リケジョの話(頑固なリケジョの職場編)(7))



リケジョの話「最初で最後の昼食」
 前作の続編です。
 朝礼で彼女(頑固なリケジョ)の退職の挨拶があって、恒例の当時の会社のシキタリで、彼女(頑固なリケジョ)は各部署の上長に個別にあいさつ回りをしてくる。ま、そんな時代だったんだけど。私の所に来た時に、彼女は大きな声で「沢山、沢山、お世話になりました。今日で退職しますけど、これからも、沢山、沢山、よろしくお願いします」と頭を下げてきた。涙声だったのに気が付いた社員も回りに居たようだった。
「おい、沢山って、やめろよ。皆が聞き耳立ててるぞ、しかも泣くなよ。二人だけの時だけ泣いてもいいけど」と小さな声で言ったら更に続けて「それと、今日のお昼、ご一緒しません? ありですよね?」とこれまた大きな声で言う。
 
 職場の机の配置で私の部署のシマの周辺は直属の部下なので上司として彼女(頑固なリケジョ)の前でオロオロする姿勢も見せられない。二人の関係を知っている部下と疑っている部下と無関心な部下が居たから。
 だから、彼女が「ありですよね?」なんて私に言う場面を見て驚いている社員も居た。常日頃「仕事中は、ため口で話すな!」と怒っていたので、怒鳴り返すと思ったらしい。私は『職場で話すのは、ひさしぶりだなぁ』と妙な所に気が行ってしまった。
 私の部下の中の数人の女子社員には彼女(頑固なリケジョ)が誤解されないように説明していたこともあって、二人の間を理解していた。ただ、多くの部下は疑っているのは解っていた、理解してる数人の女子社員たちは部署が違う二人の関係を「あの、仲よしの二人」なんて揶揄していたらしい。それが「羨ましい関係」って飲み会で言ってくる子も居た。
 そんな女子社員に飲み会で「俺って変だと思われてるのか?」と聞いたら「変ですね、でも何故彼女なんですか? 私、あまり彼女の生き方に賛同できないんだけど、何故、男性が引かれるのが不思議です」
「男性って、俺だけじゃないのか? 複数なのか? ま、それが彼女の魅力なのかもな、男女の関係って複雑なんだなぁ、時間と空間の合致だんだなぁ、1年  たぶん、「二人の秘密は知ってますよ」って女性特有の反応なのかもし違ったら無かった関係かも。実は職場では正しく(も、変だけど)二人の関係を知っていたのは一部の女子社員だけだった関心が無かったか疑っていた。特別にそうしようと思わなかったけど、職場とプライベートは分けるって彼女(頑固なリケジョ)のスタンスを大切にしていた。だから、職場で声を掛けられるのはひさしぶりだった
 
 プロジェクトを組んでその仕事が完了してから、彼女(頑固なリケジョ)と職場で話すことも彼女は避けていた。職場とプライベートを割り切る彼女の中では私はプライベート側に居たのかもしれない。だから、彼女(頑固なリケジョ)の秘密のサイン(辛子色のセータや辛子色のヘアバンド)か、夜に私から電話して連絡を取り合って会っていた。職場の近くで一緒に歩いているのを見られたくなかったので、落ち合うときは地下街のブックセンターとかにしていた。
 ブックセンターでウロウロしていると、すっぽかされた事も何回かあった。ウロウロ歩き回って「居ないのかぁなぁ」って時に当時はスマホなんて無かったので公衆電話で彼女(頑固なリケジョ)に電話して「今日は来ないのか?」と聞いたら「ちょっと気分が乗らなかった」なんて言ってくる。「そっかぁ、ま、いいけど」と電話を切った。
 彼女(頑固なリケジョ)が気分じゃ無いなら、あえて会って話そうとは思わなかった。その後に彼女が言ってきたのは「約束したのに、すっぽかした我がままな私を嫌いにならないのは何故ですか」って話だった。男女の関係に行き違いは沢山あるし、すっぽかされても気にしないってのが私の感覚だった。別に気にしていないと言ったのだけど、妙に我がままして申し訳ないって彼女(頑固なリケジョ)は感じていたらしい。

