iSiLへの攻撃は織田信長戦略の兵糧攻め

地上軍は出せないテロとの戦い
 国と国の戦争なら、首都陥落をもって停戦となるが、テロとの戦いでは国家そのものが存在せず、よって首都も存在しない。だから停戦に持ち込む方法が無い。
地上軍を出して掃討作戦を実行しても相手は国境線の概念を無視した集団なので何処までも後退して果てが無い。最前線だけ守っていても後方でテロ攻撃を仕掛けてくるのでどんなに地上軍が頑張っても戦争終結への道は構築できない。
 アメリカを筆頭に有志軍は地上兵力の投入を渋っている。戦略的にコストパフォーマンスが悪いのだ。逆に引くに引けない状況を作って自国軍が底なし沼に落ち込むような状況になるかもしれない。地上軍投入は戦略としては愚策である。
 フランスのパリでのテロ事件を千載一遇のチャンスとみてロシアのプーチン大統領はフランスを「同盟国」と呼んで有志軍の仲間入りを果たしたが、トルコ軍に「国境を侵略した」とロシア機を2機撃墜されるに至って対応が微妙になった。
 プーチン大統領の演説で面白かったのは「我々は同盟国と思っていた国から、後ろから撃たれた」って部分で、一般的に航空戦ではドッグファイトと呼ばれる相手の後ろに回って攻撃する。だから文字通り「後ろから撃たれた」のだが。
 ロシアの公開する空爆の映像はどれもこれも石油施設への戦略的爆撃で、兵器を狙ったものでは無い。もっとも、地上軍の投入を考えていないので戦車や自走砲程度の武器を破壊する必要は無い。
 ロシアのプーチン大統領の戦略は「兵糧攻め」である。iSiLは支配地域からの税金収入と石油の密輸を主な財源としている。その額は月額100億円と推定される。その半分が石油の密輸収入だ。では、誰がこの密輸石油を買っているのか。定かにされていないがロシアの調査によるとNATO加盟国の複数の国がiSiLから石油を買っている。プーチン大統領はトルコを名指ししたが、それ以外にもiSiLを財政的に支える国が見方の中に居るのだ。

金の切れ間が縁の切れ目
 iSiLは多くの傭兵で成り立っている。傭兵は1円でも高い給料をくれた側に付いて戦う。iSiLの潤沢な財政はそれ自体iSiLの勢力拡大の元になっている。
 少数の軍勢で効果的に相手を堕とすのは織田信長から豊臣秀吉に引き継がれた「兵糧攻め」が城攻めの鉄則である。相手の規模が大きければ大きいほど兵糧攻めの効果があらわれるのは早い。
 ロシアのプーチン大統領が「兵糧攻め」に成功するには、仲間を裏切りiSiLに兵糧を与える国家や企業を排除しなければならない。そのやり玉に挙げられてのがトルコだが、まだ、他に「兵糧攻め破り」の国や団体が居るようだ。
 地上軍を出さないと決めたのなら、相手を壊滅するには兵糧攻めしか選択肢が無い。それを徹底的に行うのが唯一紛争終結に向けての道だ。その意味では国際的に一致団結して兵糧攻めをしなければ、どこかが抜け駆けしてiSiLに財産が環流しては成り立たない。
 国際社会がこの一点で共同歩調を取れるかどうかが、紛争終結に向けてのキーになる。それを仕切ることが出来るのがアメリカのオバマ大統領では無くて、ロシアのプーチン大統領なのだろう。何故ならロシアはエネルギー安全保障が確立しており、ドイツやフランスのようにエネルギー危機を恐れる必要は無い。まして、密輸原油を買う必要性も無い。
 アメリカはユダヤ勢力が足かせになって中東問題では思い切った政策を打ち出せないからリーダシップは発揮できない。
 「ここはプーチンに任せて見るか」って国際社会の合意が形成されれば以外と紛争の終焉は近いかもしれない。


イスラムはイスラムで解決させる
 あくまでテロ行為を働くiSiL壊滅に向けての有志軍の参戦であって、シリアをこれからどうするかはシリア、広くはイスラムの国々が考えることだろう。逆に先進国が代理戦争を助長するような行為は慎むべきだろう。
 アサド政権の是非については武器弾薬の供給では無くて国と国の外交の範疇に留め、シリアの国内問題には介入しないことだ。
 民族、宗派を同じくするもの同士で別途独立国を作るなら国連が支援すれば良い。そもそも、第一次大戦以降に先進国の植民地支配の都合だけで引いた国境線は壊滅している。これにイスラエルがからんでくるから更に事態は複雑になっている。
 内戦の原因の多くは民族、宗派が違う人々を同じ国家に括ったからだ。自然に国家が生まれてきて国境線が確定する歴史を人為的に、しかも植民地支配を目的に他国が行ったことが長く紛争が続いた根本的原因だ。
 アラブの春もアメリカの後ろ盾を利用できる国で成功したもので、全域に文化として浸透した訳では無い。
 まずは「兵糧攻め」でiSiLの封じ込めで事態の終焉を計り、後は時間を掛けて国境線をどう引き直すか考えるのが最良の選択だろう。今の国境線のままでは起きなくても良い紛争が更に再燃する。
 西欧諸国の他国統治が招いた事態の後始末は西欧諸国が積極的に行わなくてはいけない。その意味で戦争を防ぐ目的の国際連合が大局的な判断から国家間の調整機能を果たすにふさわしい事案だ。
 このリーダーシップはアメリカ、ロシア、日本のいずれかが担わなくては進まない。韓国出身の国連総裁では中東に疎く影響力も少ないので解決に向けてのリーダーシップを発揮できない。
 第二次大戦後70年。国連に求められる機能の第二幕が始まるか。

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2015/12/08
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