リケジョの話(職場編)「魔女のキキ」
「魔女の宅急便って映画知っている?」
「あ、○○さんに誘われて何回か映画館で映画見ているうちに、映画が好きになって、映画館で見られない映画はDVDを借りて結構見ました、宮崎駿さんの作品も中にありました。「魔女の宅急便」は最初、佐川急便の宣伝かと思ったけど、何回か見て泣きました。あ、これって、私かもって感じて」
「そっかぁ。新作を映画館で見るのが映画通なんだけど、最近、君を映画に誘わなかったからなぁ、一緒に行く相手が居ないとなかなか映画館には行けないよなぁ。でもレンタルDVDは新作でも公開から半年くらいで見る事が出来るよな。
俺にとって君は「魔女の宅急便」の魔女のキキなんだ」
「え! 何時からですか? 私、その年齢に戻れない思って見ましたけど」(頑固なリケジョ)は驚いて答えていた。
「俺の前で「初恋」って言ったよな、君は俺の前では札幌に出て来た時に戻っていたんだ。人生はリセットできないけど、再チャレンジはできる。君は自分で気が付かないけど、すごく素直だった時期に戻ったんだ。それは、チャレンジする心を取り戻したってこと。北海道大学に合格して札幌で一人暮らしを始めて、色々な事に出会って成長していく。俺は魔女のキキが君だと思い込んだ。だから、3年もの間、心配だけど、自分で気付いて成長して欲しいと見守っていたのかも。積極的に俺が手を出したらすがってくるかもと思った事はあったけど、それを俺はキキには出来なかった。映画になる前に原作を読んでいたから、ま、札幌が都会かどうか知らないけど、そこに単身で出て来る女の子って俺が北見の大学で単身で寮に入った感覚よりももっと大胆で相当な頑張りと言うか覚悟があるんだろうなと原作を読んだ時にキキに感じていた。そんな女の子の頑張りに出会ったら支えてあげたいなと思っていたんだ。
実は、東京のホテルで、ベッドで一緒になって君の寝顔を見た時に、ここに魔女のキキが居るって思った。あれが無ければ、君を魔女のキキとは気付かなかった。あ、俺ってロリコンじゃないよ、勘違いしないと思うけど。それが、君が疑問に思っている俺の「好き」って意味なんだ。俺の事を軽蔑するかなぁ。前に「人間として付き合っている」ってコクッタ時に伝わらなかった気がしてるけど」
「私って、○○さんには魔女のキキだったんですか?」
「そう、悪女じゃ無くて、魔女。それも成長途上の未熟な魔女」
「私にとってどっちが良いのかなぁ?」
「俺は、魔女のキキとは恋愛しない」
「あ、そういう事ですか。もっと、前に知っておけば良かったのかも。でも、魔女のキキも卒業しますよ。私」彼女(頑固なリケジョ)は笑いながら不満の目を向けて来た。そして「そうだったんですかぁ」と言いながら、しばらく遠くを見るようにして考えているようだった、そして、また涙を流し始めた。今度は何時もと違う前を見据えた涙だった。泣くと言うより何かを知った涙だった。
「最後じゃないって言って10分でまた泣くかぁ」
「だって、私、今、失恋したんですよね。○○さんに」寿司屋のオシボリを流れる涙に当てながら彼女(頑固なリケジョ)は泣きだした。
「私、また恋愛できる人生には戻れないと思っていた。でも、少しづつだけど立ち直れたかなと思った。それは○○さんを恋愛の対象に出来るかなぁって考えていたから。でも無理ですよね。妻帯者だから。でも、最近感じているんです、妻帯者でも良いじゃないって割り切ってる自分。自分が好きになればそれが恋愛って感覚になれたんです。また、迷惑かけますよね。でも、そこまで強く成れたのは○○さんのおかげかなぁ。でも第一幕は失恋かぁ」
「何が失恋か解らないけど、俺は君を失恋させたって思ってないぞ。最近、ちょっと気になってたのは俺を恋愛の対象に考えてるだろう。それは無理だって解るよね、俺って妻帯者なのは事実だし。ま、君がそう思うのなら人生で最大で最高の失恋だ。それを糧にして生きられるだけ君は大人になっているはずだ。俺は、恋愛しないと言ったけど君を「愛してる」、それは恋愛より上の感情だぞ」