リケジョの話(職場編)「結婚式発起人」
 何回か、結婚式の発起人代表(北海道では結婚式の披露宴を職場で発起人会を作って、会費制で行うのが慣例だった)を頼まれたのだが、その時も部下の結婚式の披露宴なので引き受けた時があった。新郎新婦が決めた発起人グループの名簿に彼女(頑固なリケジョ)の名前が入っていた。
 久し振りの職場での共同作業だったのだが、時間外に職場のパソコンで参加人名簿とか作っている時に彼女に言われた。「何かの罰ゲームですかねぇ。私、悪女なのに、発起人引き受けてくれないかって言われたんです。私と○○さんの関係を知らないで、新郎の彼は会社の幹部になれるのかなぁ。社内情報すら把握していないかも」って笑っていた。
 この話には裏があって、彼女の昔の彼氏の妹が私の部下になっていた。彼女が入社してすぐに、資料整理のアルバイトが必要な仕事があって「知ってる子が暇してますから」と連れて来たのが彼女(頑固なリケジョ)の昔の彼氏の妹だった。
その後、正社員として採用したのだけれど、縁故採用みたいな経緯もあって、職場では「触らぬ神にたたりなし」の感じで「じゃぁ、俺の部署にくれ」みたいに何時もの無鉄砲な反骨精神で来てもらった。実は優秀な子で、少しのアドバイスで仕事のやりかたを理解して、気配りにも優れていて、職場の人気者に育っていた(実は、私は彼女の変わり身が上手なので「女忍者」と揶揄していた)。前に書いたパソコン通信の「お嬢様社員」(世が世なら、兄嫁)の話は、当時、パソコン通信の業務を共同で分担していたので全部知っていた。そして、二人(自分の兄と彼女(頑固なリケジョ))が別れた原因、そして兄がその「浮気」の彼女と結婚したのも全部知っていた(ま、当然だけど)。
 微妙な関係の二重奏で、本当の部下は、部署違いの彼女(頑固なリケジョ)の昔の彼氏の妹って状態だった。ただ、彼女(妹の彼女)は会社の飲み会の時に「○○さん(頑固なリケジョ)を大切にしてあげてください。私、と言うか私たちは彼女を傷つけたんです。どんだけ彼女が傷ついたかは私は同じ女性として解っています。でも、○○さんが支えているんだって解った時に安心しました。悔しいけど」
「悔しい? なんでぇ?」
「直属の部下より彼女(頑固なリケジョ)が好きなんですね。私、○○さんは意識してないでしょうけど、いちおう女性なんで、嫉妬です」
「そっかぁ、失恋上手の女忍者と失恋ベタの悪女の世界かぁ、ここの職場は」
「それ、私に何時も言いますね。彼女ほどの配慮が私には無いんですか?」
「失恋上手は飽きっぽい証拠。バレンタインでチョコを贈った相手とはクリスマス・イブまで続いたことが無いって、逃げ足が早いのは女忍者。当たってない? 失恋上手は自分が変われば上手く行くから、俺には関係ないっしぃ」
「それって、彼女の口癖ですね。悪女に騙されてるんじゃないですか?」
「俺がかぁ? 君は、まず、失恋上手を卒業する事だな。逃げるのは簡単、だけど、向き合うのは覚悟が居るんだ。俺って、覚悟を彼女(頑固なリケジョ)には感じた」
「私にはどうなんですか?」
と聞かれて、返事に迷ったけど、「彼女はラッキーなことに、部下じゃなかった。君はアンラッキーなことに部下だってことかな」
「駄目な女なんですね私って、どうしたら良くなるのか、私には教えてくれないですか」
「「彼氏と彼女の関係じゃないっしぃ」てのが解るのは難しいかなぁ!」
てな事があって、実は彼女(妹のほう)が名簿に彼女(頑固なリケジョ)を推薦して入れていた。
「何故そんなこと?」と聞いた時に彼女(妹のほう)が「結婚式の発起人やったら、少しはこっちの世界に戻ってくれるかなと思ったんです。私の何時もの『小さな親切、大きな、お世話』かなぁ」って経緯があった。
 
