電化の遅れた北海道の鉄路
国鉄の分割民営化で一番割の合わないのがJR北海道とJR四国だった。共に利用人数が少なく、それに比べて鉄路が長く維持管理に多額の費用の掛かる路線を抱えていた。特にJR北海道は最後まで蒸気機関車(SL)が残ったことでも解るように、電化区間が少なく、ディーゼル車両による運行を余儀なくされた。国内のディーゼル特急は九州や西日本で活躍しているが、JR北海道のような長距離特急は少ない。そもそも長距離ニーズには新幹線がありディーゼル特急は限られた区間を走るのみである。それに比べて北海道では車両の走行距離が他の地域と比べて格段に長いのが特徴だ。
日本国内でも電車が主流で、その意味では電化が遅れたJR北海道はハンディを負う。電車車両に比べてディーゼル車は保守点検が複雑で特に可動部分であるエンジンは電車のモーターと比べて格段に整備費用や整備技術に高いものが要求される。各車両のディーゼルエンジンを液体変速機と同期させながら回転数を一定に保つ構造は、現在の電気とパワー半導体による各種センサーを生かした制御技術とは隔たりがあり、制御が容易では無い。
では、非電化区間の多いJR北海道はディーゼル車を今後とも使い続けなくてはならないのか。
実はアメリカに手本になるものがある。
アメリカ式の電気機関車だ。車内に発電機を搭載し、ここで電気を発電して駆動輪のモータを動かす車両だ。何故、こんな面倒なことをアメリカ鉄道はするのか、細かな速度の制御には電気駆動が向いており、低速で高トルク、高速で運転にはモータの並列連結や直列連結を切り替えて使える。
ディーゼルエンジンのような内燃機関は回転数に比例して出力が上がるが、モータは加えられた電力に応じて出力が上がる。つまり、発車時に変速機を必要としないのでメンテナンスが容易になる。また、電化路線では自らの発電を止めて受電し、非電化区間では自ら発電する。そんな用途で主に長距離貨物路線に投入されている。
本州と北海道を結ぶ青函トンネルは火気厳禁でディーゼル車はエンジン走行が出来ない。このため、夜行特急の「北斗星」は青函トンネル手前で電気機関車に接続を交代する。余談だが、現在唯一JRに残る「重連(気動車が2台以上で列車を運行する)」は北海道を走る時の「北斗星」だ。札幌、函館間はディーゼル機関車のDD51の重連で、青函トンネルは津軽海峡線専用の電気気動車のED79が、青森から上野まではEF81が牽引する。EF81は直流交流双方に対応できるので一気に上野駅までの走行が可能になっている。ちなみに、青函トンネルは青函ATCの保安制御を行っているので、これ専用のATCを装備した機関車しか走行が出来ない。このため、青函トンネル用車両を別途使うことになる。
発電車両の連結編成
北海道の小樽市に小さいけれど鉄道博物館がある。正確には「小樽市総合博物館」って名称なのだが、ここには国鉄時代の車両が屋外展示されている。その中に、当時の国鉄の電化事情が多様だったので給電した電力を変圧して使う電源車が展示されている。
ちなみに、これも余談だが、小樽市総合博物館で実車試乗が出来る蒸気機関車アイアンホース蒸気機関車は、マイケル・J・フォックスの映画「バック・ツゥ・ザフューチャV」に出てきたアイアンホースと同型のものだ。ただ、デモ走行用に重油ボイラーに変更されているが。
重油を焚いて発電機を回すのは効率が悪い。エネルギー変換効率は30%程度だ。だから、直接重油でディーゼルエンジンを回した方が良いとの意見もあるだろう。だが、安全を最優先にすれば非電化の路線でも電気で走る列車を開発するのが急務だ。それは安全対策としての責務でもある。
既にJR貨物では実用化している
DF200型がある。
車両編成を1両増やして電源車を接続する。これによって他の車両は電車としての整備を行えば良く、電源車は発電車としての整備を行えば良い。整備コストは確実に下がるし、整備技術も全国のJRと共有できる。しかも電気車両の整備はディーゼルエンジンに比べると容易だ。他社に整備を外注に出すことも可能になる。
現在の車両をこれからも使い続けるのはコスト面と技術面で限界がある。非電化だからディーゼル特急って概念を打ち破って、北海道ならではの非電化区間も走れる電気機関車を開発すべきだ。それで始めて130km運転が可能な車両を中古であれ他のJRから調達できる。
そもそも、現在の苗穂にある、乗務員訓練シミュレータは電車じゃないか。ディーゼル車特有の事故には対応できるシミュレータが無い現状で、既にディーゼル列車の安全性は確保できていないだろう。しかも、電車とディーゼル車への二重投資は経営を圧迫する。全て電車にする工夫を経営課題として考えるべきだろう。
幸いJRタワーによる営業利益が今はある。これを先行投資の財源として、北海道ならではの発電車両編成を組上げるのが責務だろう。
鉄路の生き残りはコストに耐えることも大切だが、イノベーションを起こして安全を確保するのも生き残り方策だ。湘南電車が電源車編成によって北の大地で走ることが可能になるのがイノベーションだ。
JR北海道の英断に期待する。