な産業構造を外国を利用して実用化していくのがアメリカのビジネスモデルなのだ。これはアメリカも日本も経験済みだ。
 実用化に向けて試行錯誤を繰り返す研究はアメリカの研究室にはそぐわない。だから、コツコツと試行錯誤が好きな国民性の国に技術供与して実用化させる。ま、中国がまじめに試行錯誤する国民性だとは思わないが。
 世界の警察を今後とも続けるために、日本は「廃炉のモデル」、中国は「トリウム原発のモデル」にするのがアメリカの思惑な訳だ。

日本の国益
 日本は「廃炉のモデル」ってスケープゴートにされていて良いのか?
 アメリカはトリウム原発では中国と組むのは事実だが、アメリカ側の窓口はウエスティングハウス(WH)だ。ウエスティングハウスは現在日本の企業である東芝傘下にある。
 トリウム原発に一番近いウエスティングハウス社は日本の保有する海外企業な訳で、日本が官民共同で世界に通用するトリウム原発を実用化する選択肢は残されている。
 日本のトリウム原発には苦い経験がある。アメリカが高速増殖炉が技術的に実用化困難と投げ出した時に、官僚が当時のカーター大統領に直談判に行った。カータ大統領は軍で原子力潜水艦の技術者だったので原子炉に(菅直人よりも)詳しく、「日本はトリウム原発をやったらどうだ」と逆提案してきた。日本の官僚はトリウム原発がなんたるかを知らなかったので、国に帰って「とてつもない研究開発を提案された」と報告した。実はカーター大統領は日本に国立オークリッジ研究所で実証実験した結果を渡す用意があたと言われている。
 日本国内が説得できないのなら、海外でトリウム原発の実用化に参画すべきだ。原子力の平和利用のプリンシプルには石原慎太郎氏が言うような「日本もプルトニウム持って原爆作るんだ」なんて思想は通用しない。
 トリウム原発の実用化こそが原子力の平和利用だ。
 産業構造の変革が成長戦略の一翼とすれば、7000億円とも言われる原発の安全宣伝費をトリウム原発に活路を見いだすのが大和魂と広報するのに使ったらよい。
 何故、日本の原発は原子力平和利用のプリンシプルを失ったのか。それは、先の松浦晋也氏の報告に詳しい。

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2013.10.25 Mint