 結婚式の披露宴の出席者名簿のチェックしながら、彼女(頑固なリケジョ)にその話をした。
「彼女が職場に居るってことが私の重荷だって知らないのでしょうね。それはそれで無邪気で良いと思うけど。あの、函館の時の話を社長に告げ口したのは彼女なんですよ。しかも、私の事を「彼女(頑固なリケジョ)も浮気してるじゃん」って触れ回ったんです。私、悔しくって泣きました。だって、彼女の理解は、東京のホテルで、お互いを信じ合えたって話を知らないで、単に函館の話ですよね。彼女(妹の方)は、一部だけしか知らないで報告したんです。さっきの「安心」の話も、職場の上司に良く思われたいから、方便ですよ。たぶん、私から○○さんを引き離そうとしてたのかなぁ。いろいろ、悪い噂を作って流していたんですよ。私が○○さんと付き合っていたら会社に居られなくなるなんて言われて。でも、私、○○さんを信じていた。正解でしたよね。それも含めて、私は彼女を許さないですから」
 ちょっと意外な真実にとまどったけれど(彼女(頑固なリケジョ)は嘘をつかないと信じていたから、職場の人間関係ってイロイロあるなぁと意外だった)「それは、考えすぎじゃないか、何でか知らないけど、引き離し作戦は失敗だし」
「私にも紹介した責任あるけど、○○さんにも職場で部下を育てる責任がありますよね。なんで、私と違って何時も職場で楽しくやってるんですか?」
「部下だからかな。俺にとって、大切さが君とは全然違う!」
「お得意の口説きのテクニックが出ましたね。○○さんが彼女(妹の方)より私が好きなんだって安心しました」彼女(頑固なリケジョ)は笑っていた。
「なんか、大人になったなぁ」と答えたら「少し、男性を扱えるようになったしぃ」と何時もの口調で言ってきた。
彼女が退職する予定ですと手紙をくれた半年ほど前の出来事だった。
 
 ま、結婚式の披露宴はそんな裏話とは関係なく盛大に終わった。実は新郎は部下だったけど手こずった部下なんだけど今は社長やってる、彼女(頑固なリケジョ)の感性は鋭いなと後年感じた。それと彼女(妹のほう)もしたたかだなぁって感じた。女性不信じゃないけど、物事には裏と表と両方の情報が無いと実際の事は解らないなと勉強になった。その意味で私は彼女(頑固なリケジョ)に少し盲信的だったのかもしれないが、それが「好き」ってことなんだからしょうがないのかな、と自分でも理解していた。
 その結婚式の披露宴の発起人の仕事以外に、職場で会話したりは無かった。もう、二人の関係は職場繋がりを離れていた。たぶん、職場で会話したのはひさしぶりだった。
 
 そんな職場のイロイロな事がフラッシュバックして、あ、ここは職場なんだと思い出し、仕切り直して「たくもぉ、最後のタカリかぁ、ふんぱつして寿司でも食うか」と周りの部下の社員に聞こえるように彼女(頑固なリケジョ)に答えておいた。
 仕事の延長線って感じじゃ無かったので会社の近くで二人で昼食なんて事は無かった。そもそも、職場の昼休みって、気分転換なのだから、あまり社員と一緒に行くのは好きでは無かった。ただ、上司と部下のコミュニケーションの「お仕事」って感覚で部下を誘って出かけていたけど、彼女(頑固なリケジョ)は、そのグループには入っていなかった。

リケジョの話(職場編)「別れの昼」
 残念ながら「別れの朝」では無かったけど、全てに吹っ切れた彼女(頑固なリケジョ)と、これからの話をした。職場って枠からの彼女の旅立ちだった。
 近くの夜に会社で客先の一次会の接待に使うような高級な寿司屋の小上を予約して彼女(頑固なリケジョ)と二人で座ったのだけれど、遠くのカウンター席(たぶん、ランチ・メニューだろう)に2,3人の好奇心旺盛な女子社員が来ているのが見えた。
「また、一緒に仕事出来たら良いですね。たぶん、退職したから逆にチャンスが増えるかも」
「一緒に出張とかの仕事か? それはもう無いだろうなぁ。なんでかなぁ、あんな仕事が有ったのは。運命としか思えないんだなぁ、今でも」
「そうでしょうね、もし、今度また一緒に仕事する事があったら、いろいろ教えてください。よろしくお願いします。私、もう「横で眠ってくれたら信用する」なんてシトでは無くなりましたから。不思議なんです、そんなの一番危ないですから」
「危ないかぁ 最近は俺を恋愛の対象の男として意識したのかなぁ? もし、あくまで、もしだけど、あの時と同じ場面が今起きたら、同じ行動するけど、翌日の朝に俺に「イクジナシ」と石を投げて来るだろうなぁ、今の君は」
「そんな事しません。ただ「もう一度、やってみますか?」とまで私は言えるようになったかもしれないけど。たぶん、しないでしょうね」彼女(頑固なリケジョ)は探るような目を向けて来た。
「あの時はお互い中学生感覚だったのかなぁ。ただ、最近、初恋と告白されて色々悩んでさぁ、少し冷却期間も必要なんだなぁ」
「私にですか、○○さんにですか?」
「俺だな! 「初恋です」なんてコクラレテからナーバスになってるから」
 向こうのカウンターの女子社員達が私の正面なのも気になる、あの中に「私、唇の動きで他人の会話が読める」なんて「お前は、女忍者か」なんて妙なヲタクも居る。もっとも、才能はあるんだけどコンタクトしても視力は1.0って弱点もあるんだけど。折角特上の寿司を頼んだのに食べても味を感じなかった。
 