「私に対してですか?」
「君が、もすこし大人になったら解るさ。ここは泣く場面じゃないし」
「私、泣いて感謝してるんです。「愛してる」って初めて言ってくれた。その言葉を何年も待っていたんです」
「それは、君と違う感覚かもしれないけど、君が「好き」って言ってくれたお礼かな」
「そやって、はぐらかすしぃ。でも、私、失恋しても再チャレンジするくらい強くなったんですよ。覚悟しておいてください」
涙を拭きながら何処まで本気なのか、しっかり私を見ながら彼女(頑固なリケジョ)は言った。
実は「魔女の宅急便」は彼女(頑固なリケジョ)と付き合い(は、違うけど)始めた頃には公開されてなかった、原作は読んでいたが、映画になったのは付き合いが長かったからかもしれない。それくらい3年間は長かった。
彼女(頑固なリケジョ)を映画好きにしたのは私だけど、映画から学んだ彼女の感覚がスルドイので、お互い「魔女のキキ」のキーワードで会話ができた。
私は、何時の頃から彼女(頑固なリケジョ)を「魔女のキキ」と考えると全ての自分の行動が説明が出来ることに気が付いていた。彼女(頑固なリケジョ)にそれを伝えたいと思ったけど、それは彼女の立ち治り(彼氏の浮気のトラウマからの脱却)には関係ないと思って話した事は無かった。ただ、彼女が自分を「悪女」って定義するのは人生経験から解るけど、これからは魔女のキキになって欲しいと思っていた。表面の態度は演じれば良いけど彼女は基本的に素直な性格なのだから。
昼休みが終わる時間だったんで、おあいそして出ようとすると彼女(頑固なリケジョ)が「私が払います」と言い出した。「それって、俺が男として格好わるいじゃないか」と言ったら「挑戦の第一ラウンドです」と笑いながら言って会計に向かって行った。
「俺って、寿司では落ちないぜ」
「最初はジャブです。これから私の人生が、新しい恋愛に向かうのか、新しい仕事に向かうのか解りませんけど、両立させたいと思っています。これからは○○さんは「彼氏」ですよ」
「だから、俺はキキとは恋愛しないって言ったろう」
「私、そのキキも卒業してみせます。私、失恋から学べるシトになっているのが不思議です。それも、教えてくれたのですね。本当にズルイ、恋人のように扱いながら、子ども扱いだったんですね」頑固なリケジョの彼女は何かが「吹っ切れた」ようだった。
「誤解するなよ。君を子ども扱いした事は無いぞ。大人に成って大人の人生を歩んでくれればって何時も思っていた。今日は君の卒業記念日だよな。卒業証書を書けるの俺だよな」
「卒業証書はいりません。全部、私の心の中にありますから」
「そっかぁ、あと、今夜の送別会で俺の事話さないで欲しいんだよね」
「「二人の秘密」を私が話すと思っているのですか?」
「いや、変な集団が何かを画策してるらしい」
「女忍者ですか?」
「ま、別な世界なんだから、後味悪い話も残したくないなぁ」
「私、まだ○○さんにはキキなんだ。そんな心配は無用ですよ。信じてくれてもいいのにぃ」
「君の酔った時の目は100万ボルトだからなぁ、何か余計な事を言うなよ」
「安心してください、私を大人に育てたのに、○○さんは心配なんですかぁ。私が爆弾発言なんて無いですから、安心してください」
会社の入り口に戻った時に何気なかったのだけれど「2回も泣いたのに化粧が乱れてないのが、あの「ウォータ・フルーフ」って奴かぁ」と聞いたら「あの時の会話を覚えているんですね。うれしいです。今日は私、昼休み前に○○さんと食事するからと洗面所で顔を洗ってスッピン戻したんです。何となく、スッピンで話したら良いかなと思って。さすがですね、気が付いてました?」
「なんで?」
「思い出したんです、スッピンで会えるシト、○○さんだけですね。今日は最後になるかもしれないからスッピンで会おうと、昼前に洗面所で化粧落としのクレンジングしてきました。でも外れましたね。午後には、また化粧しますけど」
