JR北海道は電気式ディーゼル機関車でイノベーション

JR貨物の宿命
 JR北海道の特急車両の炎上事故が絶えない。JR北海道特有の事情で1988年当時に製造されたディーゼル特急車両を高速運転(130km/h)で酷使せざるを得ない。
 ここはイノベーションを起こして国鉄本来の高速安全大量輸送にインフラを整備すべきだろう。
 実はJR貨物が既に車両更新を行っている。電化区間以外の所も走行しなくてはならないのと、青函トンネル開通以降、貨物輸送量が増大して、これへの対応に大出力ディーゼル機関車を必要としたのだが、液体式変速機が大出力ディーゼルエンジンに対応する技術開発が進まず、結局、アメリカ式に電気式ディーゼル機関車DF200型を1992年から導入している。
 それまではDD51を重連で使ってやりくりしてきたが、2名体制は効率が悪く、大量輸送に向けて専用機関車の導入に大きく舵を切った。
 1,800PS(馬力)のディーゼルエンジン2機を装備し、同様に2機の発電機を回し、320kwのモータ6機で6軸駆動で利用している。JR九州が運行開始予定の豪華寝台列車(クルーズトレイン)『ななつ星in九州』の牽引機としてJR九州仕様の本車両が利用され、DF200型による客車牽引も始まる。
 非電化区間が多いJR貨物としては大容量で操作(変速)が容易な機関車を必要としていたのと、半導体のパワーデバイス技術が向上したため、1950年代に蒸気機関車に変わる動力として開発されながら車体の重さに比して出力が少なく、やがて消滅した電気式ディーゼル機関車がJR貨物によって復活した。

一連のJR北海道の特急事故
日付場所名称乗客事故の概要型式
2011/5/27石勝線占冠おおぞら120名脱線車両全焼 
2011/6/6室蘭線長和北斗130名床下から白煙 
2012/9/21石勝線トマムおおぞら210名配線ショートで発火 
2013/4/8函館線八雲北斗 エンジン出火キハ183系
2013/5/5函館線茶志内カムイ60名車軸付近出火電車特急
2013/7/6函館線鷹ノ巣北斗200名エンジン出火キハ183系
2013/7/16上野幌おおぞら135名配電盤出火 
 キハ183系の同一エンジンを使用している車両は現在(2013/7/16)運行停止になっている。北海道のディーゼル特急の「北斗」と「さろべつ」合計10本が運休している。
 車両炎上事故の原因は様々言われているが、最初の大事故であった石勝線での列車炎上事故では、事故原因が運輸安全委員会から報告されたのが2013/5/31日で、これを受けて対策を立てるには遅すぎる報告であった。事故原因は当初言われていた部品の脱落では無く、車輪の踏面(とうめん)の擦り傷や剥離が進み、車輪が正しく円形を保てなかったために振動が増大し部品の脱落を招き列車炎上につながったとしている。
 つまり、偶発的な事故では無く車輪の踏面(線路と接する部分)の検査が正しく行われていれば防げた車両炎上、それも全焼の事故で、検査態勢の再構築が求められる。
当初事故後の誘導に問題があったとして事故時の対応を改善したが、検査ミスは俎上に乗らなかったため対策が遅れている。具体的な勧告に対する対策は今現在JR北海道のホームページで公表されていない。
 中間報告書がここにあるが、この時点では対策を勧告出来なかった。
 JR北海道の前身である国鉄時代の北海道地区の職員数は現在の倍の14,000人。適正だったかどうかは別にして当時の半分の人員で特急本数は倍増、なおかつスピードアップをはかっている。但し、営業路線長も半減しているが。
 民営化時の社員の年齢構成が不均衡で中堅の40代の社員は全体の9%しか居ない。逆に50代以上が30%以上を占める。車体の整備について言えば、電車と比べてディーゼル車両はマニュアル+経験の両方が必要で複雑であると言われている(鉄道アナリストの川島令三氏談)。経験者が高齢で退職し、技術層の中堅は人手不足、にもかかわらず車両はスピードアップで酷使されている。その悪循環を絶たなければ10年先のビジョンは描けない。
 今後、車両整備の検査技術は確実に低下する。JR北海道の安全対策の強化に技術力の向上を上げるが、いまさらディーゼル特急の整備技術を向上させても、所詮、消えていく技術であり車両なのだ。だから、車両を電気式ディーゼル機関車に更新し、JR貨物と共同で北海道版の電気式ディーゼル機関車の保守技術を確立するべきだろう。少ない40代の人材を将来の無い技術に投入するのは無理がある。


JR北海道ならではのイノベーション
 数年後の函館までの新幹線延長により、最後の区間として函館−札幌間の着工が予定される。しかし、今後札幌より北に新幹線が延びることは無いだろう。この段階で既に江差線の廃線バス転換が決まっている。また、新幹線の札幌延長時に函館本線の長万部、小樽間は廃止になる。
 この様な背景を受けて北海道の鉄路をどのように安全に運営していくか。それは高速なビジネスユースはもはや在来線では存在して行けないってことだ。在来線は通勤通学の足として大量輸送に特化していく必要がある。都市間高速特急は新幹線に取って変わられる。
 新幹線の無い地域は高速道路の整備が進み、都市間バスは多数走っている。高速道路や都市間バスは今後増えることはあっても減ることは無い。在来線での都市間輸送はその使命を失いつつある。
 であれば、速度競争は辞めるべきだ。鉄路も車両も速度に比例して消耗が激しい。単純に言えば速度の2乗に比例して機材は痛む。今回の一連の事故で以外と着目されていないが線路の安全性も落ちている故だと思われる。線路の消耗はデファレンシャル機構が無い列車の場合車輪の片減りを招く。車輪の特にヒンジ部分の片減りは安全性を大きく損なう。
 ビジネスユースは減っても観光には在来線が便利だ。これも貸切バスで都市間バスと同じになるかと言えば、実は観光バスでの長距離移動は窮屈で不便だ。高速道路は景色が良い場所はほとんどトンネル化しているので眺望を楽しめない。逆にJRは大自然のど真ん中を走行する。展望車のような車両が観光に着目されているのは今回のJR九州の「ななつ星」が証明してくれるだろう。
 昔はJR北海道もリゾート特急を走らせていたが、これに変わるリゾート列車を客車のバラエティを充実させ、牽引は北海道版の電気式ディーゼル機関車が行う。昔の蒸気機関車の時代に車両編成を戻すのだ。電化区間での電車は通勤通学用、加えて非電化の在来線は機関車で牽引する。
 現在の札幌−帯広間は確かに時間は短縮されたが乗り心地は悪化している。車輪がキーキーとうるさいのと石勝線がポイントが多くて揺れる。速度を落とせば乗り心地が改善される。スピード競争は航空機に譲り渡しても良い。
 その替わり列車を付加価値あるリゾート列車にして、乗車人数を増やして廉価な旅を提供する。そのためには、現状、技術的に使いこなせなくなったディーゼル特急車両と決別するべきだろう。
 電車になれば本州各地から客車を借りることもできる。冬の積雪時は駄目だが、夏のリゾート時期に日本縦貫列車なんかも企画できる。
 今、イノベーションを起こさなくては北海道の鉄路の歴史は閉じてしまうかもしれない。
 「東電は福島第一原発で、JR北海道はディーゼル特急で会社が無くなった」と後から言われないためにも。

button  JR北海道は発電車を開発してディーゼル特急を廃止せよ
button  TPPで日本のコメ(米)は国際競争力を持つ

ツイッターはここ Google+はここ


2013.07.16 Mint