「私、普通の子と違うから、変な提案かもしれませんけど、別れの、いや再出発の握手しませんか? 思い出作っておきたいんです。一つの区切りですよね。今度会うときは初恋じゃなくて恋愛だって切り替えるために」
「昼間にかぁ、ま、いいけど。たぶん、俺は君とは恋愛しないと思う。嫌いだからじゃない、好きなままで居たいから。初恋は成熟しないって君も知っているだろう」
「知ってます。だから、切り替えたいんです。私、職場から卒業します。だったら、○○さんを「彼氏」にする権利が生まれますよね」
「権利かぁ? 君らしくない事を今日は言うなぁ」
 彼女(頑固なリケジョ)はテーブルの上から手を伸ばしてきた、その手を握り返したら強く握り返しながら涙を流し始めた。カウンターのスズメたちが「おぉ!」って言ってるのが聞こえた。
「俺の前で何回も泣くなぁ。これが最後かなぁ」
「御免なさい、私、泣き虫なんです。最後なんて、さみしいいこと言わないでください。私、これからも何回も○○さんの前で泣くことが、あるような気がします。
今夜の私の送別会に○○さんが出席しないって聞いてたので、何故なのかなぁって気になっていたんです。私の送別会って嫌ですか。私は○○さんと別れる気持ちは無いですから。最高の欠席ですね。私も同じ、一番、私の送別会に出席したくないのが私なんですから。私、○○さんは欠席って聞いた時に、本当は送別会で社員である最後に話がしたかったんです。でも、欠席じゃぁ、お昼しかチャンスが無かったんです。で、お昼食べに行きませんって言ったんです。
本当は送別会の後で何時ものように「飲むか?」って聞いてくれるだろうなと思ってました。何時ものグランドホテルのバーですよね。その時に私、悪女っぽくなって、ギムレットを飲みながら言おうと思ったんです、背中を押してくれてありがとうございますって」彼女(頑固なリケジョ)は涙を拭きなが言った。
「送別会欠席の件は、君が気にする事じゃ無いな。社員に的確な仕事を与えない会社の責任ってのに抗議のつもりだから。社長に「お前、送別会に出ないって何考えてるんだ、いや、何を考えてるかは解るけどさぁ、社員の手前も考えろよ。ま、彼女(頑固なリケジョ)はお前には特別なのかもしれないけどな」と言われたけど」
「そこまで、気を遣ってくれたんですか?」
「そのメッセージは、あそこの奴らににも伝わったかな」顎でカウンターの女子社員を指したら彼女(頑固なリケジョ)は振り返って「あいつらぁ!」と小さく呟いた。スズメ達は慌てておあいそをして出ていった。
 
「また会うことがあったら、私、○○さんを仕留めてやる。って心意気ですよ」
「まだ、時間がかかるかな。楽しみにして待つけど」
「私、悪女志向だから、その時は手ごわいかも。本当は○○さんより素敵な人を見つけたいなぁと思っているんだけど、○○さんもリストに入ってますよ」
「リストねぇ。その話は昔に聞いたような気もするけど。ま、昼間に話す話じゃないけど、最初にチャンスが有ったのに抱かなかった女性に、あ、やっぱり考えが変わりましたって抱くような男では無いからな、俺は。好きなんだって伝わらないのかなぁ」
「解ってます。でも、さっき握手して「戦闘開始」ですよ。私、やっぱり「好き」より「愛してる」が欲しいんです」
「俺からか?」
「限りません、誰かからです。それを受け入れることが出来るようになったのは○○さんのおかげですね。誰かが私を「愛してる」と言ってくれる、ま、居るかどうか解らないけど、もしかしたら居るかもとワクワク出来るまで精神的に回復したんです、今の私。そこまで私を育ててくれたと言うか、守ってくれた、それが○○さんとの3年間だったのかなぁ。私が初恋って言ってショックでしたか? でも、本当なんです。初恋して生き方が変わったんです。そして、それ以上の関係になるには一度リセットが必要ですよね。退職でリセットできたかも」
「大人になったなぁ。それも悪女な大人に。これからは恋愛の対象はハードル下げた方が良いと思うよ。俺くらい君が好きな男はこの世に居ないだろうから」
「また、口説きのテクニックですね。いちおうメモしておきます」彼女(頑固なリケジョ)は涙を拭いてまだ涙が残って居るキラキラした目で見つめて来た。何処まで本気なのか、職場での最後の日なので大胆なのか解らなかったけど、この3年間のお互いの集大成みたいな感じだったのか。
 