「君も「口説きのテクニック」を身に着けたじゃないか、こんな些細な事が大切なんだぞ」
「また、メモですね。でも「ウオータプルーフの化粧」って言葉、私からしか聞いたことが無いのに、何故、覚えているのですか?」
「スッピンの君を感じていたからかなぁ、それを君も感じたんだろう」
「ですね、さて、職場の戻りますから、ある意味でリセットします」
「俺って、何処かに君を抱きしめるタイミングがあったのに、逃がしたのかなぁ」
「そんな気持ちは、無いくせぇにぃ。ここから一歩進んだら職場ですよ。私、電話は何時でも連絡待ち状態です。キスは駄目ですけどハグしてくますか。私、一回も○○さんの体温を感じた事なかったですよね」
「出張の時にベットで感じたじゃ無いか」
「その時は、緊張してたから」
「じゃぁ、緩やかなハグ」
彼女を抱きしめたら体が震えていた、
「なんでぇ?」
「体って正直なのかなぁ、良く解らないけど体が○○さんを好きって言ってる」
「馬鹿、それは無理だって言ったろう」
「そうですよね。体温感じただけで、私、幸せになりました」
「「木綿のハンカチーフ」を待ってるよ、「スツー着た僕」の君から」
「どうして、私の言ったことを全部覚えているんですかぁ。少しは忘れてください」
「それが、好きってことさ。忘れないな、彼女って付き合いなら忘れたかもしれないけど」
「私の事、好きなんだぁ」
「自白するかな、いや、しない」
彼女(頑固なリケジョ)は今まで見たことが無い最高の笑顔で言った。何かが吹っ切れて大空に旅立つ鳥のようだった。
彼女の、いや、二人の「初恋」が終わった、と言うか、仕切り直した瞬間だった。
彼女(頑固なリケジョ)を傷付けないで送り出せるのは彼女の私との距離感が絶妙だったからだろう。それにしても3年間って彼女にとって長かっただろうなぁ。そこまでトラウマが消えるのに時間が必要だったんだ。
これから、どうやって付き合おうかなと思ったけど、冷却期間があって、彼女からアプローチが無ければ彼女は別な場所で幸せを掴んだのだろうから、それで良いかと思っていた。
男女の間には「別れる」って言葉があるけれど、彼女との間には「離れる」って言葉が最適だったのかもしれない。必要なら会って話をして、お互いに教え合って、必要が無ければ他人同士。そんな関係だから3年も続いたのかもしれない。恋愛関係じゃなくて友達関係って男女や年齢の差を越えて有るんだと彼女は教えてくれた。もっとも、社会的には「まれな」関係だったのかもしれない。
実は彼女の送別会が終わったであろう深夜に彼女に電話(当時だなぁ)をした。
「卒業おめでとう」
「やっぱり心配だったんですか、電話くれてありがとうございます」
「卒業式に「おめでとう」と言わないでごめんね」
「言ってますよ。本当、ありがとうございます。なんか、電話来るかなと思って、遅くまで起きてました」
「おめでとう、送別会が終わって、また大人の階段を登ったな」
「〇〇さんの居ない送別会でしたけど」
「俺は」言葉に詰まった
「何ですか?」
「俺も君から卒業するのかなぁ」
「何ですか? 今までと逆みたい。私はしっかり卒業できると思っているのに○○さんは卒業出来ないのですか? 二人の卒業式だと思いませんか、私、3年間の私を卒業しました、ある意味で○○さんとの恋愛は無理と言われたら納得できる大人になりましたよ」
「そっかぁ、逆に俺が甘いのかな」
「私、○○さんにしか言わないけど「大好き」です」
「なんで?」
「初めて知ったんです。私を大切に思ってくれる人が居るってこと。最初に「おとうさんと呼んで良いですか?」って言ったのは正しかったんですね。あの時は、変な意味だけど「これからも付き合ってくれますか」って甘えた言い方だったんだけど、それ正解だったって今、改めて解りました。今思うと、私にとってすごい決断の言葉だったんだけど、何故、そうなったのか解らないです。たぶん、普通の言葉で言うと「付き合ってくれますか」みたいだったんでしょうね」
「なるほどなぁ、でも、その時にはすでに君は魔女のキキだったから」
