福知山線の列車事故に見る報道姿勢のレベル

鉄道研究所のコメントは誤り
 自称も含めて沢山「鉄道研究所」は沢山あるので、何処の誰が発言したか正確に伝わらないのだが、『片輪走行になって急ブレーキを使えば、車両を反時計周りに回す力が働き、カーブの外に押し出される』は明らかに間違いである。
 自動車のような四輪であれば片輪走行時にブレーキを踏めば片輪側に回されるが、21mもの長い車体を4輪台車二つ以上で支えている列車には適用されない。片輪状態で急ブレーキを使えば脱線を助長するあたりが的確なコメントだろう。カーブの外側に向かうモーメントは発生しない。
 こんな情報がNHKや朝日新聞で流れる事が最近の報道のレベルだろう。内容を考察してチェックする体制が未整備なのだ。何でも現場で入手した情報がそのまま垂れ流される。
その典型がNHKと朝日新聞が揉めている「NHK教育放送の事前政治家検閲(ま、政治家だから特別国家公務員な訳で、国による事前チェックを呼んでも良いだろう)問題」だ。朝日新聞の勇み足であるが、安倍晋三氏や中川昭一氏に夜うちかけて言質を引き出したって現場の情報をそのまま誌面に掲載したのだ。
 同じように、JR西日本の「置き石説」もそのまま流れたし「133km以下では脱線しない」も垂れ流された。
 ワイドショーなどでは個人の「鉄ちゃん」の意見が事故への公式見解のような扱いで報道されている。ドラマなどで「実在の団体や個人とは関係ありません」と最後にコメントが流れるが、それすら無い。まったく「鉄ちゃん」の個人的見解が放送局がお墨付きを付けて国民に流されている。これではミスリードに直結する報道姿勢を防げない。
 そして、ボーリング大会から宴会への話へ展開する。乗車していて事故に遭った職員(2名)の行動は非難されるべきだが、当日公休を取ってボーリング大会を開催していたことはJR西日本の体質として糾弾される対象では無いだろう。何処の職場でもあることだし、非常召集が必要と判断すれば職務命令を出せば良いのであって、車掌区の事前に予定されていた親睦会までやり玉にあげるマスコミの姿勢は「オ−バーラン(笑い)」である。

NHKは「不祥事」などと呼んでいる
 5月7日の昼のニュースではJR西日本のボーリング大会やその後の宴会、支社長盃のゴルフコンペ等、JR西日本の用語で「不適切な事象」がNHKでは「不祥事」になっている。
 これも放送原稿作成時にチェックが利いていない事例だろう。言葉を大切にすべき報道の現場で「不祥事」って辞書もひかず己の感情の赴くままに起こした原稿がすんなりアナウンサーの元に届いて放送されてしまう。何時からNHKは裁判所になったのだ、JR西日本の「不適切な事象」の発表をその用語のまま伝えずに「不祥事」にしてしまう体質は何処から生まれているのか。それこそが「他人のふり見て我がふりり直す」行動に繋がらなければならないのだが。
 事故の後に職場の親睦会を自粛するのは自ら判断してこそ自粛なのであって、外部から自粛しろと強要されるスジのものでは無いだろう。また自粛する判断が行われないとしても「だから駄目なんだ」的な論調に繋がる論理性はどこにあるのか。まったくの感情論ではないか。それを報道が担うジャーナリズムを勘違いして、その勘違いに気が付かない体質に気が付かない。二重三重の悪循環を見せられる国民はたまったものでない。
 JR西日本に欠けているのは安全管理への認識の低さである。これについては100%、全責任がJR西日本にある。加えて危機管理のまずさ。これは安全管理への認識の甘さの延長線上にあるのだが、その危機管理のスキに付け込んで「ボーリング大会をしてたのは何事か!」と記者会見会場で食って掛かる記者も記者だと言うことだ。読売新聞大阪本社社会部の記者教育はどのようになっているのか。まったく「やれやれな奴ら」だ。
自分の「報道」(記事を書いて飯を喰う)のために危機管理が杜撰なJR西日本を踏み台にして、それがジャーナリズムなのか。家宅侵入したフォーカスの記者と契約カメラマンと同根なのだ。

報道機関により扱いが違う
 このあたりをNHKと朝日新聞を対比して見てみると両者の違いが鮮明なのに驚く。加えて他の報道機関と比べても朝日新聞の弱腰は特化している。先のNHK放送への政治家介入の誤報事件の反省からなのか、はたまた、同じ関西圏から出た企業同志ってことなのか、はたまた広告収入の面から大スポンサーを叩きにくいのか原因は分からないが、総じて朝日、毎日の関西系よりは放送局中心の在京の扱いが過激なミスリード傾向にある。
 例えば昨日のワイドショーでは「事故後のいっせい放送では事故の規模よりも、不通区間、代替輸送情報しか流されなかった」ってのがあって、それ故に職員は事故の状況を知り得なかった、情報伝達はどうなってるんだ的な論調があった。
事件記者じゃないんだから鉄道事故が起きて不通区間が発生した場合、なによりも駅に殺到する利用予定者に適確な情報と復旧の目処を伝えるのが会社全体として最優先になるだろう。もちろん、事故現場での対応ってのも必要だがこれは迅速に消防や警察に連絡を取り共同で対応する範疇だろう。事故が起きていない駅で何も分からずに待たされる客への対応方法が社内一斉放送の目的で何が悪いのか。逆に、警察への連絡が遅れた(無かった)ことも扱っているのだが、この件に関しては何もコメントしてない。まったく、感情論で垂れ流される放送(報道番組であれバラエティであれワイドショーであれ)にはあきれてしまう。チェック機構が働かないのはJR西日本に限ったことでは無く、報道機関も同じなのだから。

肝心の事故原因が解説されてない
 事故調査委員会の発表があったが、事故の証拠品集めすら途上なので損傷状態の説明に留まった。これを見て解説する解説員がほとんど居ない。先に掲示板に書込まれた情報からだが「事故専門委員は5人しか居ない」とNHKでは述べたそうだが、NHKの局内で事故調査委員会の証拠品を説明できる解説者は一人も居ないじゃないか。
 これは昔のNC-9の話だが、JAL123便の墜落に関して木村太郎氏の助っ人として柳田邦夫氏が到着したのだが番組の直前だったため、打ち合わせの時間を捻出することができない。その時間稼ぎに現場の記者に乗客名簿を10分以上読ませた事がある。現場の記者から「このまま名簿読んでて良いのですかぁ」ってそのまま流れたって伝説のニュースなのだが、木村太郎氏は「そのままお願いします」と声を出して直ぐマイクを切って打ち合わせを続けたらしい。
 こんな芸当はもう出来ないのか。放送が持つ「同時に多数への伝達」の機能を現在のスタッフの力量では発揮できないのではと危惧する。
 唯一、新情報として先頭から3両までは120km運転に向けてヨーダンパー(ショックアブソーバのようなもの)を後から付けた車両で、これが折れている。後ろの車両は120km運転に向けて設計段階で取り付けられてるとの情報があった。
 こんな情報は現場で取材すれば分かることでは無いのか。記者会見で与えられる情報だけで報道するから、こんな情報も入手できない。しかも、記者会見で「ボーリング大会なんてやっていて!」みたいな発言で記者会見を6時間もやらせる記者ってジャーナリズムって何か解ってるのかぁ? 議論してる真に足で調べろよなぁ。

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2005.04.30 Mint