 当時の会社では退職する社員は有給休暇を消化して、空白があって、あ、そうだったんだって朝礼に来たけど、彼女(頑固なリケジョ)は仕事が一区切り付くまでと引継ぎが終わったのが退職の時だった。退職する最後の日まで出勤していた。
「私、言いたいことが言えました。ありがとうございます。私、どうしても素直になってしまいますね○○さんの前では」
「「仕留める」が素直かぁ? 素直なのか悪女なのかは変わらないなぁ。一つ、アドバイスだけど、もし俺を恋愛対象にしたら、3年間のリハビリは吹っ飛ぶぞ」
「知っています。だけど、私、これからは男性を見る標準を設定しないとね」彼女(頑固なリケジョ)はいつもの探るような笑いで見つめて来る。
「標準かぁ? 俺は君にとって越えるべき目標の新記録だろう?」
「昼間なのに、口説きのテクニック炸裂ですね。そんな○○さんが好きなんです」
「え? 君から「好き」って言われたのは初めてだよ。この3年で。なんでぇ? 俺は100万回くらい君に好きって言っていたのに。初恋は「好き」だけど、それを始めて言葉で言ったなぁ。ま、俺が男性の標準でもいいけどさぁ」
そんな、話をしながら、二人で話す機会は最後になるのかなと思っていた。それは、彼女が「恋愛をしたい」と思ったから。私とでは無くて、男性不信から立ち直ったのは良かったけど、なんか、まだ、危うい感じもした。
 
「君と、いろいろな事を話したよね。最初の頃の君は幼かった。特に恋愛については中学生並みだった。人を好きになる事も、人から好かれることも知らなかった」
「え、何の話ですか」
「昔話さ。3年前だから君は25歳だったよね。俺にはとても25歳の女の子には見えなかった。それを君は初恋を知らないと言ってきた。何となく解ったんだよね、失恋下手なんだって」
「あ、その話はしたくないです。昔を思い出したくないですから」
「今の話なんだ。君は3年の間に成長して中学生レベルの恋愛感を28歳の今まで押し上げた。それが、大人の階段を登るってことなんだ。年相応の恋愛観を持てるまでになった。立派だよ。3年で大人になった」
「私、大人の恋愛できるんですか?」
「出来る、保証する。保証は相手次第だから変だけど、君は、そろそろ、俺が「俺の事を覚えていて欲しい」って言うまでになったかなぁ。さっき、初めて俺の事「好き」って言ったものなぁ」
「あ、言いました? 自然に出ました。そろそろお別れなんでしょうか?」
「いや、今までと同じ。困ったら相談に来いよ。困らなかったら、それは君が幸せを掴んだって証拠。君が立ち直って、幸せを掴んだって風の便りに聞いたら、それは、それで俺は、いいのさ」
「欲の無い淡白な性格なんですね、○○さんは」
「君に何か求めたかなぁ、君に対して有った『欲』は、早く大人に成って素敵な人生を歩んで欲しいって感覚。だから、君の言うように「彼氏でも彼女でも無い」関係だったんだ。ただ、君は大人の階段を登ると俺を恋愛の対象として見だしたのは感じてたけど、それって、違うと思う。俺は「初恋の人」でゴールなんだから」
「私、今日はちょっと変ですね。自分でも解るんです。少し落ち着きます」
彼女(頑固なリケジョ)は、お茶をすすりながら、目の焦点が合わない感じだった。何を話したいのか彼女自身が迷っているのだろう。
それは、彼女の表現力の弱さなんだけど「感謝」って事を伝える手段が解らないって感じだった。直球で「ありがとう」と言えば済む話が、彼女(頑固なリケジョ)には人生経験もマダマダだったので、巧く伝えられないってモドカシサが有ったのだろう。でも「好き」と口を滑らせた時に気持ちは伝わって来た。
リケジョの話(頑固なリケジョの職場編(8))最終章に続く

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2019/12/24
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