「私、今日のお昼に言われて気が付いたんです。○○さんにとって、この3年間私は何時も魔女のキキって思ってくれたのですね。手も握らない男女の関係を体験できたのも私を魔女のキキと思ってくれていたと考えると納得できました」
「それが、卒業式かな」
「もう、電話くれないんですか?」
「会社の電子メールは知ってるよね。もし、何か連絡したければ、そこに電子メールして来いよ。立派な大人の女性になった君に妻帯者が深夜に電話するなんて、本当は変なんだよな。でも、今までは「おとうさん」からの電話だったけど、卒業した君には電話するのは駄目かもな」
電話の先で嗚咽する声が聞こえた。
「なんだ、まだ、大人になってないのか?」
「卒業って、こんな事なのでしょうね。私、○○さんの期待を裏切らないように頑張ります。大人になった私を見せられるように明日から頑張ります」
「今からと言えよ。電話をしたのは、本当に君の卒業が嬉しかったからなんだ」
「私、○○さんと不倫って落ち所もあったのかなって考えた事もあるのですけど、それを許してくれなかったですね。何故かなと考えたんですけど、大人になれって言ってくれたのでですね」
「おいおい、電話だから大胆過ぎるぜ。それは君の決断だ。君は恋愛が解るようになった、ま、昔の感覚なら不倫もあったかな? そう考えないのは君が恋愛で大人になっているからかな」
「ありがとうございます。私、たぶん人生で一番貴重な3年間を職場の同僚って関係だったけど出会えて貴重な体験しました」
「職場の同僚だけかい!」
「何て言ったら良いのですか?」
「おとうさんかな」
「そうやって、はぐらかしますね。私、大好きな人に巡り合ったと思っています。ただ、残念だけど妻帯者だった。もし、○○さんが独身なら私と結婚してくれますか?」
「究極の選択かぁ。たぶん独身だったとしても今の君にプロポーズしないと思う」
「そうなんですかぁ」
「あと、1年過ぎたら、君は精神的に立派な女性になってるよ。その時に独身ならプロポーズするな」
「まだ、半人前ですか」
「それが、良いのかな、人間は何時までも半人前って覚悟を持つ事かな」
「なんで、今日、こんな時間に電話してくれたのですか? 私、待ってたけど」
「うーん、おめでとう、そしてさよならって言いたかった。ある意味で仕切り直しだな。これが最後の電話だと思う。頑張って生きている君の応援団だから、エールを贈っておきたかった。それと「彼氏でも彼女でも無い関係」も見直しかな?」
電話の向こうからは新たな嗚咽の音が伝わって来た。
「大丈夫か? 頑張ろうよ、二人は「彼氏でも彼女でも無い」関係だから一生付き合えるぜ」
「ありがとうございます。私、気持ちの整理つけるのに時間がかかるかも。でも、今日は電話くるかもって思って待っていたのは当たりですね。私100%駄目だと知っているんだけど○○さんが好きなんです、それも卒業をしなくてはならないですね」
「俺を好きになったらゴールインだって前っから言っていたよね、良かったじゃ無いか」
「また、電話くれます」
「もう、電話しない。大人になったキミに教えることは無いから」
「それが卒業ですか、悲しいですね」
「それが「卒業」って言葉にある、悲しみと希望じゃないかなぁ」
「○○さんは悲しいですか?」
「思い出をありがとうって、感じかな。「彼氏でも彼女でも無い関係」って教えてくれてありがとう。君の旅立ちに出会えたことは良かったなぁ。だって、何時だったか、私にかわないでくださいって切れた事あったよなぁ」
「御免なさい。ありました」
「でも、その後で御免なさいって言った」
「覚えてますよ」
「それが、君が素直な性格だと知った時かなぁ」
「あ、たしかに、私、謝るって感覚が無かった」
「これから、誰に会っても、素直で居ろよ。その自分を知るのは大切だぞ」
「私、3年間で素直になってます?」
「なりつつある、かなぁ。でも。本当に素直は一部の人にしか見せないな」
「最初に、気が付いたいですね?」
