北海道新幹線で切り離された在来線
毎度のことだが、新幹線が開通すると並行する在来線はJRの管理を離れて地元の自治体が中心となって運営される路線になる。その採算性は悪く、結局、住民の税金が地方交付金も含めて投入される。
今回も「道南いさりび鉄道」として、木古内駅-五稜郭駅の間が切り離された。
この路線図を見た時に完全な盲腸線で、鉄路は狭軌(1067mm)で木古内から先は無い路線に見えた。また、地域路線の切り捨てかぁと思った。
しかし、一方の五稜郭駅に「ん?」と思わせるヒントがある。先に遅すぎた新幹線と書いたが、青函トンネルは新幹線の路線が敷設される前にも在来線規格の狭軌(1067mm)で運用されていた。「スーパー白鳥」が函館駅と青森駅を結んでいた。
また、青函トンネルはトンネル火災を防ぐために完全電化路線で重油タンクを保持するディーゼル機関は通行が出来ない。唯一、木造(可燃性)車両が通過したのはオリエント急行の車体のみである。この時は車両ごとに消火要員を配置した。
で、実は五稜郭駅にはJR貨物の操車場がある。北海道各地から集めたコンテナーを行先別に再編成し、なおかつ、北海道内での機関車であるDF-200(ディーゼル発電、電気機関車)を青函トンネルが通過できる電気機関車(EH-800)に付け替える操車場だ。
これは、青函トンネルが三条路線(1067mmの狭軌と新幹線の1435mmの標準軌の両立する三本の鉄路)が敷設されていて、JR貨物の狭軌の車両が通過する発着場が五稜郭駅および五稜郭操車場なのだ。
もしかして、JR貨物の路線維持? と思って、「道南いさりび鉄道」の収支計画を検索すると、まさに、JR貨物の利用料に、チョットだけ人間も運ぶねといった経営計画だった。
JR貨物の路線利用料が収入の根源な鉄道が道南いさりび鉄道の実態だ。
再度、鉄道の機能を考えてみるきっかけに
道南いさりび鉄道が何故「JR貨物直轄路線」とならなかったのだろうか。実は遅れてきた新幹線と民営化された国鉄の状況が解るストーリーだと思える。
投資は確かな将来ビジョンが読めてこそなのだが、今の日本経済の不透明性は将来を読めないから投資できないってジレンマがある。ま、その最たるものが本来ソニーが作るイノベーションであったiphonが製品化できなかった理由だろう。社内にリスクを進んで選ぶ社風が消えてしまった。日本企業は追いつく経営がビジネスモデルだったので追いつく目標を失った時に失速してしまった。
でも、今回の「道南いさりび鉄道」を調べてみると深慮遠謀って用語に行き着く。青函トンネルってインフラをどう生かすか。その答えが道南いさりび鉄道にあるような気がする。
典型的な地方切り捨てでは無くて、道南いさりび鉄道は物流の要であるJR貨物の生命線を担っている。ある意味、道南いさりび鉄道がJR貨物の走行を認めなければ北海道の物流は破綻する。ま、フェリーが担える規模かと言えばほとんど無理である。
そもそも、青函トンネルの1日の利用は人間を運ぶ新幹線が往復26本(内、東京まで20本)。これに対してJR貨物は51本(臨時便を含む)と倍に近い。
つまり、遅れてきた北海道新幹線以前に、青函トンネルは物流の幹線として旧来フェリー等で運んでいた物資(主に農産品)を運ぶ物流トンネルだったのだ。
また、信じられないが標準に24両編成のJR貨物は運転士が一人で運転する。フェリー等では個々のトラックに運転手がおり、同じ物量を運ぶのに人件費は少なくなる。
また、先に広島で長距離トラックの追突事故が起きたが、トラック運転手はなり手が無く、ドライバ数が絶対的に不足していて個々のドライバーにかかる負担は大きい。新聞を開いて長距離トラックの事故(物損も含む)が掲載されていない日は無い。
そこで、物流面から鉄道を見直してみる必要があるだろう。
よく言われる鉄道のメリットに「高速大量輸送」がある。これの前に「人間の」となったのが新幹線だ。現実に路線周辺に住民の少ない北海道では「物資の」と付ければ現在の青函トンネルの利用状況と合致する。
物流基幹線として全国でJR貨物の操車場を整備し、新幹線貨物車両を整備すれば、鉄道が蘇るのではないか。混在の貨客編成を考えるとより柔軟に運用できるかもしれない。
輸送トラックによる交通事故も大幅に減少するのでは無いか。これを進めるには汐留を手放したのは痛かった。都心の物流の拠点として再整備すれば長距離トラックは大幅に減らせただろう。
以後、物流新幹線を引き続き考えていきたい。