「やっぱ、あのホテルの同室事件かなぁ「一緒に寝てくれると安心します」って普通の女性は言わないと思う。君は納得の尺度を言ったのだろうけど、実際問題としては「私、鍵かってトイレで寝ます」が普通じゃないかなぁ?」
「そうしたら、私ってどう感じました?」
「あ、仕掛けだったの?」
「違います、○○さんが頼れる人かどうか試したってのは本気ですけど、試して良かった」
「変な話しだね。試されたのかなぁ」
「私、あの時は人間不信になっていたので、「どうにでもなれ」っての有ったのかなぁ」
リケジョの話(職場編)「涙の再会」
その彼女(頑固なリケジョ)と3年程過ぎた頃に冬の夕方の大通公園で偶然出会った。
「あ!」と言ったら「あら、偶然ですね。でも、今日はお付き合いできないですよ。私、別な道に居るみたいですから」「そっかぁ、それも人生のすれ違いかぁ。どっちに行くの? 少し歩きながら話そうか」と言ったら「どっちに行くって言っても、俺もそっちに行くんだって言うでしょう。いいですよ、地下鉄駅まで。
男と女って急接近もあるし、徐々に近づいてくるのもありますね。私たちって言って良いのかなぁ、私と○○さんって徐々に近づいて長かったけど、アッと言う間に離れましたね」
「それも3年もの間だったから変な関係だったなぁ、お互い、あの当時と環境も違うからな。でも、あの当時の感覚は今でも覚えているよ」
「それ大切にしてくれるのが「おとうさん」でしたよね。ありがとうございます。その後に沢山教えてくれましたよね。前のクイズ覚えています。私、今の旦那にも話してません。「二人だけの秘密」って大切なんだと教えてくれた。それを体験できた。楽しい時代だったのかも」
「楽しいかぁ、過去を「楽しい」て言えるのは、今が幸せだからかな」
「そうかも、でも、そこに導いてくれたのが「おとうさん」ですよ」
「そっかぁ、少しは良い事もしてるんだ、俺って。でも、それが君を苦しめているのは感じていたんだけど、どうにもならない関係だったからなぁ」
「私、今を大切にするタイプで、未来を考えるタイプじゃ無いんです。ただ、最近は思い出を大切にするタイプになりました。もし、あの時に私を抱いてくれたら私の人生はその時は、また男にすがってと悩んだかもしれないけど、それからのお付き合いを考えると、私には最高な人生を得ていたかもとも思っています。でも〇〇さんの人生を壊したでしょうね。私、あの時に最高に好きになったんです○○さんを。弱かったのでしょうかね、でも、私って弱い時に助けてくれる○○さんに出会えたのは何故かなぁって今でも考えているんです。
しょうがないのかなぁ、私、好きになってはイケナイ人を好きになったから。でも、「好き」じゃなくて「愛してる」って一回だけ言ってくれましたよね。それは私が求めていた答えと違ったんだけど、無理でしたよね。函館から帰った時、アパートまで送ってくれた後に○〇さんが、私を警戒して部屋に来てくれないのかなぁと思いながら車を見送ったら、テールランプが5回光ったのを見て、あ、私は○○さんを悩ませていると解った。でも、もう少し悪い女で居させて欲しいと思った。あの頃、まだ、私、立ち直ってなかったから」
「伝わったんだぁ。それが最後に退職する時には「仕留めてやる」だもんなぁ。回復して良かったなぁ。でも、会社を辞めても、悪女路線は演じていたんだ」
急に彼女(頑固なリケジョ)は歩くのやめた。私は先に進んでしまって振り返ったら正面から向き合うような形になった。彼女は口を開けて驚いた表情だった。
「あ、旦那との事を知っているのですか?」
「この業界は狭いからね。噂は流れて来る。でも、それで君が幸せなら良かったじゃないか。おめでとう」
「それを、知っていて、私を嫌いにならないで、認めてくれるのですか」
「ああ、生き方は個性だからな。それに俺が知恵を付けたようなもんだから。妻帯者好きにしたのは俺だしなぁ。頑張った結果だから良いんじゃないか」
「あ、やっぱり知っているんだ。それでも私を嫌いにならないんですね。そうなんですかぁ、今日、会えて良かった。私、○○さんに、合わす顔が無いと思って過ごしていたから。違ったんですね、知っていたのですね。それでも嫌いにならないんですね。これ以上、話したら私、泣く。昔から私、泣き虫なんです。そこまで私の事を知っているなら、何故「何やってるんだ」と怒らないのですか」
「そうだなぁ、君が好きだからかな」
「全部知っているのに、私の生き方を認めてくれるのですね、本当に言葉じゃ無くて心で「ありがとう」を言える。あの「おとうさん」に抱きついて泣くって権利は今でも、ありですか」彼女は泣きながら言った。
「無いな、不幸だったら抱きついたら受け留めるけど、大きいか小さいか知らないけど今が幸福なら俺に抱きつく意味が無いだろう」
「私、本当に今、幸せなんでしょうか?」
「前に言ったよね。人生の主人公は自分しか居ないって。自分の生き方に素直な君で良いじゃないか」
「なんで、そんなに私の行動を許してくれるんですか? 私、○○さんにも悪い女だったと思っていました。自分の我がままを沢山ぶつけてましたよね」
夕方で暗くなって、たまたま地下鉄の駅への裏で人通りは少なかったけど、遠くから、なんだあの二人はとの視線は感じた。
「声を大きくするなよ。泣いてるの、まわりから見られてるし。それは俺が君を「好き」だからって前から何年も言い続けてるよね。俺って悪女好きなんだ。単純な話」
彼女を見たらまだ涙が止まらない。公共の場で泣いたり抱きつかれたりしたら困ると思った。「あの、私たちって言ったら迷惑かもしれないけど、あの時には無かったけど、手を握って良いですか」と言われてた。
「握手じゃなくってかぁ。ああいいよ」と言ったら下げていた左手を両手で握って胸の前に持って行った。そして、その私の左手を自分の右頬にあてて目を閉じている。手が震えていた。閉じている目から流れている涙とその前の涙が彼女を顔を伝っていた。彼女のためにハンカチを出して涙を拭いた「何時でも用意周到なんですね。先を読むのは○○さんの口説きのテクニックですね。ハンカチ何時か帰しますから、もらって良いですか」と泣き笑いをした。「ハンカチなんかじゃないだろう。また、会えるよきっと! お互いが「好き」なら」と彼女の両頬を両手で挟みながら目を見て話して、そこで手を離した。キスしようかと思ったけど『人妻に手を出すような男になるな』って昔の大学時代に付き合っていた彼女の言葉を思い出してやめた。
「そうですね、また会うときには私、泣かないだけ大きく幸せになっています」
「もう、俺の前で泣くなよ。前に言ったろう俺って君の「応援団」しか出来ないんだから。応援団は選手に感動して泣くことはあっても、選手は勝って泣くんだ。もう少し頑張れば勝つ人生になるさ」
「〇〇さんが、時々、グランドに降りて来ることも、もう無くなりましたね」
彼女はお見通しだったんだろう、私はキスしないと読まれていたのかも。
彼女は「ありがとう」と言って背負向けて去っていった、ただ、背中を見せ歩きながら右手を上げて5回、手のひらを開いて合図してくれた。
それは「ア・イ・シ・テ・ル」の合図だった。どんな「愛」を彼女(頑固なリケジョ)が感じたのかは解らなかったけど、たぶん「愛してくれて感謝」ってサインなのだろうと受け留めた。
『二人だけの秘密かぁ』
あの時の合図がショックだったんだろうなぁ。誤解している面もあったけど、彼女(頑固なリケジョ)はセカンドで恋愛するなんてのが出来ないプライドがあったのだろう。ま、私もセカンドを作る気は無かったけど。それでも3年間も付き合っいたのは彼女も私が「好き」だったからだろうなぁ(自分勝手な解釈だけど)。
『今度は俺が送る番かぁ、ま、それが一番良いのだろうなぁ』と人ごみに隠れていく彼女をずっと見ていた。見えなくなっても影を見ていた。
そのすれ違いが最後だった。今、大きく幸せになったので再会のチャンスが無いのだろう
今は「魔女のキキ」はDVDの中にしか残って居ない。
リケジョの話(頑固なリケジョの職場編) 完